2012年1月2日月曜日

韓流時代劇「風の絵師」第4話群仙図を見ました


4話 群仙図



 ホンドは、担いでいたユンボクを川に投げ入れます。
 ホンドは「気持ちいいか…馬鹿な奴だ…この間抜けめ…」と言って、岩の上に後ろ向きに座ります。
 ホンドは「皆切ってしまえ…手も切り足も切れ…お前の兄が可哀想だ…冠まで壊しおって…いい滝だな…」と言います。そして、川の中のユンボクを見ると、ユンボクの姿はありませんでした。ホンドは立ち上がり、川に近づきながら驚いて「おい…」と言います。
 ユンボクは、溺れて行く自分を感じながら、けがをした手を見ていました。そして、これで終わりだ…これでいいのだと思っているようでもありました。ユンボクの体が、川底に沈んで行きます…

 ユンボクは、ホンドによって医員の家に担ぎこまれていました。そして気を失い診察室に寝かされています。医員はユンボクの手の治療をしています。ホンドは医員に「大丈夫ですか…命は助かりますよね…」と聞きます。医員は「死ぬことはない…私の薬を塗れば二日で起き上がるさ…」と答えます。
 ホンドは「また筆は取れますか…」と聞きます。医員は「手が固まる前に…この様に握って開いて…これを朝晩に9回ずつ…東を向いてやれば、ほうきぐらい持てるさ…努力次第さ…大事なことを忘れるところだった…注意してくれ…この薬は…左から右へ回しながら塗ることだ…こうしてくれ…以前にわしの言うことをきかず、反対に回し…手が腐ったとか聞いた…」と言います。そして医員は、ユンボクのことを指して「ところで…誰だ?」と言います。ホンドが答えに詰まると医員は、手でホンドの胸をつつきながら「聞いているんだ…」と言います。ホンドは「痛いですよ…」と言います。医員は「痛ければ一緒にこれを塗れ…左から右へ…」と言います。ホンドは「ありがとうございます…」と言います。
 医員は、ユンボクの秘密について気が付いているようでした。しかしホンドは、まだ気付いていませんでした。

 ホンドはユンボクを連れて、インムンの家の前まで来ていました。
 ホンドはユンボクに「治るまで外出は控え、ここで過ごせ…」と言います。ユンボクは「私の事は師匠には関係ありません…いやです…」と言って、ホンドに反抗します。ホンドは「フン、どうやら水が飲み足りないようだな…その手をイルチェ様や兄に見せる気か…」と言います。ユンボクは目を合わせずに「これが何の役に立つと?…師匠にも行くべき道がある…図画署には戻らないので、師匠とは呼ぶ必要がないですね…」と言います。するとホンドは、目を丸くして「まったく礼儀も知らん奴だ…」と言います。するとユンボクは「やっと分かりましたか…生まれつきです。キムさん…」と言います。ホンドは「キムさんだって?…あきれた奴だな…とにかくここにいろ…」と言います。ユンボクは「どうしてですか、キムさん…行きます…」とうすら笑いをして言うと、後ろを向き歩いて行こうとします。ホンドは「その手で何処へ?…その手で図画署に戻れるか…その手では丹青所でも無理だ…とにかく入れ…早く来い…」と言って叱りつけます。ユンボクは行くところもないせいか、仕方なくホンドの後について行きます。ホンドは先を歩いて行きながら、ホットした表情をします。

 シン・ハンビョンは、一人で碁を打ちながら「あの息子は私の息子だが…一度言いだすと絶対に譲らなかった…本当にまた筆を取れるのか…」とホンドに言います。ホンドはハンビョンの部屋に置いてある筆を取りながら「本人次第です…」と答えます。ハンビョンは、碁を打ちながら「どうするか…」と言います。ホンドは「何がですか?…やるだけやって、ダメなら…」と言います。ハンビョンは、ホンドの方を向いて「ダメなら?…」と聞きます。ホンドが「どら息子だと思い…」と言うと、ホンドとハンビョンは笑います。
 ホンドが「何とか正気に戻さないと…」と言うと、ハンビョンは「ハァー」と深くため息を漏らします。

 インムンの家では、ふてくされているのか、ユンボクは食事もせずに寝てばかりでした。インムンの妹ジョンスクが、着替えをもって部屋に入って来ます。「目が覚めたら…これを着てくれと…」と心配そうに言います。ユンボクは、後ろを向いて寝たまま「要らない…」と言います。ジョンスクは、それ以上何も言わずに部屋を出て行きます。
 すると、また戸が開く音を聞いたユンボクは「要らないと言った…」と言うと、上布団を頭からかぶってしまいます。しかし「ユンボク…」という聞きなれた声がしました。ユンボクは起き上り、声のする方に向き帰ります。そこには、心配そうな顔をしたヨンボクが立っていました。
 ユンボクは、上目づかいで「兄上…」と言います。その様子をホンドとジョンスクも心配そうに部屋の入口の所で見ていました。ヨンボクは座り、ユンボクと二人だけで話していました。
 ヨンボクは「顔が…やつれたな…」と言います。ユンボクは、目を合わせることが出来ずに、下を向いてしまいます。ヨンボクは、そんなユンボクの心をほぐす為に、近寄って懐から出した小さな紙包みを見せます。そして「さあ、これを…」といいます。ユンボクは、それを見もせずに「何?…」と言います。ヨンボクは笑いながら「見てみろ…」と言って、ユンボクの手を取り、紙包みを渡します。それでもユンボクが関心を示さないので、ユンボクの手の上で紙包みを開けながら「クチナシで作った顔料だ…」と言って、ユンボクに見せます。ユンボクは「それが何か?…」と、関心がなさそうに言います。
 ヨンボクは「よく見ろ…」と言うと、自分の指でつまんで「儀軌を描いた顔料より、暖かい感じだろう…」と言います。するとユンボクも顔料を指でつまんで「やわらかいな…どうやった?…」と静かに言います。するとヨンボクはユンボクの目をじっと見て「これは清国製じゃない…朝鮮で作ったものだ…朝鮮のくちなしで作った朝鮮の色だ…」と言います。ユンボクは「朝鮮の色…」とうなずきながら、納得したように言います。やはり、絵に関する事には興味があるようです。

 ユンボクはヨンボクに「何処で手に入れた?…」と聞きます。ヨンボクは「丹青所の調色室だ…」と答えます。ユンボクは「丹青所?」と不審そうに聞きます。するとヨンボクは「もちろんだ…調色室には珍しい顔料が多い…図画署で使えなかった磊緑色(ヌェーロク)も丹青所にある…」と、少し誇らしそうに言います。ユンボクは「磊緑色?…本当に…」と聞きます。ヨンボクは「本当だとも…調色室のぺクぺク先生は清国の顔料ではできない朝鮮の色を作っている…私も一緒に…だから新しい色も作れるさ…」と言います。ユンボクは「本当に?…」と半信半疑で聞き返します。ヨンボクは「丹青所は、辛いだけだと思っていたが…色調室の仕事は、図画署より忙しい…また新しい色を作ったら…それで絵を描いてくれ、分かったな…」と言うと、ユンボクの顔に少し笑みが浮かびます。ヨンボクは「高いんだぞ…感謝しろ…自分で作ったんだぞ…」と言います。ヨンボクは、どうにかしてユンボクに立ち直ってもらいたいと思っていました。

 ヨンボクは、ユンボクとの話が終わって、帰り際に家の外でホンドに「ユンボクはどうなりますか…手は大丈夫ですか?」と尋ねます。ホンドが「死にはしない…」と言うと、ヨンボクはホンドの手を取って「お願いです…私のせいで…手がダメになったら…私は…お願いします…」と言います。そしてホンドの手を確りと握ります。ホンドは「全て本人次第だ…本人の心が動かねば、助けも無用だ…」と言います。そしてホンドは、ユンボクの手を見ます。ユンボクは「お前の手は大丈夫か…」と言います。ヨンボクは、見られてはいけないものを見られてしまったと思い、手を素早く離します。そして「大丈夫です…」と言います。

 丹青所では、ヨンボクが小間使いのように働かされていました。ユンボクには心配掛けまいと夢や希望を語りましたが、先輩の嫌がらせにもたびたびあっていました。その様子をぺクぺクの孫娘は知らぬふりをして見ていました。
 先輩の一人がヨンボクを脅かすように「図画署から来たからと言って、適当にするなよ…」と言います。そしてヨンボクを殴ります。ヨンボクは、恐怖で言葉が出ません。
先輩は、そんなヨンボクの胸ぐらをつかんで「しっかりやれ…分かったか…」と言います。ヨンボクは小声で「ええ」と言いますが「聞こえん…」と怒鳴ります。ヨンボクは小声で「はい」と答えます。ヨンボクは、恐怖に負けづに仕事をします。ユンボクの事を想いながら…そして「絵を描いてくれ…ユンボク…」とつぶやきます。

宮中では、王様と清国の大臣とがお酒を飲んでいました。王様が「扇の飾りの羅針盤を王大妃様は…大切にしています。こんな贈り物を頂いたので…こちらも良い贈り物を準備したい…」と言います。清国の大臣は「恐れ入ります、殿下…皇帝陛下は、主上殿下に一目置かれています…それで何を贈られるかと使臣団の帰りをお待ちです…何か教えて頂けませんか…」と言います。王様は「言葉だけでは説明できません…礼楽を好む皇帝の眼目にかなうものを準備しています…」と言います。清国の大臣は「帰るのが待ち遠しく思われます…」と言います。

図画署では、別提が元老画員を集めて「春画問題で、図画署は面目を無くした…この機会に、主上殿下の気に入る絵を描き…挽回をせねば…」と言います。そして別提は、シン・ハンビョンに「イルチェ…どうだ?…」と言います。ユンボクの事で弱みを握られているハンビョンは「はい、そのとおりです…」と言って、低頭するだけでした。
別の元老画員が別提に「いつまでですか…」と聞きます。別提は「画員試験の4日前だ…」と言います。元老画員は「ううん~、何を描くか…」と言います。ハンビョンは「やはり、清国の好みなら華麗なものが…」と言います。すると別提は、ハンビョンを無視したように「皆精進してくれ…」と言います。元老画員たちは「はい…」と言って頭を下げます。

王様は、弓矢の練習をしていました。そこには、ホンドが呼ばれていました。王様は、弓を引きながら「お前の絵を見るのが…待ち遠しい…」と言います。武官が「的中」と、王様の矢が的に当たったことを伝えます。ホンドは「的中でした…」と言うと、王様はにこりと笑って「何を描くつもりだ?…」と聞きます。ホンドは、矢を取りながら「そうですね…主上殿下と清国皇帝の心を動かせるものは何か…」と言います。王様は、ホンドから矢を受け取ると弓を引きながら「1人の心が…天下の心ではないか…」と言います。するとホンドが「また的中です…」と言うと、王様は「ハッハッハー」と笑いながらホンドに「期待している…」と言います。ホンドは「努力いたします」と答えます。

ホンドが図画署の画室に行くと、下級画員がホンドの荷物を整理していました。ホンドが「何をしている?…」と聞くと、下級画員は「別提様が、先生の荷物の整理を手伝えと…」言います。ホンドは「荷物を?…」と聞きます。下級画員は「平壌に帰る準備だと…」と言います。ホンドは「平壌?…」と不審そうに言います。

別提は自室で画員と書類の整理をしていました。そこへホンドがやって来て「急に平壌とは…どういうことですか?」と挑むように言います。別提は、書類の整理を手伝っていた画員に、合図を送ります。画員は直ぐに立ち上がり部屋を出て行きます。そして別提は「分からないのか…生徒庁の問題も片付いた。もう帰れ…手伝ってやろうとしただけだ…気に入らなかったか…」と言います。ホンドは不服そうに「またですか…」と言います。別提は「何だと…」と言います。ホンドは「何か恐れているのですか…」と言います。別提は、とぼけたように「何を言っているのか分からん…すぐ辞令は出る。図画署の心配はせず…ゆっくり休み、親しい友達に会っておけ…もう行け…」と言います。ホンドは少し考えて、別提に歩み寄り、腰をかがめて別提の顔を見ると「行けませね…」と言います。すると別提が不快な顔をして「何だと…」と言います。ホンドは「私は10年前に死んだ師匠とは違います…」と言います。別提は「どうするつもりだ?」と言います。ホンドは「黙ってはいません…」と言います。別提は「楽しみだな…」と言います。ホンドは立ち上がり帰ろうとしますが、別提が「おい…聞いたか…」と言います。このホンドと別提の腹の探り合いを見る限りでは、図画署にも何か秘密がありそうです。

ホンドは、私服に着替えて図画署の門を出ると、別提が別れの際に言った言葉を思い出していた。「ユンボクの事だ、何日も来ていない…分かっているな…勝手に生徒庁を出た者は、画員試験を受けられない…」ホンドの顔つきは、深刻だった。

ホンドがユンボクの部屋に入ると、ユンボクは蒲団の中で寝た振りをしていた。ホンドは、その姿を見て「お前は何て奴だ…日も高いのに、まだ寝ているのか…何をぐずぐずしている…」と言います。ユンボクは仕方なく起き上がり、蒲団の上に座ります。そして、だるそうな声で「何ですか…キムさん…」と言います。ホンドは「何か用かだと?…ただ飯を食らうつもりか…薬代の分も働け…高いんだぞ…どうしてそんな顔で私を見る…早く起きろ…」と言います。ユンボクは、じっとホンドをにらみつけていました。ホンドは、そばにあったユンボクの服を投げつけて「すぐに付いてこい…」と言って怒ります。

ユンボクは、仕方なくホンドの後を付いて、街中を歩いていました。
ユンボクは「飯代を稼ぎに何処へ行くのですか…」と、だるそうに聞きます。丁度その時、ユンボクの治療をしてくれた医員が、牛に乗って通りかかります。そして「画工じゃないか…」と、ホンドに声をかけます。ホンドは笑顔で「牛に乗って何処へ?…」と言います。医員は、ユンボクを指さした後、手を結んだり開いたりして「やっているか…」と聞きます。するとホンドが笑顔で「少しずつやっています…」と答えます。ユンボクも少し微笑んで、頭を下げます。
医員が通り過ぎるとホンドは「お前に何が出来るんだ…飯を炊けるか?力でも強いか?描く以外に何が出来る…」と言います。するとユンボクは敏感に「描きたくない…描きたくないんです…なぜ絵を描くんですか…」と言って、ホンドに反抗します。ホンドは「本気か…」と言います。ユンボクは「はい、本当にいやです…」と言います。ホンドは「そうか…じゃ、やめろ…」と言って、一人で先に歩いて行きます。ユンボクは、不可解な顔付をして「キムさん」と言って付いて行きます。

ホンドは、ユンボクと街中を歩きながら「私にもそんな時期が…」と言います。ユンボクは「師匠もですか…」と言います。ホンドは「絵描きという者は…好きで描き始め、一度は壁にぶつかる…」と言います。
二人は、立ち飲みの酒屋にいました。ホンドは、2人分の茶碗酒をもって来て、一つをユンボクに渡し「ただで飲む酒は最高だ…」と言って酒を飲みます。ユンボクは「どうしてまた、描き始めたんですか」と聞きます。ホンドは「とにかく飲め…」と言うと、自分も酒を一滴も残さずに飲みます。そして「うまい…」と言います。ユンボクは、呆れたような顔をしてホンドを見ます。ホンドは「一杯いくらだ?…」と店の者に聞きます。すると「一両です」と答えが帰って来ます。ホンドは「もう一杯くれ…」と言います。

ホンドはユンボクを連れて、さらに街中を歩きまわります。そして「私もお前のような厄介者だった…なぜ描くのか分からず、いくら言われても筆を取らず…皆諦めていた…師匠以外は…師匠は大変苦労した…厄介ばかり掛けたからな…」と言います。
ユンボクは「それで師匠も手を傷つけたり…しましたか?」と聞きます。ユンボクは次第に、ホンドに心を許すようになっていました。ホンドは、自分が選んでいた眼鏡をユンボクに掛けます。ユンボクは目が見えずに「アー、アー」と声を出します。
ユンボクは「暗くなりました…」と言います。ホンドは笑いながら「田舎者だな…知らないのか…」と言って、眼鏡をはずします。ユンボクも眼鏡をはずすと、ホンドの生い立ちが気に成るようで「師匠はどうしたんですか…」と聞きます。ホンドは「田舎者め…」と言うと、先に歩いて行きます。

ホンドは、布地を見て「いい色だ…何に使うんだ?…」と商人に聞きます。商人は「頭にかぶったり、チョゴリにも使います。」と答えます。ホンドは布地を手に取ると「頭にかぶるのか…」と言うと、ユンボクの頭に布地をかぶせます。ユンボクは、ホンドの生い立ちが気になって「どうだったんですか…」と聞きます。ホンドは「どうもこうもないさ…」と言います。
ホンドは商人に「どうするのだ…」と聞くと、自分も頭に布地をかぶせます。そして「こうするのか…」と聞きます。商人は「顔を出さないと…とても似合いますよ…」と言います。ホンドは笑顔で「本当に似合うか…盗んでいくぞ…」と言うと、布地を持ったまま走って逃げます。ユンボクは、布地を商人にかえすとホンドが忘れた帽子を持って逃げます。
ユンボクがホンドを見つけたとき、ホンドは露店の食べ物やで、ちじみを食べていました。横に座ると、ホンドはユンボクに無理やり食べさせます。

ホンドとユンボクは、軍鶏の賭博場にいました。ホンドは「服にカビが生えるほど閉じこもったり…賭博場で騒いで、手を切られそうになった…血だらけのけんかもした…」と言います。
賭博場では掛師が「赤でも青でもすきに選んでください…さあ、早く掛けて…」と言います。ホンドが青の掛札を取ろうとすると、掛師は赤の掛札を渡します。掛師は笑いながら片目をつぶります。ホンドも笑顔で答えます。
ユンボクはホンドに「答えは得られましたか…」と聞きますが、ホンドはユンボクに掛札を渡して「持っていろ…」と言うと、軍鶏の喧嘩に夢中になります。
 ユンボクは「師匠はどうして絵を描くのですか…」と聞きます。ホンドは「分からない…」と答えます。ユンボクは「分からない?」と聞き返します。ホンドは「どうして鶏が闘うか分かるか…お前はどうして飯を食う…」と言います。
二人は、軍鶏の闘いに夢中になり応援します。赤の勝利が決まると、二人は抱き合って喜びます。
ホンドは掛け金をもらうと、ユンボクにもわけ与えます。そして「嬉しいか…」と聞きます。ユンボクの目が、爛々と輝いていました。家を出た時とは、まったくの別人のようになっていました。
ホンドはユンボクに「絵描きには、絵というのは飯だ…描けば食欲も出る…このざまわ何だ…あまり考えすぎずに、とにかく筆を取れ…お前の宿命だ…絵描き…」というと、頭を軽く叩きます。そして「飯を食うぞ…」と言って、一人先に歩いて行きます。ユンボクも神妙な顔をしながら、でも少し笑みを浮かべて、ホンドの後を付いて行きます。ユンボクは完全に心を開いたようです。

ホンドとユンボクは、インムンの家のホンドが借りている部屋で絵を描く準備をしていました。壁一面に紙を張り終わると、紙を見ながら、ホンドがユンボクに「見えるか…」と聞きます。ユンボクは「何がですか…ただの紙です…」と聞き返します。
ホンドは「ただの紙に見えるのか…必要な物は揃えてる…もう出来上がりだ…」と言います。ユンボクは「フン、訳が分からない…」と言います。ホンドは前に出て「ここに描く者の心と…描かれる者の心がすでにある…」と言います。そして、紙を張る為に持っていたご飯粒を口にすると「飯がうまく炊けたな…」と言います。ホンドは、ご飯粒の入った茶碗を置くと絵を描き始めます。

ホンドは振り向いてユンボクに「見えるか…」と聞きます。ユンボクには、まだ何も分かりません。ホンドが一心不乱に描く姿をユンボクは興味深く見ています。しばらくして、またホンドが振り向き「見えるか…」と聞きます。ユンボクには、まだ見えて来ません。ホンドはさらに絵を描き始めます。
ホンドがまた振り向き「見えたか…」と聞きますが、ユンボクは無言でした。ホンドはさらに絵を描き続けます。そして、また振り向き「見えたか…」と聞きます。
ユンボクは、ホンドの描く絵を真剣に見続けます。その眼は、生き生きと輝いていました。そして「これは…」と口走ります。ホンドは振り向き、ユンボクを見ます。
ユンボクは「この人たちは…市場で会った人たちですね…」と言います。ホンドは「そのとおりだ…暑いのに訳もなく市場に行くと思うか…見えるもので見えないものを描く…」と言います。ユンボクは「見えるもので…見えないものを描く…」と復唱します。ホンドは「そうだ…見えても見えず…見えなくても見える…お前は物事を詳細に描いた…それは事実を紙に写しただけだ…見えないものでもその真の姿を知り…描く楽しさを知り、その境地を知れば…」と言うと、ユンボクが「そうなれば…群仙図のような道釈人物画も…市場の人のように生き生きと描けます…」と言います。するとホンドは大きな声で「そうだとも…」と言って、筆の柄でユンボクの額を叩いて笑います。そして「そうなれば、風景に捕らわれることなく…すべてがお前の者になる…無限の線が、三個の点を貫くようにだ…」と言うと、振り返って、また絵を描き始めます。
ユンボクは「ハァー」とため息をつくと「キムさん…」と言います。それを聞いたホンドが振り向くと「アアー…師匠…檀園先生…」と言います。ホンドは「調子がいい奴だな…このチビ助が…」と言います。そして、火のついたろうそくを持って「さあ…ちょうど…一つの光が多くの影を作るように…一つの像は無数の形を持っている…その形を見ることが出来れば…森羅万象のすべてを…描けるだろう…」と言います。ユンボクには、その言葉と姿が、幼き日の実父らしき映像とダブります。
ホンドはじっとユンボクの顔を見つめて「描いてみるか…」と言います。ユンボクが黙って立っていると、筆を差出ます。ユンボクは筆を握り、絵を描こうとするのですが、なかなか描き始められません。ホンドは、ユンボクの筆を握る手を持ち「恐れるな…」と言います。そして、手を添えたまま絵を描き始めます。ユンボクも無心になっていました。ホンドはしばらくすると手を離します。ユンボクにも市場の人々の生活が見えて来ました。そして、一人で描き始めます。以前のユンボクのように…
いつの間にか二人は眠りこけていました。朝になると先にユンボクが目覚め、起き上がり、描きかけの絵を眺めていました。その顔は実に清々しいものでした。ユンボクは眠っているホンドに近づき、寒さよけに描き崩しの紙をホンドの体にかぶせます。そしてホンドの手を両手で握り小声で「ありがとうございます…ありがとうございます…師匠…」と言います。そして、ホンドの手を自分の額に寄せて感謝します。
ちょうどそこへ、インムンの妹ジョンスクが「起きましたか…」と言いながら部屋に入って来ます。ユンボクは慌ててホンドの手を離します。ジョンスクは何か勘違いをしている様子で、無言で恥ずかしそうに立っていました。ユンボクは取り繕うふりをして筆を持ち、ジョンスクの顔を見て、ニヤッと笑みを見せます。

朝食の時、ユンボクの様子は今までとは一変して、ものすごい食欲を見せます。その食べっぷりは異常なもので、ガツガツとまるで飢え死に寸前の人間が食べる姿に似ていました。ジョンスクもホンドもその食べっぷりを見て、ただ呆然と呆れていました。
ホンドは呆れながらも「こいつ…ゆっくり食べたらどうだ…顔が飯だらけだ…私のも食え…」と言います。そして、自分の茶碗からさじでご飯をすくいユンボクの茶碗に入れてやります。「思う存分食べろ…」と言います。ホンドは、ユンボクのあまりの食べっぷりに、笑いが出て仕方がありませんでした。ホンドは「充分に食べたら帰ろう…」と言います。


宮中では王様が図画署の元老画員の絵を見て「こんな絵を贈れると思うか…」と言っていました。別提は、次々に元老画員の絵を見せます。別提は王様に絵の解説をするのですが、王様の鑑賞眼は鋭く、どれもこれもが古臭く見え、気にいった絵は見つかりませんでした。すべての絵を見終わると王様は「贈れる絵はあるのか!…」と言って、元老画員たちを叱責します。そして「なぜキム・ホンドの絵がない…」と言って、別提をにらみつけます。別提は「殿下…あの者は平壌に去ります…それで絵は描いていないかと…」と言います。すると王様は「絵を描いていない?…」と聞き返します。別提は「はい、殿下…」と言います。その時、内耳が「キム・ホンドが参りました…」と伝えます。

ホンドは、王様の御前で、持ってきた絵を内侍と二人で床に並べます。その絵を見た王様は満足します。そして玉座から立ちあがり、絵に近づいてじっくりと見回します。
「中国の故事を描いた群仙図で…どうして朝鮮を感じるのだ?…」とホンドに聞きます。ホンドは「中国の故事を題材に…朝鮮の民を描いたからです…」と答えます。さらに「衣習(ウィスプ)が、風が吹いたように一方になびいている…」と言います。すると王様が「どうしてだ!」と聞きます。ホンドは「皆見るものは違いますが、心は西王母の家に向かい…その心が風となり、襟をはためかせます…」と言います。王様は「心が西王母の家に向かう…」と満足そうに言います。そして「八幅中一幅は…何も描かれていない…どうしてだ…」と聞きます。ホンドは「それがないと絵の空間に余裕がなく…動きを感じられません…」と答えます。

別提が「殿下…監薰(絵を評価すること)をどうぞ…」と言います。
王様は「心は崑崙山を越え、西王母の家に向かう…その動く風まで絵の中に表現するとは…驚くべき才能だ…」と褒め称えます。ホンドは目を伏せて会釈します。王様は玉座に座ると、「ハァー」とため息をつき「寂しい…この絵を身近に置けず、清国に送るのか…」と、最高の賛辞を送ります。元老画員たちは、その言葉を神妙に聞いていました。そして王様は「合格だ…」と言います。ホンドは深々と頭を下げます。元老画員たちの顔は、複雑に歪みます。
王様は、別提の方を向いて「お前に任せて恥をかくところだった…」と言います。別提は「申し訳ございません…」と言うと膝まづいてお詫びをします。元老画員たちもそれに続き一斉に「申し訳ありません…」と言って、膝まづいてお詫びします。
王様は「幸いにホンドが…私を助けてくれた…ホンドに褒美を与えたい…キム・ホンド言ってみろ…何を望む?」と言います。ホンドは「主上殿下…恐れ入りますが…一人で描いたのではありません…この絵は…図画署の生徒、シン・ユンボクの助けで完成しました…」と言います。すると、ユンボクの父ハンビョンと別提の目がそれぞれ輝きます。
ホンドはさらに続けます「主上殿下がお許しになるなら…その生徒が画員になることを見届けたいのです…」と…
王様は、納得したようにうなずきます。そして「図画署の問題なので別提の意見を聞こう…別提、どう考える?…」と言います。別提は「殿下…シン・ユンボクは、勝手に図画署を出ました…」と言います。ハンビョンは、低頭しながらも鋭い目つきで別提をにらんでいました。別提の言葉はさらに続きます。「またキム・ホンドは、平壌から…問題の処理に来たものです…その生徒を受け入れる事も…任務を終えた者を置くことも…すべて…紀網を揺さぶります…」と言います。
王様は「それなら…こうしたらどうだ…その生徒が、画員試験に合格し、画員になる資格を証明すれば…二人とも図画署に残り…絵を描くことを許せるのではないか…」と言います。別提は「その生徒が試験に合格しなければ…檀園は平壌に帰しますか…」と言います。ホンドは「はい、戻ります…」と言います。


ホンドが宮殿を出て来ると、そこにはユンボクの父、シン・ハンビョンが待っていました。「おい、檀園…ユンボクを助けてくれたな…ありがたい…しかし…これからは私が処理する…お前は気にしなくていい…」と言います。ホンドは「それは…私の運命にもかかわることですから…」と言うと一礼して、去って行きます。ホンドはハンビョンに、何か不可思議なものを感じているようで、心までは許していないようでした。

ユンボクは、図画署のホンドの部屋で、ホンドを待っていました。ホンドが帰って来るとすぐに「どうなりましたか…」と、心配そうに聞きます。ホンドは深刻そうな顔をして、じっとユンボクの顔を見つめながら「私の運命はお前の筆次第だ…」と言います。ユンボクは「受けられると?…」と聞きます。ホンドはうなずいて「生きた絵を描け…お前が良心を捨てない限り…私もお前を最後まで見届ける…」と言います。ユンボクは嬉しそうに「はい…」と答えます。ホンドは「一人前になれ…そして…朝昼晩9回ずつやれ…」と言うと、手をユンボクの前に出して、結んだり開いたりして見せます。ユンボクは澄んだ目で、ホンドを見つめながら「結んだり開いたり…」と言います。ホンドは「東を向いて、ギュッ…」と言いながらやって見せます。ユンボクはそれを真似します。ホンドは「そうだ…もっと力を入れて…しっかりと…ウ~ン…」と…

図画署の庭で、画員試験の準備が行われていました。ユンボクは、ホンドの部屋で準備をしながら、絵を描ける喜びに浸っていました。
試験官が「図画署画員の試験を始める」と宣言します。
「最初の課題は、丙戌年の祝宴を描いた、“英祖丙戌進宴図”中の一幅だ…次…“鞦韆(チュチョン)を踏んで空中に飛び上がる”“風を孕んだ両袖は弓のようだ”“高さを競いチマの破れも知らず”“花靴の先が見え目を赤く染めている”…この問題は、詩を解釈して画題に合う絵を描く…この香時計で明日の午時までに…二つから画題を選び提出しろ…では…試験を始める…」と、試験官の説明がありました。

生徒達は一斉に絵を描き始めますが、ユンボク一人だけがじっと前を見つめていました。
生徒の一人が「明日までに描けるか…」と、小声で言います。一番年長の生徒が「どうせこれまで、詩を選んだ者は誰もいない…いつも同じ課題だから…偉い連中に見せる為に入れただけだ…」と言います。すると「詩題は誰も選ばないと言うことか…」と聞きます。年長の生徒は「お前に解釈できるか…」と言います。すると、顔を横に何度も振り「とんでもない…」と言います。年長の生徒は「オレも同じだし、皆も同じだ…急いで描け、時間がないぞ…」と言います。質問した生徒は「分かった…」と言って絵を描き始めます。
しかしユンボクは、一点を見つめてじっと動きませんでした。時には目をつぶり、瞑想をしているようでもありました。すると頭の中にホンドの声が蘇って来ます。「生きた絵を描け…」と…そして、チョンヒャンの琴を奏でる姿の映像が浮かび上がります…ユンボクは、目を見開きじっと一点を見つめていました。ホンドは、そんなユンボクをじっと見つめていました…

ユンボクは、ニヤッと笑うと絵の道具をまとめて立ちあがります。すると試験官が「何処へ行くのだ?…放棄するのか…」と言います。すると父ハンビョンが心配して「ユンボク…」と叫びます。ユンボクは「いいえ、描く対象を探しに行きます…」といいます。すると別提が「明日の午時までだ…以後は、寸刻も待たない…」と言います。ユンボクは「はい…」と言うと、一礼して試験会場から出て行きます。生徒たちや父ハンビョンは唖然として、ユンボクの後姿を見ていました。
別提がホンドを見つけて「檀園…試験が終わるまで…お前は出入り禁止だ…」と強い語調で言います。ホンドは「忘れていました…」と言うと、脇の門からすぐに出て行きます。

別提は、手下の画員を自室に呼んで「お前は…ユンボクに絵を描かせるな…ひそかにな…分かったか…」と命じます。手下の画員は「はい…」と言います。

ユンボクは市中を歩きまわって、画題を探していました。別提の手下の画員は、ユンボクの後を密かにつけていました。
ユンボクは、端午の節句のお餅を付いている下女に、恥ずかしそうに「鞦韆(ブランコのこと)はどこですか…」と聞きます。下女は、ユンボクの顔をじっと見ると「あんた…外出もできない女が、唯一外に出られる日だよ…それさえ邪魔する気かい…どうして男って厚かましいんだろう…」と言います。すると周りにいた下女たちは笑いだします。ユンボクは恥ずかしそうにしていました。すると別の下女が「男だからね…」と言います。ユンボクは恥ずかしくなり、そこを離れます。
ホンドもユンボクを探していました。

ユンボクは通りを歩いていると、妓生らしい女から声を掛けられます。ユンボクが振り向くと女は「何をしているんですか……私は…何でも知っていますよ…」と言います。するとユンボクが「聞いたことがあるんだが…」と言うと、女は「私を描いてくれたら…教えてあげる…」と、艶っぽく言います。ユンボクは振り返って立ち去ろうとしますが、何か思いついたようで、また振り向いて「服をきた女はどうも描けない…」と言います。すると女は、甘えたような声で「本当に?」と言います。ユンボクが諦めて、一人で歩いて行くと、女はユンボクの後を付いて行きます。

女は巨木の陰で服を脱いでいました。ユンボクはそれをのぞき見るようにしていました。
女は脱いだ服をユンボクに渡しながら「綺麗に描いて…」と言います。ユンボクは「日が短いから急いでくれ…」と言います。女は服を全て脱ぎ下着だけになると、ユンボクに服を渡しながら「本当にいいのかしら…知らぬ男の前で…」と言います。ユンボクは、女から受け取った服を着ながら「イヤならやめなさい…その帽子も渡してくれ…」と言います。女は不審そうに「帽子まで?」と言いますが、ユンボクは「顔が見えなきゃ描けない…」と言います。女は「フゥン…」と笑い「仕方ないわね…待って…」と言います。ユンボクは「時間がない…」と言います。
下着だけになった女は「綺麗に描いてね…」と言います。女の服をまとったユンボクは「待ってて…」と言うと、足音を忍ばせて走って行きます。女が巨木の影から横眼使いにユンボクの居た方向を見ながら「画工?…画工さん…」と声をかけるのですが、ユンボクからの返事はありません。女は慌てて取り乱してしまいます。

ユンボクは、女の衣装をまとい、女らしく街中を歩いていました。絵を描くためとはいえ、何か楽しそうにも見えました。ユンボクは通りでホンドと出会い、体がぶつかるのですが、ホンドは気付かずに「大丈夫か…」と言います。ユンボクは女らしく「はい…」と言うと、逃げるように立ち去ります。ホンドは、反対の方向にユンボクを探しに行きます。

ユンボクは、先ほど尋ねた餅つきの下女に「あの…鞦韆はどこですか?…」と聞きます。下女は、不審そうにユンボクを見ながら「鞦韆ならクチョン渓谷でしょう…」と言います。ユンボクは、手を口に持って来て、女らしく「ありがとう…」と言うと「おほほほほ…」と笑いながら、その場を立ち去ります。下女は「どこかで会ったような…」と言うのですが、年上の下女が「いいから早く打ってよ…」と言います。ユンボクは騙し切ります。

ユンボクは、クチョン渓谷に着くと、武官に呼び止められます。「待て…」
武官は「えへへへ…」と笑いながら、ユンボクの荷物を見て「重そうだから預かろうか…」と言います。ユンボクは、武官をにらむような顔をして、野太いいつもの声で「心配いらない…」と言って、その場を立ち去ります。武官は一瞬キョトンとして、相棒と目を合わせますが、すぐにニヤッと笑って、笑い声を上げます。

渓谷の中に入ると、女たちが下着だけの姿で肌を出し、年に一度の開放感を味わっていました。ユンボクは、最初はどうしたらいいのか戸惑っていましたが、本来持つべきものが蘇って来たのか、その感情の新鮮さに自然と笑顔が出て来ました。ユンボクは、画題を見つける為に渓谷を歩き回ります。そして鞦韆(ブランコ)を見つけます。
ユンボクが岩の上に座ると、隣にいた女性が「頭を洗わないの?帽子も脱がずに…」と声をかけて来ます。ユンボクは「はい…」と答えます。女性は「暑いからチョゴリは脱いだら…」と言います。ユンボクは笑いながら「いえ…大丈夫です…」と答えます。

そこへチョンヒャンと下女がやって来ます。周りから「あの人を見てよ…若い頃の私にそっくり…本当に綺麗ね…」と声が掛かります。ユンボクは興味を持ち、後ろからついて行きます。
チョンヒャンは鞦韆(ちゅちょん)を見ながら「気持ち良さそうね…」と言います。するとユンボクが横に来て、澄ました顔をして「では、一度乗ってみてはどうですか…」と言います。チョンヒャンは、ユンボクの顔を見るとニャッと笑い、また鞦韆を見ていました。ユンボクは、チョンヒャンが自分の事に気づいているのかどうか分かりませんでした。
チョンヒャンは詩を暗唱し始めます。「鞦韆を踏んで空中に飛び上がる…風を孕んだ両袖は弓のようだ…」するとユンボクが「高さを競いチマの破れも知らず…」と…チュンチョンはその後を受けて「花靴の先が見えて目を赤く染めている…」と、画員試験の詩を読みあげます。ユンボクはチョンヒャンを見つめ驚いた様子ですが…チョンヒャンがユンボクの顔を見ると目をそらします。
鞦韆の側にいた女が「鈴蹴りの勝者が出ましたよ…これから二人乗りを始めます…参加する人は来てください…」と言った声が響いて来ます。チョンヒャンはユンボクの顔を見て「乗って見る…」と聞きます。


 その時ホンドは、市中でユンボクを探していました。「この位のチビを見なかったか…」と、先ほどの餅つきの下女たちに聞いていました。年かさの下女が「知らないから騒がずに早くいって…」と言います。ホンドが立ち去ろうとすると別の下女が「小柄な男の人なら…鞦韆を探していた画工のことですか…」と答えます。ホンドは「鞦韆?…」と言うと、画工試験の画題の詩を思い出します。そして「画題は鞦韆だったな…ありがとう」と言うとその場を立ち去ります。

ユンボクはチョンヒャンと鞦韆に乗っていました。チョンヒャンはユンボクに「初めて見たいね…」と言います。ユンボクは慌てて「そんなこと…ありません…」と言います。チョンヒャンは「緊張しないで綱を持ってて…」と言います。ユンボクは、いつもの野太い声で「心配するな…始めよう…」と言います。チョンヒャンは「しっかりつかんで…画工……何でも最初が肝心です…」と言います。ユンボクは、チョンヒャンのこぐのに合わせて気持ちよさそうに周りを見ていました。そして、画題の映像が脳裏に映ります。チョンヒャンには、ユンボクへの恋心が芽生えているようでした。ユンボクは目をつぶり「分かりました…」と言います。そして、チョンヒャンを見て「分かりました…見えました…分かりました…」と言います。

 その時ホンドは、渓谷の入り口で、武官と押し問答をしていました。
 「知り合いがいると言っているだろう…」すると武官が「オレの知り合いもいるさ…」すると別の武官が「知り合いになりたい人もいるさ…」と言います。そして「オレ達も入りたいよな…」と言います。「入りたくて、思わず足が動くよ…」と言います。
 ホンドが女性の影に隠れて入ろうとすると、武官が肩をつかんで入れさせません。「おっとダメだ…入りたければ陽物を切って来るんだな…」と言います。ホンドは「触るな…よく分かった…来年は必ず入るからそう思ってくれ…」と言います。武官は笑いながら「それを切ってからな…望むなら今でも切ってやるぞ…」と言います。ホンドは仕方なくその場を立ち去ります。その様子を別提の手下の画員が見ていました。


 ユンボクは、渓谷で絵を描き始めていました。その絵の素晴らしさに人だかりが集まっていました。チョンヒャンもその中にいました。女たちは、あれは私だ等と口々に言っていました。チョンヒャンは、掌破刑前夜のユンボクの顔を思い出していました。

 ホンドは、女たちが日光浴をして寝そべっている後ろから忍びより、服を盗もうとしていました。そして、盗んだ服で身を隠し、人だかりのしている所へやって来ます。
 ホンドは、輪の中の絵を見ると、描き手の顔を見る為にぐるっと回って近寄ります。そしてユンボクの横に座るとじっとユンボクの描いている絵を見ます。そして顔を覗き込み、手の傷を見ます。最初はユンボクと信じられなかったのですが、ユンボクでしかあり得ないと思い、思い切って「ユンボク…」と小声で呼び掛けます。ユンボクは、いつもの野太い声で「はい…」と反射的に答えます。その後でしまったというような顔をして、隣の変な女を見ます。ホンドは、かん高い声をわざとだして笑います。そして「驚かなくても…声が太いわね…早く描きなさい…」と言います。ユンボクもホンドと分かり、調子を合わせて「はい…」と言って、また絵を描き始めます。
 ユンボクが次はどうかこうかと迷っていた時でした、ホンドが「どうしたの…」と聞きます。ユンボクは「それが…」と言います。ホンドは「早く完成させるのよ…そこに誰を描くか気になるわ…」と言います。ユンボクは「それが…見えませんでした…」と言います。ホンドは「それはなんのこと?…」と言います。ユンボクは「私はまだ…この女人の心が…分かりません…」と言います。

 そこへユンボクに服を盗まれた女がやって来ます。女はユンボクを見つけて「あんた!ここにいたのね…服を返して…」と言うと、怒ってユンボクに近寄ります。ホンドはユンボクに「何をした?」と聞きます。ユンボクは慌てて「訳があります…」と言いまがら、描きかけの絵や道具をまとめます。女はユンボクに「服を返して…返さないつもり?」とすごいけんまくで迫ります。ユンボクの着ている服を引っ張ろうとすると、ホンドがユンボクを助けようと前に出て「何をするんですか?…」と言います。女は興奮して「盗んだのよ…」と言います。ホンドは「何のことか…」ととぼけますが、女は「のいて下さい…」と言うと、ホンドのかぶっていた者を取り払います。すると女たちが一斉に、キャーと悲鳴を上げます。かぶり物の中から、男のホンドが出てきたからです。
 女は「男の人よ…」と驚きます。ホンドはユンボクに「盗んだのは本当か…」と聞きます。女は遠くの方を見て「こっちへ来て…」と誰かを呼びます。すると、「どうした…」と言って、女を巨木の影で助けた男がやって来ます。男はホンドを見て「怪しげな奴め…白昼に女人をからかうとは…恥ずかしくないか…」と言います。
 するとホンドは、機転を利かして「違うんだ…妻は少々体が弱いので…今日、谷で絵を描くと聞いて、どうしても見守りたかった…それの何が悪い…違うか…」と言います。周りの女性から「頼もしいわね…」と言う声が聞こえて来ます。
 女は「違うのよ…服を盗んだのはこの人よ…この人も男よ…」とユンボクに指を指して言います。すると助けに来た男が「どう見ても女だ…間違えていないか…」と女に聞きます。女が「服を脱がして…」と言い、ユンボクにつかみ寄ろうとしますが、ホンドが「病弱な妻に何をするんだ…」と言います。そしてユンボクを見て「大丈夫か…」と聞きます。ユンボクは状況に合わせて「あああ、クラクラする…」と言います。ホンドは「無理はするなと言っただろう…絵なんかいらない…帰ろう…」と言います。するとユンボクは図画署の制服を落とします。それを見た女は「あれを見て…」と言います。ホンドは「逃げろ…」と叫びます。ユンボクが絵の道具を取ろうとして戻ると、チョンヒャンが「画工…これは私が…」と言います。ユンボクは「頼む…」と言うと、制服と絵だけを持って、ホンドと走って逃げます。

 渓谷の出入り口では、武官と出会います。武官は「一体何だ…あれはさっきの奴…あいつだ…なんてことを…捕まえろ…止まれ…待て…追うんだ…」と言って追いかけますが、二人はそれを振り切って逃げだします。その様子を別提の手下の画員が見ていました。

 ここで、第4話 群仙図は終わります。




 ユンボクは、周囲の助けによって掌破刑に掛けられることは免れましたが、敬愛していた兄ヨンボクが、自分の身代わりで丹青所送りになったことで、心に深い傷を負っていました。自らの手に石を打ちつけ絵筆を握ることを諦めていたユンボクを救ったのは、ホンドとヨンボクでした。

 ヨンボクは、自分の不幸も省みずに、ユンボクが自分で自分の手を石で叩き怪我をしたことを聞くと、ユンボクを励ましにやって来ました。
 自らの手で作った、くちなしの絵具をみせて「清国には無い朝鮮の色だ…。丹青所は辛いばかりではない…ぺクぺク先生に付いて、新しい色を作りたい…だからお前も絵を描いてくれ、立派な画工になって、オレの作った絵具を使ってくれ…」と言いました。ヨンボク自身の夢や希望を見せて、ユンボクの心の傷を治そうとしました。ヨンボクには、オレがユンボクを守らねば…という気持ちがあったのでしょう。そしてそれは、密かに想いを寄せている愛の形だったのかもしれません。

 ホンドは、何時までたっても起き上がらないユンボクに対して焦っていました。そしてユンボクを叩き起し、市中を連れまわします。口喧嘩をしながらもユンボクの心を解きほぐしました。時には、自分自身の失敗談を話しながらも…
そしてユンボクに「お前に何が出来る。掃除や飯炊きが出来るのか…何も考えずに、絵描きは絵を描けばいいんだ…」と諭しました。次第にユンボクは、ホンドに心を開いて行きました。ホンドと絵を描いているユンボクの目は、以前のユンボクの目に戻っていました。
二人で書いた絵が、王様の目にも止まり、ユンボクは画員試験を受けられるようになりました。ユンボクは、難関の詩題に挑戦することになり、男子禁制の鞦韆へ行って絵を描くのですが、絵を描いている最中に男(?)であることがばれてしまい大騒動になるのですが、続きは次回という事になります。

ユンボクが背負っている業は大きいですね。この業を誰が取り除いてくれるのでしょうか…ホンドなのでしょうか、それともヨンボクなのでしょうか…私にもまだ分かりませんが、ユンボクを治療した医員は、ユンボクの秘密に気がついたようです。では、次回をお楽しみに…


0 件のコメント: