韓流ドラマ「秋の童話」第18回(最終回)運命を見ました
冒頭から10分以上、回想が続きます。
中学生のジュンソとウンソが、自転車で仲良く通学しています。雨に濡れながらも笑顔で通学する二人…実に仲の好い兄妹でした。
まだ、自転車の運転が上手でないウンソ、先に行くジュンソを追いかけるのですが、交差点でトラックにはねられてしまいました。ジュンソは振り向いて「ウンソ…」と叫びます。ウンソは路上で意識を失っていました。
病院で医師から「娘さんは、B型ですね…」と言われて驚くユン教授とキョンハ…「まさか、O型のはずです。2人ともO型だから…」と、医師に言うユン教授…この時初めて、病院で子どもを取り違えられた事に気づきます。
ユン教授とキョンハは、スニムの家を訪ねて相談するのですが、スニムが興奮して「何だと…やるきかい?…」と言いながら、キョンハにつかみ掛ろうとしました。ユン教授は、スニムの腕を握りながら大声で「本当の子じゃない…」と訴えかけます。それに対してキョンハは「あなた…」と言って、喋らせようとしませんでした。スニムは驚いて唖然としていました。その様子を窓の外からジュンソが覗いていました。
ジュンソはウンソに「もし、僕たちが兄妹じゃなかったら…出会ってたかな?…」と聞くと、ウンソは笑顔で「当然よ…私たちは運命で結ばれているんだもん…」と答えました。
スニムが興奮して、シネに大声で「本当の親だ…嫌いなわけないさ…」と言う姿…その言葉を聞いて「本当の親?」と不思議がるシネ…
シネに「…入れ替わったの…」と言われて、何も知らなかったウンソが驚いた姿…今まで一緒に育ったウンソをかばうために「シネ…」と言って、黙らせようとするジュンソの姿…泣きながら「私がこの家の本当の娘よ…」と叫ぶシネの姿…それを聞いて、混乱して泣きながら逃げ出すウンソの姿…
ジュンソはウンソを見つけ出し、倉庫の前に二人で座って話をしていました。ジュンソはウンソに「僕の妹だ…決まっているだろう…」と言います。ウンソは涙を流しながら「シネが違うって…」と言う姿…
別れの日、ジュンソが作った、ジュンソの似顔絵が書かれているコーヒーカップにキッスをして「それと…お兄ちゃん、さようなら…」と、一人淋しく泣きながら別れを告げるウンソの姿…スニムのぼろ家に、一人で歩いてきたウンソの姿…それを家の前で、じっと見つめていたスニムの姿…
ユン一家が渡米する前に、ジュンソとウンソは二人だけで出掛けます。ウンソはジュンソに「ねえ…生まれ変わったら何になりたい?…生まれ変わったら、私は樹になりたい…」と言います。ジュンソは「樹に?…」と聞き返します。ウンソは「うん、そうよ…一度根を下ろしたら、二度と動かない樹になるの…そうすれば、もう誰とも別れずに済むから…」と答えました。二人は思い出作りに、海辺に行って遊びます。砂浜を走り回って、顔を見つめ合い、笑いました。
学校の教室で、担任の教師が「突然ですが、今日からシネは来られません…アメリカの学校で、勉強することになったんです…」と言うと、ウンソの表情が一変します。一人だけ置いていかれる淋しさや、兄や母に会えなくなる心細さが、ウンソの心を動揺させました。ウンソは立ち上がり、教室を出て泣きながら走りだし、育った家に向かうのですが、ユン教授の運転する車が、目の前を通り過ぎて行きます。ウンソは懸命に追いかけるのですが、追いつくわけがありませんでした。ユン教授が運転する車は、トンネルの中へ入って行きます。ウンソはトンネルの入り口で立ち止り、泣きながら「お兄ちゃん…お兄ちゃん…」と叫んでいました。
ジュンソは、大人になるとウンソを探す為に、何度か韓国に帰国しました。しかし、ウンソの消息はつかめませんでした。ぐれていたウンソの実兄が、借金を重ねて、夜逃げ同然に故郷を離れてしまったからです。そしてジュンソは、婚約式を挙げるために、また帰国していました。ジュンソは、ホテルのゴルフ場で、友人のテソクと再会しました。二人は再会を喜び、笑顔で抱き合います。テソクが「ジュンソ…」と言うと、ジュンソは「元気か?」と言いました。
ジュンソはテソクノ運転する車に乗っていました。自転車に乗っているウンソとすれ違うのですが、二人は気づく事が出来ませんでした。ジュンソはユミと婚約式を挙げました。
テソクは「お前の名前は?…」と聞きます。婚約式では、ユミがジュンソに「その子の名前は?…」と聞きます。ジュンソは「樹だよ…」と答えます。ウンソはテソクに「ウンソ…チェ・ウンソ…」と答えました。
ウンソはテソクの顔にコップの水を掛けました。そして「あなたみたいな人は大嫌いよ…」と泣きながら言いました。テソクは、じっとウンソを見つめていました。
ジュンソはウンソを探し続けていました。そして、渡し船ですれ違う二人…ジュンソは、偶然にウンソの姿を見るのですが、すれ違った船の上では、どうする事も出来ませんでした。ジュンソは、すぐに後戻りをしてウンソを探すおですが、探し出すことが出来ませんでした。
ジュンソは、ホテルのテソク専用の部屋を借りてウンソを探します。その時、テソクはジュンソに「オレのメイドには、手を出すなよ…」と言います。ジュンソは「メイド?…」聞き返しました。
テソクは、ホテルの自室で、まだ勤務中のウンソの手を握って「オレとつきあうか?…」と聞きます。そして、ウンソに無理やりキッスをします。
ウンソは、テソクの友人で、ホテルの客のジュンソと電話をしていました。お互い相手の事を分かりませんでした。ただ、何かを感じ合っていました。ジュンソは「その気持ちが、別人と錯覚させるんだ…」と言います。ウンソは「そうですか…」と答えました。
ウンソとテソクは、実兄の働く会社の社長から逃げて、海辺へ来ていました。テソクはウンソに「いくらだ?…オレがアイツより高く買ってやる…」と言いました。ウンソはテソクの顔を平手で叩きました。
ウンソは、道路沿いの店で買い物をしているジュンソの姿を偶然見つけます。そして、ジュンソを追いかけます…ウンソは、思い出の海辺で、ジュンソの背中を目がけて走り寄り抱きつきました…ジュンソは「ウンソなのか?…」と聞きました。ウンソは「夢じゃないよね?…」と答えます。感動の再会でした。車で帰る途中、何も知らないテソクは、嬉しそうな笑顔で「お前がジュンソのいとこだったなんて…」と言いました。
テソクとウンソは、笑顔で並んでいました。テソクが遅れてきたジュンソに「遅いぞ、早い者勝ちと言ったろ…」と言います…
テソクは、ホテルのロビーで、まだ勤務中のウンソに「好きなんだ…お前が好きなんだ…」とプロポーズしました。
ウンソとジュンソは、背中あわせに、ジュンソのアトリエの窓をみがいていました。ウンソは「ねえ…私に会えて幸せ?」と聞きます。いつの間にか、二人の指と指が触れ合いました。ウンソとジュンソは次第に意識し始めました。兄妹ではなく男と女として…
ウンソとシネが会っていました。シネはウンソに「あなたとは赤の他人だって、ユミに言ってないもの…」と言います。ウンソは「私が去ればいい…」と聞きました。
ウンソはジュンソに「会わなかった事にすれば、みんな幸せになれる…」と言います。ジュンソはウンソを抱きしめながら「妹じゃなくったていい…一緒にいよう…」と言います。ジュンソの目からは涙が流れていました。
ユミがジュンソのスケッチブックを開くと、ウンソの顔を描いたデッサンが現れました。それを見て不審に思うユミ…ユミはジュンソに泣きながら「私の事を愛しているの?…」と、問い質します。ジュンソはユミに「努力すれば愛せると…」言います。
ウンソは、ジュンソのアトリエで、洗濯物を干しながら「本当にユミさんと別れたの?…なぜ?…」と聞きました。ジュンソは「ほかに愛する人がいるんだ…」と答えました。
ユミとウンソは、ホテルの庭のベンチに座って話をしていました。ユミは泣きながら「私から彼を取ったら何も残らない…」と言いました。ウンソは、涙を流しながら聞いていました。
テソクとウンソは、ホテルで会っていました。テソクはウンソに「お前の力になるよ…」と言いました。二人は手をつないでジュンソに会いに行きます。ジュンソはウンソに「本当にテソクを愛しているのか?…」と聞きます。ウンソは、ゆっくり振り向くと、涙目でジュンソを見つめていました。
ジュンソはウンソに「死ぬまで一緒にいよう…兄妹として…」と言います。ウンソは涙を流しながらうなづきます。
ジュンソはテソクに「ウンソのこと…本気で好きか?…」と聞きます。テソクは嬉しそうに「ああ…」と答えます。その夜、ジュンソとテソクは砂浜に寝ていました。ジュンソは「アアー…」と大声で叫びました。テソクも笑顔で一緒に「アアー…」と叫びました。
ジュンソがアトリエの駐車場を歩いていると、ウンソがジュンソの背中に抱きつきました。その様子を遠くからテソクが見ていました。テソクは二人が愛し合っていることを初めて知りました。
ユミとジュンソが電話をしていました。ユミは「泊まって来るの?…」と聞きます。ユミの横には、ウンソと電話をしているテソクがいました。ウンソもまた泊まって来るとの事でした。ユミとテソクは同時に振り向いて視線を会わせました。そして、ジュンソとウンソが一夜を共にすることに気づきます。最後の思い出の旅行がバレテしまいました。
あくる日、ジュンソの車から降りてきたウンソをテソクは確認しました。テソクはウンソに凄い剣幕で「お前は、ジュンソを愛しているんだ…」と怒鳴りつけます。ジュンソは「テソク…」と叫びます。ウンソは泣きながらテソクの顔を平手で叩きます。
シネはみんなのいる前で両親に、怒りをぶちまけるように「お兄ちゃんとウンソの関係を?…愛し合っているの…二人は恋人なのよ…」と、告げ口をしました。その後庭で、ジュンソはウンソに「逃げよう…」と言います。ウンソは涙を流しながらじっと聞いていました。
二人はバスに乗って駆け落ちをしました。二人は、ウンソの母親が働いていた牧場に行きました。しばらくの間そこで、二人は幸せに過ごしました。ジュンソが野の花を摘んで「誕生日おめでとう…僕と結婚してほしい…」とプロポーズをしました。その日の夜、焚火にあたりながら、指輪をウンソの指にはめて遣ります。二人は見つめ合っていました。ウンソの目からは、涙がこぼれ落ちていました。
テソクは二人を見つけ出しました。ジュンソはテソクに「僕らは結婚する…」と言います。テソクは「オレを裏切るのか…」と言いました。テソクは二人を家に連れ戻します。ジュンソはみんなの前で「結婚します…」と宣言します。そしてウンソと二人っきりになると「幸せになろう…」と言います。ウンソは嬉しそうに「うん…」と言いました。二人は、お互いの手をお互いの頭に載せて笑顔で「汝の罪を許す…」と言いました。この言葉は、子どもの頃、二人でよく交わし合った言葉でした。
テソクはホテルで「愛したことはなかったのか…」と、ウンソに想いをぶつけます。ウンソは「なかったわ…」と答えました。
ジュンソはユミに「幸せにな…」と言います。ユミは悲しそうな表情をしていました。
ユミは手首を切って自殺未遂を図りました。病院でユミの母親が、ジュンソの胸を両手で叩きながら「この人でなし…」と叫びます。ジュンソは「無事なんですか?…」と聞きました。ユミは病院を抜け出して、海の中へ歩いて行きました。そこへジュンソがやって来て、海の中からユミを助け出します。ユミは半狂乱になって「私を捨てないで…」と懇願しました。
ウンソは待ち合わせの場所でジュンソを待っていました。ユミはベッドで寝ながら「そばにいて…」と言います。ジュンソは「そばにいる…」と言わざるを得ませんでした。ウンソは、何時まで待っても来ないジュンソを想いながら涙を流していました。
ウンソはジュンソに会いに来ていました。ウンソがお別れの握手をしようとして手を差し伸べると、ジュンソは「ウンソ…今…この手を握ったら…二度と離せなくなるから…」と言うと、握手を断りました。ジュンソは、悲しそうにうなだれていました。ウンソは、笑顔でジュンソの肩に手を置いて「汝の罪を許す…お兄ちゃん…さようなら…お兄ちゃん…」と言いました。
テソクとウンソは、ホテルの庭のベンチに座っていました。テソクは「家を追い出されるかも…」と言います。ウンソは驚いてテソクの顔を見なした。テソクは「お前と結婚するって言った…」と言います。
ウンソは、ジュンソの個展の帰りにバス停で倒れます。その時、鼻血が出ていました。ウンソは依然倒れた時に担ぎ込まれた病院に行きました…ウンソは医師に「白血病って、ガンですよね…」と、問い質していました。
ウンソは渡し船の上で発作が起きて苦しそうにしていました。
テソクはウンソが白血病であることを知るとウンソに「必ず助ける…」と言います。そしてウンソを抱きしめながら「もう一度チャンスを…」と言いました。目からは涙がこぼれていました。
ウンソはテソクの部屋で倒れていました。病状が次第に悪化して行きました。
病のことで悩んでいたウンソは、ジュンソを訪ねて「半年だけ…私といてくれない?…」と頼むのですが、ウンソが白血病に掛かっていると知らないジュンソは、悲しそうな顔でウンソを見つめていました。
テソクはウンソに「このまま死にたいのか?…」と、必死の表情で訴えました。ウンソは、悲しそうな表情で「生きていたい…」と言いました。
入院するためにソウルに向かう日、テソクはウンソをジュンソの元へ連れて行きました。ジュンソは「テソクと二人で暮らすのか?…」と聞きます。ウンソは「本気よ…」と答えます。ジュンソは「すごく後悔している…」と言います。ウンソは立ち去って行きました。
ウンソはテソクに「生涯の恩人よ…」と言います。テソクは「生涯の恩人?…」と聞き返しました。
ウンソはテソクに、検査の苦痛を耐えるために「お守りをちょうだい…」と言います。テソクは検査の日に指輪を渡しました。
ジュンソはユミに「気持ちを整理したい…何日かくれないか…その後渡米しよう…」と言いました。ユミは心配で仕方がなく、涙を流しながらジュンソを見つめていました。
ウンソは、テソクがソウルにいない間に、思い出の牧場へ行こうとしていました。ウンソは、テソクからもらった指輪を見ながら「一日だけちょうだい…」と言います。
牧場へ行くバスの中から偶然に、車を運転しているジュンソの姿を見つけました。ウンソは、慌ててバスから降りて、ジュンソに声を出しながら合図を送ります。ジュンソはウンソに気づいて戻って来ました。二人は思い出の野山を散歩しました。ウンソはジュンソに「私たち、心の中でずっと愛し合おう…」と言います。二人は熱い口づけを交わしました。ジュンソは疲れたウンソをおんぶしていました。ウンソは「お兄ちゃん…愛している…」と言いました。
テソクは、ウンソの病室に駆け込んで行く医師たちを見て、ウンソの為に用意したバナナとコーヒーを廊下に落としました。テソクは、意識を失ってベッドのまま運び出されるウンソを見て、取り乱しながら「ダメだ…負けるな…」と叫び続けました。
テソクからウンソが危篤と知らせを受けたユミは、泣きながらジュンソに「ウンソさんが危篤なの…」と知らせます。ほんの数日前に、ウンソと会ったジュンソは信じられませんでした。ジュンソはユミと二人で病院に駆けつけました。
ジュンソは病院の集中治療室の前で取り乱します。そして、テソクと看護師に取り押えられながら、約束の言葉「ウンソ愛している…」と叫びました。
集中治療室では、以前として懸命の治療が行われていました。ウンソの意識は戻らず、瞳孔の検査が行われていました。
主治医は家族の前で「このままお亡くなりになる恐れもあるのです…」と説明します。テソクは語気を強めて主治医に「亡くなるだと?もう一度いってみろ…」と挑むように言いました。横にいたユン教授が、テソクの体を捉まえて「やめないか…」と必死で止めに入ります。テソクの興奮は収まらず「ウンソが死ぬって…」と言いました。それを聞いていたジュンソは、沈んだ顔で何も言わずに病院を出て行きました。
数日たって、意識の戻らなかったウンソは、また発作を起こして集中治療室に運びこまれました。主治医は家族の前で「今夜が峠になるでしょう…」と伝えました。
自室に戻されたウンソの横に座っていたテソクは、ウンソの手を握りながら「オレがジュンソを連れてくる…」と言いました。
テソクはアトリエにジュンソを迎えに行きました。大きな樹の根元に茫然と座っていたジュンソを見つけると、テソクはジュンソともみ合いながら「来いよ…」と言って、ジュンソを投げ飛ばしました。テソクはジュンソを懸命に説得しました。テソクは泣きながら「彼女が愛するのはお前だから…」と言って…ジュンソは「僕が行かなければ…生きていてくれるかも…」と、想いをテソクにぶつけました。
ジュンソは、病院のウンソの側で一夜を明かしました。夜が明けるとウンソがジュンソを呼ぶ微かな声がしました。「お兄ちゃん…」と…ジュンソはその声で眠りから覚めました。ウンソの顔を見るとウンソの目が開いていました。ウンソは、ジュンソを見つめて「お兄ちゃん…」と呼びました。ジュンソは「ウンソ…」と…答えました。
ジュンソは、家に帰りたいと言うウンソを車に乗せて、アトリエに連れて帰りました。
アトリエから車で、思い出の海辺に向かう二人を自分の車の中から見守るテソク…ウンソとジュンソは思い出の海辺で楽しそうに過ごしていました。その様子を遠くから見守るテソク…テソクの表情は、嬉しくて寂しそうな複雑な表情でした。
ジュンソはウンソに「ウンソ愛してる…」と言いました。
ウンソは嫌がるジュンソに頼み込んで写真を撮ってもらいました。思い出の写真を…
ウンソは、起き上がるとベッドの上で喀血をしてしまいました。ついに別れの時が近づいて来ました。鮮血が白いベッド用のマットを赤く染めていました。
ジュンソが掃除をしていると、ベッドの下から血に染まったベッド用のマットを見つけました。ジュンソはウンソの病状の悪化を察知しました。
テソクは、久しぶりにジュンソのアトリエに行った帰り道…思わず教会を見つけて入って行きました。祭壇の前に座って「どうか救ってください…」と泣きながら祈るテソクでした。
回想はここで終わりました。
ウンソはベッドの上に腰かけていました。ジュンソの様子がおかしいと気づいたウンソは、ベッドの下を覗き込みました。そこに隠しておいたはずのマットがありませんでした。ウンソはジュンソに病状の悪化を気づかれた事を察知しました。ウンソは大きな溜息をしました。
ジュンソは玄関口のベンチに一人で座って考え事をしていました。そこへウンソがやって来ました。ウンソはジュンソの隣に座るとジュンソに撮りためた写真を渡しました。ジュンソは写真を見ながら「よく取れてる…」と言います。ウンソはジュンソを見つめながら「私の具合…かなり悪いみたい…病気が進行しているのね…」と言いました。ジュンソの顔に緊張が走ります。ウンソは「ねえ…お父さんやお母さん…みんなを呼んで…食事しない?…」と言います。ジュンソはウンソの顔を見るのですが黙っていました。ウンソは「この写真…お兄ちゃんが持っていて…写真写りが良くても悪くても…お兄ちゃんに持っていて欲しいの…大切に持っていてね…私は…もうダメかもしれないから…」と言いました。
ジュンソはウンソを見つめながら「ウンソ…」と言います。ウンソはジュンソの体に身を寄せました。ウンソはジュンソの目を見て心配したのか「違うの…もしもの話よ…決まったわけじゃない…私を嫌いにならないで…病気のせいで悲しい思いをさせてるけど…嫌いにならないでね…お兄ちゃんの愛さえあれば…この世の誰よりも幸せに思える…」と言いました。ジュンソは、手をウンソの背中にまわして、ウンソを抱き締めました。そして「愛してる…お前だけをずっと…お前は…僕の人生すべてだ…これほど愛してるんだ…絶対に逝かせたりしない…」と言いました。
ジュンソはウンソをベッドに寝かせつけると、ベッドの横に座ってじっとウンソの寝顔を見ていました。そして「心配するな…お前を…一人では逝かせない…」と言いました。
ジュンソは画室に行くと、机の前に座り、何とも言えない辛そうな表情でこれから先のことを考えていました。そして机の引き出しを開けました。そこには茶色の薬の瓶がありました。ジュンソは、その薬の瓶をじっと見つめていました。
家族がジュンソのアトリエに集まって来ました。ウンソはユン教授とキョンハを車の前まで出迎えました。ウンソは笑みを浮かべて嬉しそうに、両手を広げて二人を抱き締めました。ユン教授とキョンハの顔にも笑みがありました。その様子を後ろからジュンソは見つめていました。一人沈んだ表情で…
スニムの家では、店先でスニムが一人で酒を飲んでいました。客が「昼間から酒か…」と言うと、呆れて店を出て行きました。スニムはすでに酔っているようで「いつ酒を飲もうが、あんたに関係ないだろう…」と大声を挙げました。そして泣きながら「あんたに何がわかる…死にゆく娘を救えない…親の気持ちが…わかってたまるか…」と言いました。
そこへシネがやって来ました。シネは店の入り口に立って、じっとスニムを見つめていました。シネは、黙ったまま店に入ると、スニムの前に座りました。
スニムはシネに、か細い声で「お前…なぜここへ?…」と聞きました。シネは優しい声で「お酒…つきあうわ…」と言うと、スニムのコップに酒を注ぎます。スニムは、力の抜けた表情で「ウンソを見舞わないのか?…」と言います。シネは「お母さんこそ…」と言います。スニムは虚ろな表情で「合わせる顔がないよ…向こうのご両親も来るのに…」と言います。シネは、スニムの顔を見ながら優しく「そう言うと思ったから、ここに来たの…一緒に飲むわ…」と言いました。スニムはうつむきながら首を振り「そんな必要ない…何もいらない…私のことはいいから…」と泣き声で言いました。シネは心配そうに「お母さん…しっかりしなきゃ…希望を捨てないで…お母さん…」と言うと、スニムの手を握りました。スニムは泣きながら、シネの顔を見つめていました。そして、シネの顔に手をやり頬を触りました。シネは、ウンソが願った約束を覚えていたのです…
アトリエでは、食事会が始まろうとしていました。「じゃあ、グラスを…」という声が…そして「乾杯…乾杯…」という声が続きました。ジュンソの友人ジファンと恋人のキムが、仲良さそうに寄り添っていました。キムはジファンに「美味しそうでしょ?…」と言いながら果物をむいていました。そして隣に座っているテソクにも同意を求めました。ジファンは「はいはい…食べますよ…」と言います。テソクはうらやましそうに見ていました。ウンソは両親に挟まれて嬉しそうな笑顔を見せていました。テソクとジュンソはグラスを合わせて「乾杯」と言いました。
ジュンソはウンソを見つめていました。ウンソは笑顔でジュンソを見つめ返していました。ジュンソは心の中で「あの日のお前は、とてもきれいだった…」と言います。
食事が終わるとウンソは、鏡の前に座っていました。髪飾りを取り、髪をほどくとキョンハが部屋に入って来ました。キョンハはウンソに「お母さんがやってあげる…」と言います。ウンソは嬉しそうでした。キョンハがウンソの髪にブラシをかけてやります。ウンソは、鏡越しにキョンハの顔をじっと見つめていました。それに気づいたキョンハも、手を休めてウンソの顔を見つめました。キョンハの目は潤んでいました。キョンハは、またウンソの髪をとき始めます。すると抜けたウンソの髪が、ブラシにこびりついていることに気づきました。キョンハは深刻な顔でブラシを見つめていました。そして鏡越しにウンソの顔を見つめると、後ろからウンソを抱き締めました。ウンソはキョンハに病状の悪化を知られたと気づき、表情が暗く沈んでいました。キョンハはウンソを抱きしめながら「神様…私を先に連れて行って下さい…この子より先に私を…」と、声を震わせながら言います。ウンソは心配を掛けまいと「私は負けたりしない…泣かないで…」と言います。ウンソはキョンハの手を離して振り向き立ち上がります。その時に、鏡台の上に置いてあったキョンハのハンドバッグに手が触れて、ハンドバッグを鏡台から落としてしまいました。ウンソが床を見ると、ハンドバッグの中から写真が飛び出して散らばっていました。
ウンソはキョンハに「お母さん…この写真…」と聞きます。キョンハは「ジュンソに頼まれたの…この写真を持って置くように…自分は、持っていられないからって…」と言いました。ウンソは嫌な予感がしました。
時間はあっという間に過ぎ去って、夜になっていました。それぞれが車で帰宅して行きました。ジュンソとウンソは玄関口に並んで見送っていました。車が見えなくなるとジュンソはウンソに「片付けるから先に入っていて…」と言います。ウンソは「うん…」と返事をするとアトリエの中へ入って行きました。
ウンソは、思いつめた表情で、ジュンソの画室に入りました。ウンソは画室を見渡すと、何かを探し始めます。袋戸棚などを開けて探し回るのですが、思っているものは見つからないようでした。ウンソは最後に、ジュンソの机の引き出しを開けました。そして茶色の薬の瓶を見つけると手に取ります。ウンソは困った表情で、思いを巡らせていました。
ジュンソは後片付けが終わると、アトリエの戸締りをして画室へ向かいました。画室に入るとウンソが写真を破り捨てていました。ジュンソはその姿を見ると、表情を変えてウンソに近寄ります。ウンソは「固過ぎてうまく破れないわ…」と言います。ジュンソはウンソの横に座ると「なぜだ?…あんなに撮りたがっていたろう…」と言うと、ウンソから写真を取りあげようとしました。ウンソは写真を取られまいと抵抗しながら「私の写真を破ろうが勝手でしょ…」と言いながら、さらに破り続けました。ジュンソは語気を強めて「ウンソ…」と言います。ウンソは泣きながら「怒鳴らないで…そんな資格はないわ…」と言うと、また写真を破り始めました。ジュンソは「いったいどうした?…」と言うと、辛い表情をして顔を反らせました。すると、反らした視線の先に、茶色の薬の瓶が置かれていました。ジュンソの視線が固まりました。
ウンソはジュンソの顔を見ると「一緒に死ぬって言うの?…私の後を追って死ぬ気なの?何とか言って…お兄ちゃん…ひどい…なぜ死のうなんて思うの?…」と泣きながら訴えました。ジュンソは堪らなくなり、ウンソを抱き締めました。ウンソは泣きながら「約束して…私の後を追ったりしないと…約束して…今ここで約束してよ…約束して…」と懇願しました。ウンソはジュンソから離れると、ジュンソの顔を見つめました。ジュンソはウンソから視線を離し、虚ろな目をしていました。ウンソは泣きながら「お願いよ…」と訴えかけました。ジュンソはウンソの手を振り払うと「ダメだ…できない…」と目をそらして言います。そして「お前なしじゃ生きていけない…」と言います。ウンソはジュンソの目を見つめながら「約束して…」と言います。ジュンソもウンソの目を見ながら「嫌だ……ウンソ…僕に…一人で生きろと?…あんまりだ…お前のいない人生なんて辛すぎる…生きていけない…とても耐えられない…」と言います。ジュンソはウンソから目をそらしました。ジュンソの目からは、止めどもなく涙がこぼれ落ちていました。そして、ジュンソはウンソの目を見て「お前ならできるか?…」と言います。ウンソは「それでも生きて…私のために…“お兄ちゃんまで死ぬ”って思いながら…残り少ない時間を過ごすのは嫌よ…最期に悲しませないで…私を愛しているのなら死んだりしないで…約束して…」と懇願しました。ジュンソは堪らなくなって、ウンソを抱き締めました。ウンソはそれでも「約束してよ…」と懇願しつづけました。ジュンソはついに「約束する…」と言いました。ジュンソは苦しそうに目を瞑り、ウンソを抱きしめながら泣き続けました。
数日後の夜、ウンソはベッドで寝ていました。目が覚めると、そばにいるはずのジュンソはいませんでした。少しだけ開けられていた窓のカーテンの隙間から、星屑のように煌めく灯りが入って来ました。ウンソは不思議に思い起き上がりました。窓際に立ってカーテンを開けると、庭の大樹にイルミネーションの灯りが煌めいていました。大樹には、白いウェディングドレスと花束が掛けられていました。そして大樹の陰からジュンソが正装をして現われました。ジュンソはウンソを見るとニッコリと笑って振り向き、紹介するように手でウエディングドレスを指し示しました。そしてまた、ウンソを見ると微笑んでいました。ウンソは、その光景を見て自然と顔がほころびました。
大樹の周りにはキャンドルが灯されていました。その中にウンソとジュンソが座っていました。ジュンソは自分の上着を脱いで、ウンソに着せ、膝の上には、純白のウエディングドレスが掛けられていました。ジュンソはウンソの指に指輪をはめてやりました。ウンソは嬉しそうに、ジュンソに身を預けました。
ジュンソは、右手でウンソを支えながら左手を挙げます。そして「宣誓…」と言いました。するとウンソも右手を挙げジュンソを見つめました。ジュンソは「私、ユン・ジュンソは…チェ・ウンソを生涯…愛すると誓う……汝は、ユン・ジュンソを…生涯…愛すると誓うか?…」と言いました。ウンソはジュンソを見つめながら、はにかむように微笑んで「はい…」と小さな声で答えました。二人は宣誓した手を握り合い、見つめ合っていました。そしてジュンソは、ウンソの頭に右手を乗せると「汝らの結婚を許す…」と神の声を代弁しました。するとウンソも、子どもの頃のようにジュンソのマネをして「汝らの結婚を許す…」と言いました。ウンソの顔が嬉しそうに輝いていました。ジュンソはウンソの額に口づけをしました。二人だけの結婚式でした。
ウンソとジュンソは林の中で背中合わせに座っていました。ウンソの顔は、衰えて行く表情の中にも幸せが満ち溢れていました。ススキの野原を散歩する二人…ベッドの上に横たわって、ジュンソを見つめているウンソ、視線の先には、本を読み聞かせているジュンソの姿が…二人は、一日一日を大切に生きていました。
ジュンソが自分のベッドで居眠りをしていると、ウンソがやって来て「お兄ちゃん…お兄ちゃん…お兄ちゃん…」と呼び掛けました。ジュンソは、ウンソの声に気がついて起き上がると「どうした?…」と聞きます。ウンソはやつれた表情で「私をあの海に連れて行ってほしいの…」と頼みました。ジュンソは、ウンソをじっと見つめて黙っていました。ウンソは精一杯微笑んで見せます。ジュンソは、それでもしばらくの間、黙って考えていました。そしてウンソの顔を見つめて、小刻みに頷きました。ジュンソは心の中で『最後の海かもしれない…』と覚悟を決めたようでした。
ウンソとジュンソは、思い出の海を見ながら砂浜に座っていました。二人の前には、ジュンソが中学時代に作った、二人の似顔絵入りのコーヒーカップが並んでいました。ウンソはコーヒーカップを見ながら「このカップのように…私たちはいつも一緒だった…」と言います。ジュンソは、寂しそうな表情で「そうだな…」と言います。そして「ウンソ…心残りはないか?…」と聞きました。ウンソはジュンソ見ますが、何も言わずに頭をジュンソの肩に寄せて身を預けました。そして「うん…何もないよ…お兄ちゃんがいるから…みんなのこと…お父さんとお母さん…それにテソクのことも…何も心配していないわ…お兄ちゃんが支えてくれるはず…そうでしょう?…」と答えました。ウンソは小刻みに頷きました。二人の目からは、いつの間にか涙がこぼれ落ちていました。
ジュンソは「ああ…大丈夫だ…ウンソは、何も心配しなくていい…」と言います。ウンソは「生まれてからずっと…一時も変わることなく…どんなときだって…お兄ちゃんを愛してたよ…」と言いました。ジュンソは「わかってる…僕もずっと愛してた…」と言います。ウンソは「ありがとう………」と言いました。ウンソの姿は、意識が遠のくのを懸命に我慢しているようでした。そして「私……眠くなっちゃった…おんぶして…」と言います。ジュンソは、ウンソをおんぶして砂浜を歩きだしました。
ウンソはジュンソの背中から「お兄ちゃん…お話して…私が眠るまでの間…明日は…何をするの?…」と話しかけました。その声は、弱々しいものでした。ジュンソは言葉を選びながら「明日は…起きたらまず、お前のことを考えて…それからその後…お前の写真を整理して…起きているか?…」と言います。ウンソは微かな声で「うん…」と答えました。ジュンソは「それから…父さんに電話しよう…結婚したって…それから昼御飯だ…それから…」と言うと、ジュンソの首の前にからませていたウンソの手が、力なく落ちて行きました。そしてウンソの首が、ジュンソの肩越しにうなだれました。ジュンソは、背中のウンソの異変を感じて立ち止りました。ジュンソの目が見る見るうちに赤くなりました。ジュンソは優しく「ウンソ…愛している…愛している…心から愛している…わかっているよな…わかっているだろう?」と言いました。ジュンソは、目を確りとつぶり、顔を歪ませて横に向けました……
そして、また歩き始めました。ジュンソはウンソに話しかけます。「昼食の後は何したい?…昼寝でもしようか?…ウンソ…ウンソ…いや…やっぱり散歩しよう…お前の好きな散歩を…一緒に歩こう…それから夜は…庭で焚火して…ビールでも飲もう…オッ…ウンソ…」と…しかし、ウンソからの返事は返って来ませんでした。ジュンソはウンソをおんぶしたまま、思い出の海辺を歩き続けました。日は西に傾き暗くなっても、ジュンソはウンソと歩き続けました。
アトリエには祭壇が飾られていました。ジュンソとウンソの実兄が祭壇の前に並んで、弔問客に礼をしていました。ウンソの遺影の前には、供え物が並べられ、ロウソクの燈明が揺れていました。ジュンソやウンソの友人たちが、弔問客への食事の世話などを手伝っていました。シネは一人窓際に立って何か思いつめているようでした。二人の母親は、花壇の側壁に腰をおろしてウンソのアルバムを見ていました。
スニムは、ウンソの子ども時代の写真を見ながら、指で写真を触っていました。二人は写真を見ながら大きな溜息をつきました。ユン教授は、裏口の石段に一人座って、うなだれていました。
ジュンソは、弔問客が一段落すると廊下に出てきて疲れ切った表情をしていました。ふと顔を挙げると、ユミが歩いて来ました。ユミが「ジュンソ…」と言います。ジュンソは「来てくれてありがとう…」とか細い声で言いました。ユミは目に涙をためながら「ジュンソ…」と言います。ジュンソは、心配掛けまいと精一杯の明るい表情で「テソクも来てるよ…」と言うとあたりを見回しました。近くにテソクがいないことに気づくと「呼んでくる…入って…ウンソにお別れを…」と言うと、今にも泣き出しそうな顔で、ジュンソを見つめているユミの横を通り過ぎて行きました。
テソクは、庭のベンチに座って、タバコをふかしながらうつむいていました。ふと顔を挙げて空を見ると、ウンソの思い出が脳裏を走り始めました。ウンソの笑顔が次々と…二人で並んで自転車を走らせた映像が…噴水の前でプロポーズした時の映像が…ウンソのながした涙の映像が…ウンソが病と闘う映像が…ウンソに久しぶりに会って花束をプレゼントした時の映像が…ウンソの喜んだ映像が…次々駆け巡りました。テソクはまたうなだれました。悲しみをじっと耐えていました。そこへジュンソが、力なく歩いて来ました。ジュンソは、テソクの前で立ち止まると、黙ったままテソクを見つめていました。
テソクはうつむいたまま「ウンソ…何でこうなるんだ…絶対に負けないと言ったのに…なぜなんだ?…」と言いました。ジュンソはテソクの横に座りました。テソクはジュンソに「お前は何をしてた…彼女を守るはずだろう…このザマは何だ…」と、今まで我慢して来た想いをぶつけました。そして大きな溜息をつきながら空を見ていました。ジュンソは黙って聞いていました。
テソクは「昨日からウンソの顔が…思い出せないんだ…何も思い出せない…この先…どう生きれば?…どう生きればいい?…オレにはもう何もない…すがるものさえも…ウンソの顔さえ忘れたら…どうすればいい…ジュンソ…これから…どうするんだ…」と言いました。ジュンソは静かに「ウンソとの約束を…守るよ…それだけだ…」と言います。テソクは泣きながら、小さく顔を何度も縦に振って「うらやましいな…本当に…うらやましいよ…守る約束があってさ…」と言いました。ジュンソはテソクに顔を向けると「そう思うか?…どんなにつらい約束か…想像できないだろう…テソク…頼みがある…」と言いました。テソクは「何だ?…」と聞き返しました。ジュンソは「僕の代わりにお前が…ウンソを見送ってくれ…」と言いました。ジュンソの目からは、今まで堪えていた涙が…大粒の涙が…次から次へと流れ出していました。そして「僕は僕なりに…彼女に別れを告げたい…だから頼む…受けてくれるか?…ウンソもお前なら喜ぶよ…」と言いました。テソクは何度も頷きました。
思い出の海辺には、シネとユミが立っていました。二人の視線の先にはテソクの乗った船がありました。テソクは船に座って、白い粉となったウンソの遺骨を手にとって、思い出の海に流していました。
ジュンソは車に乗って、故郷の細い道を走っていました。ジュンソの目には、ウンソと並んで自転車に乗った、幼い日の二人の映像が映っていました。故郷の川で水遊びをしていた二人の映像が…ジュンソは心の中でウンソに語りかけます。「お前との約束を守る前に…もう一度戻りたかった…一番幸せだったあの場所へ…ここでお前に…最後の別れをしたかった…」と…ウンソは思い出のトンネルの中へと吸い込まれて行きました。
テソクは、ウンソとの思い出をかみしめながら、別れの儀式を続けていました。ジュンソは、心の中で語り続けていました。「…そして僕は…お前が去った世界で…淡々と生き続けるだろう…」と…
ジュンソは、母校の中学校の門の前に立っていました。ジュンソは心の中で語り続けます。「お前の元に行ける日を心待ちにしながら…」と…すると子どもの頃のウンソの声が聞こえました。「お兄ちゃん…ウンソ…お兄ちゃん…」と…まだ、自転車の運転が下手なウンソが、懸命に追いかけて来る姿が…そして交差点で、出会い頭にトラックに跳ねられたウンソの姿が…シネがウンソを見ていた姿が…ウンソの友人が大声で「ウンソ…」と叫ぶ姿が…先に行っていたジュンソが振り向いて「ウンソ…」と叫ぶ姿が…ウンソが路上に倒れている姿が…ジュンソの脳裏に映し出されていました。この日から、二人の運命は大きく変わって行きました。
ジュンソはウンソの声がした方向へ歩いて行きました。その足取りは、おぼつかないものを感じさせていました。ジュンソは立ち止り、事故現場を見つめていました。目から一筋の涙がこぼれ落ちました。その時、クラクションの音が鳴り響きました。ジュンソは振り向いてトラックを見つめていました。トラックは、ジュンソに向かって走り続けてきました。何度もクラクションを鳴り響かせながら…しかし、ジュンソは避けようとはせずに、ただトラックを見つめていました。そして、急ブレーキの音が鳴り響きました。
テソクとウンソの別れの儀式は、まだ続いていました。テソクは一握り、一握り思い出をかみしめながら、ウンソの遺骨を海に流していました。
ジュンソの体が、まるでスローモーションのように舞いあがりました。その瞬間に、ジュンソの脳裏をウンソとの思い出が駆け巡っていました。現在から過去にさかのぼるようにして…
最期の思い出の海で、ウンソをおんぶしながら歩く姿が…そして二人だけの結婚式の姿が…二人で歩いたススキの野原を…思い出の海で写真を撮った姿が…ウンソが顔色の悪さを笑顔で隠す姿が…二人で砂浜に座って夕暮れの海を見る姿が…ウンソが危篤と知らされて病院に駆けつけた時に、集中治療室の前で『ウンソ…愛している…』と約束の言葉を叫んだジュンソの姿が…思い出の牧場で偶然に出会った時に『心の中で愛し合おう…』と誓い合った時の姿が…その後で二人で交わした口づけの姿が…病院で療養しているウンソの姿が…苦しみに耐えかねて酒に酔ったジュンソの姿が…ウンソがテソクと駆け落ちしてソウルで暮らすと嘘をついて別れた時の姿が…渡し船で発作を起こしてしゃがみ込むウンソの姿が…ウンソがテソクノ部屋で倒れた時に、テソクがウンソを抱えて病院に運ぶ姿が…ユミが自殺をして仕方なく泣きながら別れる二人の姿が…ジュンソと待ち合わせた約束の場所で、涙を流しながら待っていたウンソの姿が…ユミが二度目の自殺を図った時に、海の中でユミを抱きとめながら泣き叫ぶジュンソの姿が…ウンソとジュンソが、お互いの手をお互いの頭の上に置いて『汝の罪を許す』と言った時の姿が…牧場に駆け落ちした時にウンソの指に、指輪をはめてやった時の姿が…牧場で野草を摘んで花束にして、ウンソにプレゼントした時の姿が…二人で牧場の野山を歩き回った姿が…両親にウンソとの結婚を反対されて、バスに乗って駆け落ちした時の姿が…ウンソと再会して幸せだった日々の姿が…二人でアトリエの窓を拭いている姿が…そして自然とお互いの指が触れ合った時の姿が…ジュンソとユミとテソクが思い出の海辺に立っていると、遠くからジュンソの姿を見つけて駆け寄り『お兄ちゃん』と叫びながらジュンソの背中に抱きついたウンソの姿が…まだお互いが、ウンソとジュンソとは知らなかった時に、なぜか引きつけられた電話の遣り取りをしている姿が…偶然すれ違った、渡し船から見たウンソの姿が…車と自転車ですれ違っても気がつかなかったウンソとジュンソそしてテソクの姿が…渡米するユン一家の乗った車が、トンネルに消えてゆくのを泣きながら見ていたウンソの姿が…お別れの思い出作りに、海辺の砂浜で、二人で遊んだ姿が…雨上がりの田舎道を自転車で家に帰る二人の姿が…倉庫の前で雨宿りした二人の姿が…まだ物心のつかない幼いジュンソが、産院で悪戯をした時の姿が…
そしてジュンソが路上に舞落ちる時に、ウンソの声が聞こえてきました。「汝の罪を許す…」と…幼い時から二人で言い合った言葉でした…その瞬間、ジュンソの脳裏に映った映像は、幼き日に二人で自転車に乗って、トンネルを抜け出そうとしていた映像でした。暗闇の向こうの光に吸い込まれるように…まるで、二人で一緒に天国に駆け登るように…そして幼い二人の影は、光の中に吸い込まれて消えて行きました…
『秋の童話』第18回(最終回)運命は、こうして幕を閉じました。
何もこんな終わり方をさせたくてもと思いました。テソクにウンソの散骨を任せて、ウンソとの思い出の場所を巡るところまでは分かりましたが、何もウンソが交通事故に会った運命の現場近くで、ジュンソもトラックに跳ねられて死ぬなんて…逃げようと思えば逃げられたのに…ただトラックを見ながら立ちすくんでいたなんて…あれほどウンソが『お兄ちゃん死なないで…私の為に死なないで…私の為に生きて…』と願っていたのに…死にたい気持ちもよく分かるけど…ウンソにしてみれば、愛するジュンソには生きて幸せになって欲しかったはず…生きて、ウンソの愛した父母やテソク、そして友人たちを支えて欲しかったに違いないはず…男なら我慢して生きるべきだったと思います。それがウンソの供養にもなったはずだと……
それにしても、韓国のトラック野郎の運転マナーの悪さには頭に来ました。…さほど広くもない見通しの良い田舎道。日本ならスクールゾーンで登下校には、警官やPTAの人たちが立って、交通マナーを喚起するような道で、クラクションを鳴らしつづけながら突っ走ってくるなんて考えられません。国が違えば事情も違うのだから、考えられる設定と諦めなければいけないのかもしれなませんが…それにしても、こんな終わり方はないような気がしました。ただ、ジュンソの体が舞落ちる寸前で、ウンソの「汝の罪を許す…」と言う声が聞こえた時に、ウンソはいつも優しいな…と思いました。そして、この後の映像は素晴らしかったと思います。幼き日に、二人で自転車に乗って、トンネルを抜け出そうとしていた映像でした。暗闇の向こうの光に吸い込まれるように…まるで、二人で一緒に天国に駆け登るように…そして幼い二人の影は、光の中に吸い込まれて消えて行きました…天国で、ウンソとジュンソは幸せに暮らすんだろうなと思いました。
でも、『秋の童話』は好い作品でした。昭和の時代に生まれ育った者として、何か懐かしさを感じました。昭和50年代(1970年代)以前の日本には、まだこのような考え方が残っていたような気がしました。家族制度がかろうじて生き残っていた時代…家という考え方にとらわれた時代が、日本にもあったような気がします。
それぞれが懸命に生きて、前を向いて歩いて行った時代があったように思います。いつの間にか、西洋文明に毒されて、日本古来の考え方を失って行った日本人…それが悪いことだとは決して思いませんが、豊かで便利な世の中になったけど、人と人の心のふれあいは、昔ほど暖かくないように思います。秋の童話を見ていると、私には懐かしさが感じ取れました。無い物ねだりなのかも知れません…時代に流されて、自分を見失っている、昭和生まれの日本人の象徴なのかもしれません…
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