韓流ドラマ「秋の童話」第16回逃避を見ました
ユミが、ジュンソのアトリエに来ると、台所で物音が聞こえました。ユミはジュンソが旅行から帰って来たと思い、嬉しそうに「ジュンソ」と言いながら台所にはいりました。しかし、台所にいたのは、ジュンソの友人と恋人でした。二人は仲良く料理を作っていました。二人は、ユミの顔を見ると驚いた表情で、「こんにちは…ユミさん…すまないが、台所を借りているよ…ジュンソはまだ…」と言います。ユミは、寂しそうな表情を浮かべていました。
ユミはジュンソの部屋で、一人悩んでいました。そこへ、ジュンソが旅行から帰って来ます。ユミは立ち上がり「ジュンソ…」と言うと、歩み寄りジュンソの胸に飛び込んで行きます。そして「戻らないかと不安だった…」と言います。ジュンソはユミを抱いたまま「約束したろ?…ごめんな…ごめん…不安だったか?…ごめん…」と言います。
ウンソの入院している病院では、二人の母親が廊下の椅子に座って話をしていました。
キョンハはスニムに「検査しても…無駄かもしれない…実の娘じゃないもの…ウンソを失ったのは、血液型が合わなかったから…でも今度は合うような気がする…私にも検査を受けさせてください…お兄さんは一致しなかった…後は私たちに掛かっている…」と泣きながら言います。スニムは「ええ…一致するといいけど…」と答えます。キョンハは「もし家族で合う骨髄が見つからなければ…ドナーを探すのは、時間がかかるらしいわ…あの子が本当の娘だったら…何とかしてあげられるのに…血のつながりがあったら…」と言います。スニムは「いいえ…私はその反対だ…本当の娘じゃなかったら…病気に何て…白血病になんて、ならなかったかも…本当の娘じゃなければ…血のつながりさえなければ…」と泣きながら言います。
ジュンソはベットで眠っていました。その横で、ユミは椅子に座ってジュンソを見つめていました。ユミはウンソのことを言うべきか迷っていました。結局、ユミは何も言うことができずに、ジュンソのアトリエを後にします。暗闇の中で車を走らせるユミの心は動揺していました。そしてユミは、ウンソの入院している病院へと向かいます。
ウンソはベッドで寝ていました。ユミは椅子に座り、ウンソを見つめていました。ユミの目からは涙が流れ、体は小刻みに震えていました。
ウンソは目を覚ますとユミに気がつきます。ウンソは「ユミさん…」と声をかけると、体をおこします。ユミはウンソに「どうしたら…どうしたらいいの?…」と、か細い声で言います。ウンソは「大丈夫よ…ユミさん…私…治るから…死んだりしない…だから泣かないで…それから…」と言います。ユミは思いつめたように「ウンソさん…」と言うのですが、ウンソは遮るようにしてユミに「言わないで…お兄ちゃんには、絶対に言わないで…いつか…二人で帰国したら…笑顔で話すわ…“お兄ちゃん、あのとき私、凄い病気してたのよ”そう言うの…」と…。 ユミは「ウンソさん…」と言いますが、ウンソは「ユミさんの為じゃない…お兄ちゃんの為でもない…私の為なの…私…お兄ちゃんにこんな姿見られたくないの…わかってくれる?…私の為なの…」と言います。ユミはすすり泣きながら「わかった…黙っているわ…その代り絶対に治して…アメリカから戻ったら、私たちと会ってね…どうか病気に負けたりしないで…これは私の為に頼んでいるのよ…私の為なの…」と言います。ウンソは、穏やかな表情で「ええ…絶対に治すわ…もうすぐ手術を受けるの…きっと治すわ…」と言います。ユミは泣きながら「ウンソさん…ごめんなさい…ごめんなさい…」と頭を下げて謝ります。 ウンソは「ユミさん…どうか…お兄ちゃんを幸せにしてあげて…これは私のたった一つのお願いよ…幸せにしてあげて…」と言います。ユミは泣きながら、ただ頭を下げているだけでした。
明くる朝、ジュンソがアトリエの玄関を開けていると、車でユミが返って来ました。
ジュンソは「ユミ…こんな朝早くにどこへ?…」と尋ねます。ユミは「ちょっと、外の空気を吸いに…あなたを幸せにする方法を考えていたの…きっと幸せにする…」と答えます。ジュンソは軽く微笑みます。
ジュンソは、外の洗い場の水道で野菜を洗っていました。そして手を休めると自分に言い聞かせるように「これでいいんだろう?…お兄ちゃんは…約束を守っているよな…」とひとり言を言います。ユミは、その様子を後ろの方から心配そうに見ていました。
ウンソの病室には、テソクにつれられて、ホテルで一緒に働いていた、高校時代からの友人が、お見舞いに来ていました。友人は、テソクに頼まれたのか、顔色の悪いウンソに化粧をしてやっていました。紅筆で、ウンソの唇に口紅を塗っていました。テソクはそんな様子を見ながら、クスクスと声を抑えるように笑っていました。ウンソはそんなテソクをみて不満そうにふくれた顔で「外で待っていて…」と言います。テソクは笑いながら「わかった…もう笑わない…素顔の方がいいのに…」と言います。そして「そうだ、手術の日が決まったって…それまで、あまり無理するなよ…」と言います。ウンソは素直に「うん…」と答えます。友人は、笑顔で「よかったわね…」と言います。ウンソはテソクに「お父さんたちには、もう知らせてあるの?…」と聞きます。テソクは「うん。今夜こっちに来るそうだ…」と答えます。ウンソは嬉しそうに「よかった。久しぶりに元気な顔を見せなきゃ…」といいます。そして友人の方を向いて「もっとお化粧をして…」と言います。友人は紅筆で、ウンソの唇に紅を塗ってやります。口紅を塗り終わるとウンソは友人に「どう?…」と聞きます。友人は「きれいよ…本当にきれいよ…すごくきれいよ…」と溜息をつきながら答えます。友人は懸命に泣くまいとするのですが、顔が固くなって目に涙がきらりと光っていました。ウンソは「カンヒったら泣かないで…」と言います。友人は照れ隠しに笑いながら「泣いてないわ…」と言います。そして「でも心配なの…大変な手術なんでしょ?…きっと、つらいよね…」と言います。ウンソは友人の顔を見て、心配しないように少し微笑みながら「カンヒったら心配しょうね…」と言います。そして「鏡を見てくる…待っていて…」とテソクに言うと、ベットから降りてトイレの洗面所へ行きます。
ウンソは洗面所の鏡の前で、自分の顔をじっと見つめていました。そしておもむろにハンカチで口紅を拭き除きました。その時、廊下から女性の泣きわめく声が聞こえてきました。「手術なんか…最初から無理だったのよ…手術さえ受けなければ…少しは長生きできたのに…みすみすあの子を死なせてしまったのよ…」と…洗面所の鏡には、付き添いの女性に支えられて歩いて行く女性の姿が映っていました。付き添いの女性が「手術しか道はなかったの…最善は尽くしたわ…そんなふうに自分を責めないで…あの子が悲しむわ…かわいそうな子…」となだめる声も聞こえてきました。ウンソの表情は急に硬くなり、心に不安が押し寄せてきました。
テソクと友人は病室でウンソを待っていたのですが、ウンソがいつまでたっても戻らないので焦っていました。二人は我慢しきれなくなって、ウンソを探しに行きます。友人はテソクに「向こうを探してくるわ…」と言うと、二人は手分けしてウンソを探し始めます。テソクは病棟を出て、外を探し始めます。そして、中庭のベンチに不安そうに腰かけているウンソの姿を見つけました。ウンソの目からは涙がこぼれ落ち、両手を顔の前に組んで怯えているようでした。テソクは静かにウンソに近寄って行きました。そして、ウンソの横に座って、何も言わずにウンソを抱き締めました。
ウンソはテソクに「手術なんて受けない…絶対に嫌よ…」と、不安そうに声を震わせながら言います。テソクは抱きしめながら「大丈夫…大丈夫だ…」と声をかけます。ウンソは思わず「お兄ちゃん…お兄ちゃん…」と言いながらすすり泣きます。テソクはウンソの顔を覗き見るようにして「ジュンソを呼ぼうか?…ウンソ…ジュンソに知らせようか?…」と聞きます。ウンソは視線を下げて首を横に振りながら「ダメよ…やめて、絶対にダメ…」と言います。テソクは「ウンソ…」といいます。ウンソはテソクの目を見て「本当にごめんなさい…わがまま言ってばかりで…でも…私…怖いの…すごく怖いのよ…死にたくない…」と泣きながら訴えます。そんなウンソをテソクは抱きしめます。ウンソは震えながら、また無意識に「お兄ちゃん…」と声を出します。
その時ジュンソは、大学で講義をしていました。
ジュンソは「では、終わります…今日で僕の講義は終了です。渡米することになったので、もし来ることがあったら連絡して…ごちそうしますから…一学期間ありがとう…」と言うと、教壇で一礼をします。学生たちから拍手が沸き起こりました。そして学生の代表から花束をもらいました。
ウンソとテソクはベンチに座っていました。ウンソはようやく落ち着きを取り戻していました。テソクは自分の着ていたブレザーコートを脱いで、ウンソに着せていました。
テソクはジュンソに笑みを見せながら「生きていてよかったって…お前が思うことを…五つ当てられたら、オレの言うとおりにしろよ………まず、ご両親…一つだ…それから…あの海…」と言います。ウンソは「思い出の?…」と言います。テソクは「二つ…」と言います。そして「告白ゲーム…」と言います。ウンソはテソクの顔を見て「なんで知っているの?…」と聞きます。テソクは笑いながら「情報源があるのさ…これで三つだ……それから…トッポギ…」と言います。ウンソは、少し驚いた表情で「よく知っているわね…」と言います。テソクは「じゃあ…最後の一つ…思いきって言うよ…ユン・ジュンソ…」と言います。これを聞いたウンソの顔に緊張が走ります。そして、すまなそうに下を向いてしまいます。
テソクはウンソに「じゃあ…言うことを聞いてくれるな…生きてくれ…負けるな…生きてくれ…」と言います。ウンソはテソクの目を見て、静かに首を縦に振ります。そして「もう一つ…付け足してもいい?…生きていてよかったと思うこと…テソク…あなたよ…」と言います。テソクの眼差しが嬉しそうに輝きました。そしてテソクはウンソを抱き締めて「ありがとう…それで十分だ…何もいらない…もう十分だ…」と言いました。テソクノ両目からは、大粒の涙が流れ落ちて来ました。
ウンソはベッドに横たわって、声を出して苦痛にあえいでいました。寝返りの振動で点滴の抗がん剤が揺れていました。ウンソは必死で苦痛に耐えていたのですが、耐えることができずにナースコールのベルを押そうとするのですが、意識を失ってしまいます。
その時ジュンソは、大学からアトリエに帰る途中でした。車のバックミラーを見ると救急車が走っていました。なにか胸騒ぎを感じているようで、盛んに首をかしげていました。
テソクは、病院の廊下にいました。手に持ったトレーの上には、ウンソの為のバナナとコーヒーが乗っていました。その時、医者と看護師が慌ただしく駆け寄ってきて、ウンソの病室に入って行きました。テソクはウンソの異変に気づき、驚いてトレーを落とすとウンソの病室に走って行きました。
ウンソはベッドごとICUに運ばれて行くところでした。テソクは、その様子を見て「ウンソ…」と言いながらウンソに近づこうとしますが、医師に体を押さえられて止められます。それでもテソクは「ウンソ…ダメだ…ダメだ…」と言いながらウンソに近づこうとしますが、医師たちに体を押さえられて止められます。テソクは必死になって、ウンソに「しっかりしろ…ウンソ…負けるな…ウンソ…ダメだ…ウンソ…」と叫び続けます。ウンソは意識のないまま運び出されて行きます。
ジュンソのアトリエでは、ユミが電話の受話器を耳に付けて、茫然と立っていました。そして受話器を落としました。そこへジュンソが返って来ます。
ジュンソは部屋に入るなり「変だな…さっきから胸騒ぎが…」と言います。ユミはそれでもまだ、茫然と立ったままでした。ジュンソはそんなユミの後姿を見て何かを感じ取っていました。
ジュンソは「ユミ?…」と呼びます。ユミは、ゆっくりと振り向いて「ジュンソ…どうしよう…私どうしたらいいの…ウンソさんが…」と泣きそうな顔で言います。ジュンソは不思議そうな顔で「ウンソが?…」と聞き返します。ユミは堪え切れずになきながら「ウンソさんが危篤なの…昏睡状態で…危ないかもって…」と言います。ジュンソは、ウンソに先日会ったときは元気だったと思っていたので、何のことか理解できずに、困惑した表情で「何をいているんだ?……ウンソが危篤?…」と、聞き返します。ユミは苦痛な表情を浮かべて「ウンソさん…病気なの…あなたには黙っていたけど…ジュンソ…どうしたらいいの…どうしよう…もしもの事があったら…」と言います。ジュンソの表情が、困惑から苦悩へと変わって行きます。
集中治療室の前では、ユン教授・キョンハ・スニム・テソク達が椅子に座ってウンソの回復を待っていました。そこへ、ジュンソとユミが走ってやって来ます。
ジュンソは「ウンソは?…ウンソはどこだ…」と聞きます。そして、答えが返ってくる前に、泣きそうな表情で、集中治療室の扉に向かって走って行きます。ユン教授とキョンハは「ジュンソ…ジュンソ…」と名前を呼んで止めようとするのですが、そのまま通り過ぎて行きます。テソクは集中治療室の扉の前に両手を広げて立っていました。そして、ジュンソを抱きとめると「ジュンソ…ジュンソ…」と名前を呼んでなだめようとしました。
ジュンソは「放せ…会わせてくれ…」と言いながら集中治療室に入ろうとします。側にいた男性看護師が、テソクを助けるようにジュンソの体を押しどどめながら「今はダメです…」と言います。ジュンソは泣きながら「どうしても会わなきゃ…放せ…」と叫びます。ジュンソはもみ合いながら「待ってるといったろ…愛していると言うのを待ってるって…ウンソ…ウンソ愛してる…」と叫びました。そこにいた家族は、それぞれが複雑な表情で、ジュンソを見つめていました。
集中治療室の中では、ウンソが生死の狭間を彷徨っていました。医師が瞳孔の検査をすると看護師に「変化はないな…」と言います。家族はガラス越しにウンソの様子を見ていました。二人の母は、泣きながら耐えていました。ユン教授もテソクもじっとウンソを見つめていました。
「昏睡状態です…いつ目覚めるかは分かりません…朝には、はっきりするでしょう…」と、医師の説明が終わると、ユミは、ジュンソの姿がないことに気づきます。ユミはジュンソを探し始めます。ユミが玄関の外に出て見渡すと、茫然と立っているジュンソの後姿を見つけます。ユミはジュンソのもとへ歩いて行きます。そして、ジュンソの後ろから「ジュンソ…」と声をかけます。しかし、ジュンソからの反応はありませんでした。ユミは、ジュンソの前に回り、顔を見つめて「ジュンソ…お願い…何か言って…」と言います。それでもジュンソからの反応はありませんでした。ユミの目からは涙が流れていました。ユミは「ねえ…返事をしてよ…お願い…こっちを向いて…」と言いうと、自分の顔をジュンソの肩に拝むようにつけました。
夜が明けて、ウンソは自室に戻され、寝ていました。二人の母はベッドのそばに座ってじっと耐えていました。キョンハは、ウンソの手をさすりながら「見て…手が動いた…動いたわ…」と言います。スニムは「え?」と言うと、驚いたように身を乗り出します。そして「ああ神様…ウンソ聞こえる?…ウンソ…ウンソ?…」と言います。しかし、ウンソの意識はまだ戻っていませんでした。キョンハはウンソの手をさすりながら「変ね…さっき動いたの…ウンソが手を動かしたんです…本当よ…」と、少し取り乱したように言います。スニムはキョンハに「しっかりして…気を強く持たなくちゃ…今は待ちましょう…必ず目を覚ます…」と言います。キョンハはウンソの顔を見ながら「ウンソ…私の娘…ウンソ…母さんを悲しませないで…母さん悲しいわ…これ以上苦しめないで…」と、泣き声で呼び掛けます。それを聞いていたスニムは、たまらなくなって「お願いだからやめて下さい…」と、大声を出すと泣き始めます。
病室の外では、主治医がユン教授たちに、「すぐには意識は戻らないと思います…」と、経過を説明していました。ユン教授は「どういうことですか?…まさか目覚めないと言うことは?…」と尋ねます。主治医は「確かなことは何も言えません…今日にでも意識が戻るかもしれないし……最悪の事態も考えられます…」と答えました。テソクは険しい表情で「最悪の状態ってどういう意味だ…」と語気を強めて言います。ユン教授はテソクの腕を握って止めさせます。主治医は「たとえ意識が戻ったとしても、すぐに手術は出来ません…この瞬間にも病気は進行していますから…このままお亡くなりになる恐れもあるんです…」と言います。テソクは「亡くなるだと?もう一度行ってみろ…」と言うと、主治医につかみかかろうとしますが、ユン教授が両手でテソクの体をつかんで「やめないか…」と止めに入ります。テソクは「ウンソが死ぬって…軽々しく死ぬなんて言うな…ウンソが死ぬわけないだろ…」と大声を出します。ユン教授は「よしなさい…」と言いながら、テソクを必死でなだめていました。それまで、横で黙って説明を聞いていたジュンソは、黙って落ち込んだ表情で、一人その場を立ち去って行きました。それに気づいたユン教授が「おい…どこへ行く…ジュンソ…」と呼びとめるのですが、ジュンソは無表情で歩いて行きます。
ジュンソは病院の外を歩いていました。テソクが「ジュンソ…」と言いながら追いかけてきました。テソクはジュンソの腕をつかむと「どこ行くんだ…ウンソが苦しんでいるのにどこ行くんだよ…」と言います。しかしジュンソは、テソクの腕をゆっくり振り払うと、何も言わずに無表情のまま歩いて行きます。テソクはジュンソの後姿に「逃げるのか?…彼女を置いて逃げるのか…」と言葉を投げかけます。ジュンソは振り向くとテソクをにらみつけます。そしてまた前を向いて歩いて行きました。その目はうるんで、今にも涙がこぼれそうでした。
アトリエでは、ジュンソの友人と恋人が手をつないで買い物から帰って来るところでした。二人は楽しそうに話をしていました。玄関の前まで来ると鍵が開いていました。恋人のホテルのマネージャが「ジュンソさんかしら?…」と言います。ジュンソの友人は「ジュンソ…」と言いながらアトリエに入って行きます。
二人がジュンソの部屋に入って行くとジュンソはテーブルに座って食事をしていました。友人は心配そうに「どうだった?…」と聞きます。友人の恋人は「いつ戻ったの?…」と聞きます。しかしジュンソは、無表情で何も答えずに、食事を続けました。友人は心配そうにジュンソの顔を見て「ジュンソ…」と呼び掛けます。ジュンソは食事の手を休めて友人に「お昼食べましたか?一緒にどうです…」と言います。友人の恋人が「ウンソさんの意識は戻ったの?…教えてちょうだい…」と聞くのですが、ジュンソは「僕にもわかりません…」と答えると、また食事を始めました。ジュンソの精神状態は、自分の殻の中に閉じこもっているようでした。
テソクは自室で荷物の整理を済ませ、会社に電話を入れていました。
「ええ…しばらく休ませてもらいます…大切な用事なんです…」と言います。するといい返事をもらえなかったのか、テソクは興奮して手に持っていた着替えの服を床に投げつけながら「ホテルより、ずっと大事なんだ…命よりも大切なことなんです…」と大声をあげて電話を切りました。
ジュンソはアトリエの自室で椅子に座りながら、何かを考えているように自分の殻の中に閉じこもっていました。電話のベルが何度も鳴っていました。ジュンソはやっとベルに気づくと、恐る恐る受話器を取ります。テソクからの電話でした。
「テソクだ………お前…本当にこのまま…」ここまで聞くと、ジュンソは電話を切りました。テソクは受話器をこめかみにつけてしばらく考えていました。そして、受話器をそのまま壁の方向に投げ捨てました。テソクは大きく息を吐くと着替えの入ったバックを持って自室を出て行きました。
病室では、二人の母が懸命にウンソを看病していました。それぞれが想いをこめてウンソの体を拭いていました。テソクも交代で、ベッドの横に座ってウンソを見守っていました。ユミは病院からジュンソに電話をかけるのですが、ジュンソは電話に出ませんでした。ジュンソはアトリエで、懸命に絵を描いていました。ウンソの友人がやってきて、心配そうにジュンソの部屋の戸を開けて覗いていました。ジュンソの姿を見て失望したのか戸を閉めて返って行きます。
病室には、ジュンソの友人と、恋人でホテルのマネージャー、そしてウンソの友人が見舞いに来ていました。ただ寝ているだけのウンソを見て、ウンソの友人は涙をこらえきれずに泣き始めました。その後ろにテソクは立って、必死に涙をこらえようとしていました。
ジュンソはキャンパスに向かって海辺の絵を描いていました。そして、思いついたかのように筆を置くと、スケッチブックを取り出し、海辺を背景にした、ウンソの顔がアップで描かれたデッサンを見つめました。
ユミは車の中から電話をかけていました。
「ジファンさん…ユミです…ジュンソはいますか?………え?…」
ジュンソは自分の描いた作品を燃やしていました。そこへ、車でユミがやって来ます。ユミは車から降りると「ジュンソ…ダメよ…やめて…」と言いながら、ジュンソのもとへ駆け寄って止めます。そしてまだ燃えていないキャンパスを火の中から取り出します。
ユミは「ジュンソ…お願いだからやめて…ごめんなさい…私が悪かったわ…この絵は何よりも大切なものでしょう?…こんなことやめて…私が悪かったの…」と、泣きながら言います。しかし、ジュンソは何も言葉を発せずに、ただ茫然と燃えているキャンパスを見ていました。
ユミは泣きながら洗い場で手を洗っていました。後ろからジュンソがやってきて、そっとタオルをユミに渡します。ユミはジュンソを見つめて「ありがとう…」と言います。ジュンソはうつむいたまま「渡米しよう…予定通り来週に…僕はそのつもりだ…」と言うと部屋に戻ろうとします。ユミは「ジュンソ…」と呼びとめます。そして「何を言っているの?…こっちを向いてよ…病気の彼女を残して…」と言っていると、ジュンソは遮るようにして「君は知っていたろ?…承知の上で渡米する気だった…」と言ってユミをにらみつけます。そして「今さら何も変わらない…」と言うと、部屋へ戻って行きます。ユミは追いかけて後ろからジュンソをつかみとめます。
ユミは「ジュンソ…ジュンソ…私は…自分が恥ずかしくて、別れてなんて言えない…私…恥ずかしいことをしたもの…だから…あなたが私を振って…彼女が死ねば、あなたは生きていけない…それなら私だって、死んだ方がマシよ…だから…あなたから別れると言って…お願い…私を捨てて…」と言います。それでもジュンソは、前を向いたまま「アメリカへ行く…君が行かないなら一人で行く…」と言うと歩いて行きました。ユミは立ち止ったまま、ジュンソが歩いて行く後ろ姿を見ながら「ジュンソ…ジュンソ…ジュンソ…」と弱々しい声で言いました。ジュンソは必死で約束を守ろうとしていました。他の者が誰も知らない、ウンソと二人だけの約束を守ろうとしていました。そうすることが、ウンソへの一番の償いになると思い込んでいたのかも知れません。
テソクは病院の廊下を歩いていました。スニムがウンソの病室から出て来ると、テソクと顔を合わせます。
スニムは「テソクさん、来たの…」と言います。テソクは「オレが代わりますから、休んで…」と言います。スニムは嬉しそうな顔で「そんなこと…夜通し看護していたのに…」と言います。テソクは、はにかんだような顔をして「今朝ベッドに入っても寝付けなくて…どうしても…彼女が気になって…そばにいたいんです…」と言います。スニムは納得した表情で「そうおっしゃるなら…お願いします…」と給湯室へ向かいます。
テソクは、病室のドアの引き手を握ると、目を瞑って、大きく深呼吸をしてから入って行きました。ウンソは、意識も回復せぬまま、静かに眠っていました。テソクは、ウンソの姿を見ると苦しそうにうつむいていました。しばらくして顔を上げると、いきなり明るい表情で、ウンソに話しかけました。
「残念だな…まだベッドにいたか…」と……テソクはベッドの横の椅子に座って、笑顔でウンソの顔を見つめました。テソクはウンソの髪をなでながら話しかけます。
「せっかく食いものを買ってきたのに…オレが一人占めするぞ…うらやましいだろう?…この部屋に入るたびに…バカみたいな想像をしてた…オレがドアを開けると、お前はいないんだ…目覚めたお前は…ジュンソと駆け落ちするんだ…オレ…すごくつらいんだけど…今度は…お前を見送るよ…もう追いかけたりしない…だから目を開けてくれ…」と言います。いつの間にかテソクの目は涙で潤んでいました。つらそうにウンソを見つめていました。
テソクは目を押さえながら病室から出てきました。首を手で押さえながら溜息がもれていました。人目から見ても疲れていることがよく分かりました。テソクがふと振り返って廊下の端を見ると、壁にもたれかかって、ぽつりと立っているユミの姿がありました。ユミの表情は暗く、何か思いつめているようでした。テソクはユミのところへ歩み寄ります。
テソクとユミは、病院の庭のベンチに座って話をしていました。
ユミは「お願いよ…もうテソクしかいないの…ジュンソを止めて…あなたの言葉なら耳を貸すわ…」と言います。テソクは、静かな声で「アメリカに行くって?…」と聞きます。ユミは心配そうに「行くってきかないの…絵も全部焼いて…ジュンソ普通じゃないわ…完全に自分を失って、まるで別人よ…」と言います。テソクは少し語気を強めて「つらいのは、みんな同じだ…」と答えます。ユミは目に涙を浮かべながら「もし彼が、生きることに絶望していたら?…」と言います。テソクはベンチから立ち上がります。ユミも立ち上がって「テソク…」と言います。
テソクは「かってに絶望すればいいさ…何様のつもりだよ…彼女が必死で戦っているのに…アイツは逃げている…」と言います。それでもユミはテソクに懇願します。「テソク…お願いよ…ジュンソは誰よりも大切な友達でしょう…本当は心配なはずよ…」と…
テソクは前を向いたまま「お前の望みは何だ?…」と聞きます。ユミは「なにも望まない…この世には、変えられないものがある…あの二人のように…」と答えます。テソクはユミの方を振り向いて「ユミ…そんなつらい役回り…オレにさせるのか…アイツを連れてきて…ウンソに会わせろと?…いくらこんな状況でも…オレにはできない…オレがアイツを連れてくるなんて…嫌だ…それだけは出来ない…絶対に……オレが…最後にウンソの手を取る…」と言います。
テソクはウンソの部屋に戻ってくると、またベッドの横に座ってウンソを見つめていました。そして首をかしげながら、これからどうすべきかを考えていました。
シネは病室の引き手に手を賭けようとするのですが、なかなか勇気が出ませんでした。そこへ、二人の母親がやって来ました。スニムは「シネ…」と名前を呼びます。そして、シネに近づくと「ここまで…何しに来たんだい?…」と言います。キョンハも心配そうにシネの顔を見ながら「シネ…」と言います。シネはキョンハの方を振り向いて「ママ…」と言います。シネの表情も苦痛に満ちていました。
シネとキョンハは、ラウンジの方へ歩いて行きました。歩きながらキョンハは「ウンソには会ったの?…シネ…」と聞きます。シネは、寂しそうな表情でうつむいたままで「お兄ちゃんは来たの?…」と聞きます。キョンハは「ジュンソの様子を見てきてちょうだい…ここに来るように言って…顔も出さないなんて…ウンソが待っているのに…」と言います。シネは沈んだ声で「お兄ちゃんの気持ちも分かるような気がする…私だって、会いたくないもの…」と言います。キョンハは立ち止り、シネの顔を見ながら悲しそうに「シネ…」と言います。シネは「ウンソが私の身代わりになったようで…」と言います。そして、壁際の椅子に腰かけて「私たちが入れ替わってからずっと気にしていた…私があの子の幸せを奪ったの…その上、病気にまで…」と言います。キョンハは、つらそうな表情でシネの隣に腰をおろします。
シネは、隣の母を見ながら「あのとき、入れ替わらなければ…病気になったのは私かも…そんな気がしてならない…」と言います。キョンハはシネの顔を見つめながら「あなたまで、そんなふうに考えないで…母さんを苦しめないで…」と泣きながら言います。キョンハはシネの手を取って、両手で握ると「シネ…ウンソは目を覚ますわよね?…」と言います。シネはつらそうな表情で「もちろんよ…ママ…ウンソは強い子どもの…」と言います。キョンハは「そうね…そうよね…」と言います。
病室では、スニムが洗面器でタオルを濡らして絞っていました。そのタオルで、ウンソの顔や手を優しく拭いていました。スニムの目からは、知らず知らずのうちに涙が流れ落ちていました。ただ回復を祈りながら、優しく体を拭いてあげることしかできませんでした。
スニムは、ウンソの手を拭きながら「小さな手だね…私にそっくりだよ…」と、ぽつりと漏らします。そして、すすり泣きながら「この手のように…父親でなく私に似れば…きっと病気になることもなかったのに…いや…そうじゃない…やっぱり…あんたは私に似たんだ…こんな私に似たから…不幸な運命を背負っちまったんだ…」と言うと、スニムはウンソの手を祈るように自分の顔に当てていました。
ジュンソは、ウンソのことを想いながらアトリエの庭を歩いていました。ふと大きな木を見上げます。ジュンソはウンソとの子どもの頃の会話を思い出していました。
「ねえ、生まれ変わったら何になりたい?…」と…ジュンソは「お前は?…」と聞き返しました。するとウンソは「生まれ変わったら、私は樹になりたい…」と答えました。ジュンソは「樹に?…」と聞き返しました。ウンソは「うん、そうよ…一度根を下ろしたら、二度と動かない樹になるの…そうすれば、もう誰とも別れずに済むから…」と答えました。ウンソの悲鳴ともとれる子ども時代の言葉が、胸の中をこだましていました。ジュンソは、力なくその場に座り込みました。
その時病院では、ウンソの様態が急変して、ベッドごと病室から運び出されて、集中治療室へと向かっていました。医者が焦っている表情で、「急いで…」と看護師に指示をしていました。
集中治療室の前には、二人の母親が壁にもたれて立っていました。ユン教授とシネも廊下に茫然とたちすくんでいました。廊下の向こうから、テソクが走ってやって来ました。テソクは状況が飲み込めずに「何があったんですか?…血圧が下がったって?…」と聞くのですが、誰も答えることは出来ませんでした。
主治医が集中治療室から出て来ると家族を見回しました。ユン教授は深刻な表情で主治医に「なぜ急に…血圧が下がったんですか?…」と尋ねます。主治医は「残念です…我々も手を尽くしたのですが、今夜が峠になるでしょう…」と答えました。二人の母親は、口を手で押さえて泣き始めました。テソクの顔が苦悩で歪みました。主治医はうつむき加減で「後ほど患者を病室に移します…患者さんに最後のお別れを…」と言います。これを聞いたスニムが泣き声を上げます。キョンハは「お別れって、どういうことですか…」と聞きます。シネは何も言うことができずに、ただ心配そうに立っていました。主治医は「お気の毒です…」と一言いうと、集中治療室の中へ入って行きました。スニムは、壁に顔をつけて泣き始めました。キョンハは「ウンソ…」と言うと、崩れるように廊下に倒れ込みました。シネは「ママ…しっかり…ママ…」と言いながらキョンハの体をゆすっていました。テソクは、はけ口のない苦悩と悲しみを顔を歪めながらも必死で耐えていました。
キョンハは、ベッドに寝かしつけられて、点滴を受けていました。スニムは茫然とした表情でキョンハに付き添っていました。ユン教授は、一人病院の外に出て、庭石に座りタバコをくゆらせていました。そして、今までの出来事を思い出していました。
ウンソが産まれた日、まだ、幼すぎたジュンソを連れて新生児室に行ったときのことを…
「妹のウンソだ…可愛いだろう…ちょっとここでいい子にしてろよ…」と一人にしたことを…血液検査の結果、ウンソが自分の子どもではないとわかったときに、ウンソだけを残して渡米したことを…ジュンソがウンソと結婚するといったときに、ウンソの前でジュンソを思いっきり殴った事を…ウンソが白血病とわかったときに、ユミに「渡米はもうすぐだ…ジュンソがいてもウンソの為にならん…」と言ったことを…そしてそのことをキョンハに「あなた…あなたは、ウンソに会う資格はない…」と、なじられたことを…思い出していました。
ユン教授は目を瞑り、ウンソを亡くす悲しみと、自分が犯した罪に耐えかねていました。ユン教授の体は小刻みに震えていました。目からは涙が流れ落ち、こらえる事の出来ない、すすり泣く声を出していました。ユン教授は、心の中でウンソに詫びを入れます。「ウンソ…すまない…お父さんはこうするのが一番いいと思ってた…家族の為に最善の道を選んだつもりだった…それでみんなが…幸せになれると信じて…お前の気持ちを知りながら…何もしてやれなかった…すまない…ウンソ…お前にさよならを言う資格なんて…父さんにはない…どうか許してくれ…」と…
テソクはウンソのベッドのそばに付き添っていました。ウンソの手を握って見つめながら、じっと考えていました。そしてテソクはウンソに話しかけます。「もう、手も振り払えないのか…オレが必ず…ジュンソを連れてくる…だから待ってろ…」と言うと、テソクはウンソの手を静かに置いて立ち上がり病室を出て行きます。
外は夜になっていました。テソクは車で、ジュンソのアトリエへ向かっていました。
ここで、第16回逃避は終わりました。
ウンソの死期が近まって、今までは、勝手なことをして来た人たちの人間性の成長が見られたような気がします。それも、ウンソの心根の優しさと、人間性の素晴らしさが導き出したのかもしれません。
裕福に育てられたウンソが、極貧のどん底に投げ出され、一卵性の母子のように面倒を見てくれた養母とは引き離され、極貧の中でも不満を言わずに実母に尽くしてきたウンソ…清貧の凛々しさを捨てることなく生きてきたウンソ……せめてシネが天敵でなければ、ウンソの人生も変わっていたように思います。子ども時代とはいえ、ジュンソから貰うはずだった時計を机の中に入れて、ウンソを罠にはめるシネの性格では、どうしようもありませんでした。そのシネが、ウンソのことを思いやることが出来るようになるとは…
テソクもまた、最初は人生を斜に眺めて、ただイラつく不良青年でしたが、ウンソを愛することによって、人を思いやることのできる好青年へと成長したように思います。
ユミもまたそうです。ジュンソを盲目に愛して、自殺まではかって、思うままにコントロールしていたのですが、最後はジュンソに「ジュンソ…私は…自分が恥ずかしくて、別れてなんて言えない…私…恥ずかしいことをしたもの…だから…あなたが私を振って…彼女が死ねば、あなたは生きていけない…それなら私だって、死んだ方がマシよ…だから…あなたから別れると言って…お願い…私を捨てて…」と言って、ウンソとジュンソを思いやることのできる人間へと成長しました。人間の生死と言うものは、不思議なものですね。
それから、人間追いつめられると本能が出るものだなと思いました。手術を失敗して、亡くなった患者の家族が泣き叫ぶ姿を見て、ウンソは恐怖のどん底に落ち込みました。それをなだめようとして、ウンソを抱き締めるテソク……、しかし、ウンソの口から思わず出た言葉は「お兄ちゃん…」でした。この言葉を聞いたテソクは辛かったと思います。しかし、これが本能なのかもしれません。仕方のないことだと思います。
また、ジュンソが集中治療室の前で、「待ってるといったろ…愛していると言うのを待ってるって…ウンソ…ウンソ愛してる…」と叫んだことも、やはり本能だと思います。どんなに「心の中だけで愛し合おう…」と約束しても…頭の中では理解していても…追い詰められた人間は、本能が出るのかもしれません。ただ、冷静になったときに、何も知らない人たちには、ジュンソの行動は逃避に見えるのかもしれませんが、ジュンソはジュンソなりにウンソとの約束を懸命に守っているようにも見えました。ウンソの言葉「私たちを愛してくれる、テソクやユミさんの為にも…」が、ジュンソの心を支配していたのかもしれません。
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