2011年12月28日水曜日

韓流時代劇「風の絵師」第2話掌破刑(前)を見ました


第二話 掌破刑(前)



 ホンドは、片手でユンボクを抱え、片手で落ちて来る屏風を受け止めます。そしてユンボクを地面に放り出します。ホンドは自分の正体がユンボクにばれると、急に厳しくなります。ユンボクも済まなそうに、ホンドに頭を下げます。ホンドはユンボクに屏風を教室まで持って行くように命令します。

 教室では、兄のヨンボクが「便所が長いな…」とユンボクの事を心配していました。別の生徒は、「すっきりしたら帰って来るさ…」とホンボクの気持ちもわからずに言います。他の生徒たちは、教室で騒いでいました。そこへホンドが遣って来ます。ホンドは、しばらくの間生徒達を見まわし、歩きながら様子を見ます。ホンボクは、ユンボクが帰って来ないので、はらはらしていました。そこへユンボクが屏風を抱えて教室へ入って来ます。それを見たヨンボクはほっとします。

 ホンドは「今日の授業は、屏風の模写をする…」と言います。すると生徒長が「模写の授業は済みました。」と言います。ホンドは屏風をさかさまにして「では、これを模写しろ…」と言います。その授業の奇抜さに、生徒達は唖然とします。

 ホンドは「頭の中に描く造形がある…絵を描くというと頭で考えて描くと思いがちだ…しかし、逆に置いてみると新鮮に見えないか…こうすれば、頭で考えるのではなく、実物がありのままに見えてくる…見慣れたものを新たに見直すのが、絵を描く者が持つべき基本的な資質と言える…」と言います。

 この時、王宮では、王と王大妃が将棋をしながら腹の探り合いをしていました。



別堤のチャン・ピョクスは部下を呼び付けて、ホンドの様子を聞きます。
 「ホンドは、何をしている…」
 「それが…」
 「何をさせた?」
 「絵の模写です…」
 「模写だと?」
 「はい」
 「模写とは…」
 「それも逆様にです」
 「逆に?」
 「はい」
 「逆様に…」
 「捜査しろと言うのに、逆様の絵とは…」

 図画署では、生徒達が逆様にした屏風の模写を懸命に描いていました。
 ホンドは、絵を描いている生徒達に「絵とは何だ?」と問いかけます。生徒達は、一斉に教科書を開いて調べようとしますが…ホンドは「本にはない…思うことを話してみろ…絵を描くとは何だ?」と言います。そして一人一人に聞き始めます。
 「お前」
 「はい、描くということは…目に見えるものを紙の上に移すことで…」
 「はっきりせんな…」ホンドは次に、ホンボクに聞きます。
 「絵を描くということは、つまり…」ホンボクが詰まると、次々に聞いて行きます。
 「お前は…」
 「絵を描くということは、筆を利用して…」
 「匙で絵を描くやつはいない…」
 生徒長は「時間が経てば消えてしまう…天地のすべてを記録する事です…」と答えます。すると、生徒の間から「おう…」という相槌が聞こえます。そして「主上殿下の目が、すべてに及ぶことを意味し、画員の絵は、時間と空間を超える…王室の権威を現します。」と答えます。
 ホンドは、斜め上を見ながら、まあ、生徒の答えとしてはこんなものかと思いつつ、ゆっくりと拍手を始めます。すると、他の生徒達も拍手をします。
 ホンドが「名前は?」と聞くと、すかさず「申し上げたように生徒長で、チャン・ビョクス別提を…父に持つヒョウォンです。」と答えます。
 ホンドは「お前…」と言うと、生徒長は「はい、ホンド先生…」と答えます。
 ホンドは「言葉が多い…口は立派な画員だな…」と言います。生徒長は、少しむくれた様子で座ります。ホンドは「他に答えられるものは?…」と問いかけながら、生徒の周りを歩きます。そして「絵を描く者が、なぜ絵を描くのか考えていないのか…何の為に図画署で座っている…それでも絵描きか?…」と生徒達を叱りつけます。
 その時、ユンボクの父で元老画員のシン・ハンピョンは、別の画室でホンドの授業の成り行きを心配していました。そしてそばにいた画員に「インムン、もしかしてホンドの授業の内容を知っているか?」と聞きます。イ・インムンは、ホンドの友人でした。
 インムンは「任せてくれと言われました…」と答えます。
 「任せろと?…」

 教室では、以前としてホンドの質問が続いていました。しかし、ユンボクだけは、一人素知らぬふりで絵を描いていました。ホンドはそれに気づいて…
 「一人だけ絵を描いている奴…そこの半人前…」と言います。隣の生徒が、気付かないユンボクに合図を送ります。ホンドは「お前が答えてみろ…描くとは何か…」と言います。
 ユンボクは、しぶしぶ立ち上がり「描くことですか…」と言います。生徒の一人が、隣のホンドよりも年上の10年間画員試験に落ち続けている生徒に「あれじゃ指されるさ…」と小声で言います。
 ユンボクは「描くと言うことは…懐かしさではないかと…」と言います。ホンドは、少し考えながら「そうか…どうしてだ?」と聞きます。ユンボクは「はい…懐かしさが絵になったり、あるいは絵が懐かしさを生んだりしませんか…」と言います。ホンドは静かに「続けろ…」と言います。
 一番年長の生徒が「大したもんだ…」と小声で言います。
 ユンボクは続けます。「懐かしい人がいれば、その人が思い出され描くので、懐かしさは絵になり…」と言うと、ホンドが「懐かしさが絵になる…それから?」と言います。
 ユンボクは「また、その人の絵を見ていれば、忘れていてもその人が懐かしくなるので、これは絵が懐かしさになると言うことでは?」と言います。ホンドは「絵を見れば懐かしくなる?」と言います。ユンボクは「はい、だから…つまり…描くことは懐かしさです。」と言います。生徒達は、ユンボクの話を聞いて、唖然としていました。
 ホンドは「懐かしさか…描くことは懐かしさか…」と、自身に言い聞かせるように言います。そして、ユンボクの目を見て「お前の名前は?」と聞きます。ユンボクは「はい、シン・ユンボクです。」と答えます。ホンドは、じっとユンボクの顔を見つめていました。
そしてホンドは、紙に横三列、縦三列の点9個を描きます。「明日までに、これを解くのが課題だ。筆を一度も離さずに、九つの点を通る…四つの線を引くことだ…分かったか…今日はここまでだ。」と言います。生徒達は、厄介な課題が出たと思います。

別提チャン・ピョクスは、古びて陰気くさい長老画家の仕事場に来ていました。
「先生…ぺクぺク先生(ホ・シム丹青室元老)」と声を掛けます。
ぺクぺクは「図画署の別提が何の用だ。こんな薄汚い調色室まで、何をしに?」と言います。ピョクスは「お話があります。」と言います。ぺクぺクは仕事をしながらピョクスに「座れ」と言います。ピョクスは椅子を持って来て、ぺクぺクの横に座ります。
ピョクスはぺクぺクに「屏風絵を逆さに描くのは何の為ですか」と聞きます。するとぺクぺクの目が鋭く変わります。そして「屏風を逆さに?」と聞き返します。ピョクスは「はい」と答えます。ぺクぺクは独り言のように「逆様に描いた…」と言います。そして「普通に描いた絵が無くては役に立たない…」と言います。ピョクスは「普通の絵?普通の絵…」と言って考えます。そして「屏風模写の授業は基本過程なので、その絵はあります。」と笑いながら言います。そして「さすがぺクぺク先生です。」といいます。しかし、ぺクぺクの鋭い眼差しは変わりませんでした。「それは…これを見る為だ…」と言いながら、指で目を指します。
「目ですか…」
「頭ではなく…これで絵を描く能力…それを見るんだ…」と指で目を指しながら言います。
「それで、画員の特徴が分かると?…」
「そうだ…誰がそんな課題を出した?」
「ホンドです。」
「ホンド?…ホンドか…お前の目のトゲか…図画署が面白くなりそうだ…」と言うと、ぺクぺクは笑いだします。ピョクスは難しい顔をして、ぺクぺクを見つめていました。
ピョクスは用が済むと、丹青室を出て図画署に帰る途中振り向いて、丹青室を見ながら「あの年寄りめ…何時あっても気分が悪い…」と言います。そして、体に着いた絵具の粉やほこりを振り払いながら帰ります。

ピョクスは、図画署の執務室で、宮殿の役人とあっていました。
役人は「それでは、捜査は上手く言っているのか…」と聞きます。ピョクスは「見守っています。」と答えます。役人は「ただ、見てばかりはいられない。王大妃様が厳命を下した…」と言います。
ピョクスは「厳命ですと」と聞き返します。すると役人が「王大妃殿は、私たちを…ホンドに捜査を任せきりだと考えておられる…王大妃様は、今度の事を曖昧には済ませない。掌破刑の道具が出れば、必ず使われる…」と言います。ピョクスは、「分かっています…生徒がおびえて口をつぐまぬよう、元老画員に口止めをしています。ホンドの捜査も授業だと思っているので、まもなく…その生徒が分かります。」と言います。
すると役人が「ただ待つだけでいいものか…もしその生徒を探し出せなければ、王大妃様が、何処まで責任を追及するか…つまり…」と言います。ピョクスは直ぐに「どうなりますか?」と聞きます。役人は「ホンドを管理監督できなかった、お前と私まで…掌破刑があり得ると言うことだ…分かったか…」と言います。ピョクスは「王大妃様がそう言ったのですか?掌破刑に処すると…」と聞き返します。
二人の話をピョクスの息子の生徒長達が盗み聞きしていました。
生徒長が「掌破刑に処すると…」と言うと、別の生徒が「誰を掌破刑にするんだ?」と聞き返します。掌破刑とは、手を石で打つ刑でした。生徒長は「さあな…ホンド先生と言って、掌破刑と…」言います。すると別の生徒が「ホンド?…ホンド先生…まさか…」と言います。

二人は、別の生徒達がいるところに走って行きます。「大変だ!」と叫びながら…
「大変な事に成った…本当に大変だ…」
生徒達が集まって来ます。
「どうした?…言えよ」
「ホンド先生が…とんでもないことだ…」
「何だよ!」
「あの奇妙な課題があるだろう…解けなければ…」
「どうなるんだ!」
「掌破刑かもしれない…」
「掌破刑?」
「おい本当か?」「本当かよ」
生徒達は、みんな心配そうにしていました。そして、みんなで課題を解き始めます。
「筆を一度も離さずに、九個の点を通る…四本の線を引くことだ…」みんなでいろいろと考えては見るのですが、答えは出ませんでした。ユンボクは自室で寝転びながらも思案にふけっていました。
「全然分かんないよ…」「答えがあるのか…」「到底解けない…」他の生徒達は、口々に嘆いています。

画商の店の中では、大商人キム・ショニョンと使用人が話していました。
「全部そろったのか…」
「筆写した“三国志演義は市場に出ました…最近は三国志演義の貰冊が人気です」(貰冊とは、金を払い本を借りること)
「そうだろうな…では、もっと描かせてくれ…紙の事は、紙屋に伝えて置く…」
「はい」
キム・ショニョンは、お付きのものに「行こう…」と言うと店を出て行こうとしますが、使用人が「旦那様、これを見て下さい…」と言って絵を出します。
「ある画工の俗画ですが、客の反応がいいので買っています。」と言います。キム・ショニョンは「そうか…」と言うと、絵を受け取って見ます。「“春色満園中 花開 爛漫紅”か…春の光が満ち、花は見事に咲いている…」
「しかし、絵の中には青い葉だけで、花は咲いていません…」
キム・ショニョンは、真剣に絵を見ながら「トゥルマギを来た両班の顔だ。酒が回った赤い顔を花と表現したな…機知にあふれている…」と言います。使用人は「若い画工ですが、才能はあるようです。」と言います。するとキム・ショニョンは「筆勢もいい…“日月山人”…”日月山人“か…何処のものだ?」と言います。使用人は「知りませんが、明日新作を持って来ます。」と答えます。
「そうか…“日月山人”か…値をよくしてやれ…」と言うと、キム・ショニョンは店を出て行きます。

その頃ユンボクは、自室で“日月山人”として新作を描いていました。また、ホンドは図画署で、友人のイ・インムンと生徒達の絵を見ていました。
イ・インムンは「本当に同じものの作品か…こんなに違う…」と言います。
ホンドは「逆様だからな…逆様だと、頭の中の幻影を描くからへんな絵になる…」と言います。
インムンは「しかし、逆さにおいて同じ絵を描ける者はいない」と言います。するとホンドは「そうかな?」と言うと、別の棚にある絵を見て「これを見てみろ…」と言います。インムンが、絵を取って見ようとすると「触らずに…」と言います。
インムンが、絵を見比べているとホンドは「どうだ、同じか違うか…」と聞きます。インムンは、真剣になってその絵を見ます。そして、にゃっと笑って、ホンドの体を叩き「これが逆さの作品か…」と言います。ホンドは「相変わらず、人を信じないな…これは頭の中でなく、見えるままに描いたんだ。それは学べる事ではない。虎より鋭い生まれつきの目だ…」と言います。インムンは「これは誰の絵だ…」と言いながら、名前を見ようとしますが、ホンドは慌てて名前を隠します。そして「まだ、言うには早い…」と言って絵をかたずけます。

数人の生徒達が、庭の塀のそばに集まって、課題の事を考えています。
「勉強なんてガラじゃないんだがな…」
「仕方ないでしょう。手首を守るには、力を合わせないと…」
「図画署で飯を10年食ったが、こういう場合は…」その時「カッコウ、カッコウ…」と女の声がして来た。すると、ホンドよりも年上のできの悪い生徒が「来た」と言います。女は子どもをおぶっていました。年上のできの悪い生徒の妻のようでした。女は塀越しにひもを庭に投げ入れました。
「引っ張れ…」生徒達は、ひもを引っ張り始めます。荷物を庭の中に引き入れると、年上の生徒が塀越しに「ありがとう。お前がいて心強い…カッコウ…」と言います。すると女は「精進して、今年は必ず画員試験に通って…」と言います。年上の生徒は「精進に精進を重ねるよ…」と答えます。女は「そっちに行こうか…随分あってないし…」と言います。別の生徒が「どうぞ…」と言いますが、年上の生徒は手で別の生徒を制止します。そして「いや、来なくていい…絶対に超えて来るなよ…」と言いながら、手では生徒達にあっちへ行けと合図します。そして「いや、会わずに忍ぶ方がいい…カッコウ」と言います。すると女は「やっぱり考えが深いですね。それでは帰ります。」と言って帰ろうとするのですが、また振り向いて「花煎(ファジョン)も入れたから、あなたが食べて…必ずですよ。」と言います。年上の生徒は「そうするよ、いつも体に気お付けろよ…カッコウ」と言います。女も「カッコウ」と言って帰ります。
別の生徒が「早く行こう。匂いがたまらない…」と言うと、みんなは寄宿舎の広間へ行きます。
「妻が、オレの為に夜なべして作ったんだ…たくさん食べろ…」
「最高だ」みんなは食べながらも課題の答えをどうにか考えようとしていました。生徒の一人がユンボクに、「ここか、ここか」と聞きますが、ユンボクはその度に「もっと横、もっと横と言いました。しかし、それでは点の位置から線がはみ出してしまいます。生徒長が「あの点の中で解けと言われた…」と言うと、ユンボクは、少し不満げに「そんな必要があるのか…」と言います。すると生徒達は「何を考えている…」と言います。年長の生徒も「それはそうだろ…」と言います。ユンボクは不服そうに「どうして…」と言います。
生徒長は「左側の下端から…」と言って遣ってみるのですが、結局は上手くいきませんでした。生徒の一人が「ケウォルへ行けると思っていたのに…」と言います。別の生徒が「これでは明日いけないよな…」と言います。また別の生徒が「こんな雰囲気だし…延期した方がよくないか…」と言います。
生徒長は「よく考えてみろ…風流を知らずに画員と言えるか…昔から、酒を墨とし、女の体を紙とみなしてこそ、まともな絵が描けると言う…」と言います。すると別の生徒が「そのとおりだ…かっこいい…行こう、行こう…」と言います。生徒長が「1人も欠けるなよ…お前達に、風流を教えようと…最高の琴妓チョンヒャンを呼んだ…」と言います。
別の生徒が「琴妓?伽耶琴妓生?」と言います。(「琴妓」伽耶琴を弾く妓生の事)「松都から来たという…」「そのチャンヒャン?」「生徒長万歳!」と何やら悪だくみをしているようでした。

ホンドが描いた解答
あくる日、授業中にホンドが、課題の回答を示します。「これが答えだ!」

生徒達は誰もわからなかったので、罰として硯を持たされて、手を前に突き出して、立たされていました。生徒達は、手が震えて辛そうでした。
ホンドは「これで分かったか…全員が集まって、一晩中悩んでも解けなかったのか…一体何をしていた…それでも御真画師になり、国事を担えるのか…図画署の将来は真っ暗だ…しっかり持て…」と言います。すると生徒長が「しかし、その答えは、線が四角から出ています。」と反論します。
ホンドは、「九個の点だけで、四角の枠は最初から無かった…自らの枠に閉じ込められ、答えを探せなかった。枠を脱すれば道は生じる…」と言います。するとユンボクが「師匠…それなら、三本の線でできます。」と言います。ホンドが「三本の線だと?…三本の線では無理だろう…」と言うと、ユンボクは食い下がります。「答えはあります。気付かなかっただけで…」と…
ホンドは「その答えが分かっているのか…」と、ユンボクに聞きます。そして、答えを描くようにと言います。ユンボクは、硯を置いて前に出ます。年長の生徒が隣の生徒に「どうするつもりだ…」と聞きます。
ホンドは、ユンボクの顔をじっと見つめて、筆を渡します。その授業の様子を画員達も覗き見していました。そこへユンボクの父も遣って来ました。

ユンボクか描いた解答
ユンボクは、枠からはみ出して、三本の線を引いて点をつなげます。そして「これで間違っていますか…」とホンドに訪ねます。ホンドは、しばらくの間、じっと回答を見ていました。そして、「厳密には、この線は三点を通っていない。上・中央・下をかすめているだけだ。正確に貫くと言えない…」と言います。そして、生徒達の方を振り向いて、「そうだろう…」と確認を求めます。生徒達は、ユンボクをばかにしたように笑います。しかし、ユンボクは反論します。「先生は、必ずしも間違っていません。」その言葉に、生徒達は唖然とします。そしてホンドは、ユンボクを見つめます。
「必ずしもだと、どう言う意味だ?」
「線の傾きを考えて下さい。線の傾きは、角度が大きいほど急になります。そして反対に、角度が小さいほど、傾きが緩やかになります…」
「何を言っているんだ…」生徒達はユンボクの話について行けません。
「それで…」ホンドは、ユンボクの話を真剣になって聞いています。
「それで、角度が無限に小さくなれば、中間線の傾きは無くなります…」
「何の話だ…」「分からん…」生徒達は、ユンボクの説明に全くついて行けません。
「こうです。無限に果てしなく描き続け…またこの線が無限にあっちに行きます…こうして…もっと…もっともっと無限まで行くと、線の角度は無限に小さくなります。言いかえれば、間の線はその角度が消えて行き、この中央にある、この三点をまっすぐに通ると思います。」
ホンドは、ユンボクの回答を真剣に理解しようとしていました。その姿を見て、生徒達は「師匠とユンボクが議論している」と小声で話しています。生徒長は「ユンボクには無理だ…」と言います。
そして、ホンドは「これは、怪返だ。」と言います。ユンボクは、食い下がります。「どうして、怪返なのですか…」と言います。ホンドは「明快でないからだ…誰もが理解できてこそ回答と言える。お前の解釈法をみんなに説明できるか…」と言います。兄ヨンボクは、はらはらしながらユンボクの事を見つめています。
ユンボクは、それでも諦めずに「はい」と答えます。そして、「できます…」と言います。ホンドはユンボクに「遣って見ろ…」と言います。
ユンボクは「ただし、必要なだけの紙を用意させて下さい」と言います。ホンドは「必要なだけだと?」と言います。ユンボクは「はい。そして、数十個の硯に墨汁を満たして下さい。」と言います。ホンドは「数十個の硯に墨汁だと?」言います。ユンボクは「それなら、正解の線を引いて見せます。」と言います。ホンドは「その紙と墨汁がなければ、証明できないんだな…」と言います。すると、ユンボクは「逆に、多くの紙と墨汁があれば証明できるということですね。」と切り返します。
一人の生徒が生徒長に小声で「どうなっているんだ…どっちが勝った?」と尋ねます。生徒長は「うるさい…」と答えます。その様子には、ユンボクへの嫉妬心が垣間見えます。ホンドは、ユンボクの描いた解答を見ながら、さらに真剣に考えています。そして、生徒達に向かって、硯を「しっかり持て…」と言います。その姿には、焦りが感じられました。
ホンドは生徒達に「この問題は、何時か解決されるまで、胸に収めておこう…今日の授業はこれで終わりだ。」と言います。生徒達は、硯を持つ罰を止められることでほっとしますが、生徒長だけは嫉妬心がわいていました。一人の生徒が「お疲れさまでした…」と言うと、生徒達は席を立って行きます。ホンドは、その姿とユンボクを見ながら、ユンボクの才能に驚いていました。ユンボクは、一礼して席に戻ります。
ホンドの友人インムンが教室に入って来ます。「おい、ホンド…犯人を捜したか…」と言います。ホンドは、黙って周りを見回します。
インムンが、ユンボクの解答を見て「これは…実に奇抜な方法だな…」と言うと、ホンドの顔を見ます。二人の視線が合い「まさか、アイツか…二つの絵が同じの…」と言いますが、ホンドは無言でうつむきます。インムンは「あああー…」とため息をつきます。そして「おしい才能を失うな…この生徒は誰だ?」と聞きますが、ホンドは無言を貫きます。その姿には、苦悩がにじんでいました。
インムンは「私にも言わないつもりか…」と聞くと、ホンドはやっと「まだ、その時期じゃない。」と言って、ユンボクの解答を見つめます。そして「会ってみる」と言います。インムンは「あってどうする?」と言いますが、ホンドは「確認もせずに手を切って、お前なら眠れるか…気楽なもんだ…」と言うと、少し怒った表情で教室を一人で出て行きます。
ホンドは、ユンボクのとてつもない才能を惜しんでいました。ユンボクは、ホンドの解答を乗り越えて、遠近法という西洋の技法を自然に会得しかけていたからです。ホンド自身にも、ユンボクの概念は新鮮でした。そして、驚きを感じていました。

生徒達は、それぞれが私服に着替えめかしこみ、計画していた夜のお遊びを実行しようとしていました。みんなが揃うと、浮かれて夜の町へ出かけて行きます。生徒達とすれ違いに、ホンドは図画署の寄宿舎へ遣って来ます。
「待て!」ホンドは、一人遅れて来た生徒を見つけて声を掛けます。「その格好で何処へ行く…」と聞きます。生徒はうつむいて「酒を飲みに行くわけでは…」と答えます。ホンドは「何だと?…巫女にでも成ったつもりか…」と言います。生徒は「今日は、生徒長の誕生日ですから、みんなで妓房に…」と言います。ホンドは「妓房?」と問い返します。生徒は、困った表情で「いえ、あの…女人を紙とし、酒を墨として、風流を楽しもう…」と言います。ホンドは「何だと?…ムチは覚悟しておけ…」と言います。生徒は泣きそうな顔で「私は誘われただけです。申し訳ありません。」と言います。
ホンドは生徒に「寄宿棟には誰がいる…」と聞きます。生徒はオドオドしながら「寄宿棟ですか…ユンボクとヨンボクが…」と答えます。ホンドは「分かった、行け…」と言います。生徒はオドオドしながら、妓房へ行くべきか寄宿棟に帰るべきか少し考えますが、妓房へ小走りで向かいます。

父シン・ハピョンの部屋に、兄ヨンボクが呼ばれていました。
 ハピョンは、筆の手入れをしながらヨンボクに「授業は聞いた。ユンボクが一人で問題を解いたのか…」と聞きます。ヨンボクは嬉しそうに「はい…師匠も考えなかった方法で…素晴らしいです。」と答えます。
 ハピョンは、嬉しそうに笑いながら「確かにそうだ…群鶏の一鶴だな…しかし…出る杭は打たれるものだ…意味がわかるか…だから、お前がよく面倒を見てくれ…」と言います。ヨンボクは「はい父上、心配ありません。」と答えます。ハピョンは、安心したように「そうか…ユンボクは?」と聞きます。ヨンボクは「疲れたので、早く寝るそうです。」と答えます。ハピョンは、嬉しそうにまた笑いながら「そうか…」と言います。

 その頃ユンボクは、寄宿棟の自室で、何やら抜け出す為の準備をしていました。私服に着替え、顔にはつけ髭を付け、蒲団はいかにも寝ているような偽装を加えていました。「これでよし…」と言うと、筒状に丸めた紙を手にすると、灯りを消し、様子を見ながら部屋の外に出ました。
 ユンボクに会いに来たホンドは、部屋を探しているうちに、木陰からその姿を見ました。不審に思ったホンドは、ユンボクの後をそっと付けて行きます。街中に出るとユンボクは、素早く歩いて行きます。それを見ていたホンドは「豆粒なのに早いな…」と感心します。
 ユンボクは、露天の店で商品を眺めていると、誰かに見られているような殺気を感じ、その場から立ち去ります。ホンドも慌てて追いかけます。ユンボクは、誰かにつけられているように感じ、小走りで逃げて行きます。人ごみにまぎれ、酒場に入り、上着を脱いで客に変装しました。ホンドは、酒場までは来るのですが、ユンボクに気付かず出て行きます。ユンボクは、ホンドが出て行ったあとで、目的地の画商の店へ向かいます。

 店に着くと、店のものがユンドクに「持ってきたか…」と言います。ユンボクは「持ってきた…」と答えます。そして、ユンドクが絵を出すと、店の者は絵を見て、がさつに笑います。そしてユンドクに「両班野郎が下女の手首を握ったな…」と言います。ユンドクは「どうだ?」と覗き込むようにして言います。店の者は「女人が若い男に手首を握られれば、話は終わりだな…素材は本当にいい…しかし…」と気を持たせたように言います。ユンボクは「しかし?…何か悪かったか…」と尋ねます。店の者は「この岩が少しね…」と難癖を付けます。ユンボクは「“この岩が少し”…」と言いながら、不服そうな目で店の者の顔を見ます。店の者は「これを何というか…」と下心がありそうに言います。ユンボクは「“何と言うか”…何が?…」困ったように言います。すると店の者が「これは弱いな…」としかめっ面をして言います。ユンボクは驚いたように、少し慌てて「何がどのように?…」と言います。店の者は「とにかく弱い…まだ若いから可能性は充分にある。挫折せずに精進しなさい…」と言います。そして財布から5両出してユンボクの手に握らせます。ユンボクは、手にした銭を見て「また5両?」と尋ねます。すると店の者がすかさず「私だからこそこれだけ出すんだ…」と言ってユンボクを納得させようとします。そこへ、客らし気人影は入って来ます。店の者はユンボクを追い出すように「さあ帰って、精進を忘れないように…また来週ね」と言います。ユンボクが店を出ると客に「いらっしゃいませ」と言います。ユンボクは、まんまと店の者の駆け引きに騙されました。本当は、主人から、ユンボクの絵を「高く買ってやれ…」と言われていた店の者から…

 しかし、このまま騙されるようなユンボクではありませんでした。店の者が、客の相手をしているところをそっと覗いていました。
 「良い物は入ってきたか…」と客が聞くと、店の者は愛想よく「ちょっとお待ちください」と言うと、覗き込んでいたユンボクに手で早く出て行けと合図します。ユンボクは「分かった、では来週…」と言って出て行きます。
 客は「本当に新しく入ったのか…」と聞きます。店の者は「ありますとも、出来たてほやほやが…」と笑って言います。客は「それを見せてくれ…」と言います。店の者は、座敷に挙げて、今持って来たばかりのユンボクの絵を見せます。「この女人がそっと腰を引き、それでも嫌がっているようでもなく…」と店の者が言うと、客は「この笑顔ならば、若い男は放っておけない…」と言います。店の者は「そうですよ…墨の線だけ引かれた文人がより、俗画がずっと率直で、見る楽しみも有ります…人間味が感じられるというか…」と言います。客は「それにここに、奇岩があるから密かな雰囲気が出ている…この画工は天才ですよ…」と言います。そして「いくらで売る…20両か?22両…」と言います。店の者は「ご冗談でしょう…50両以下では無理ですよ…」と言います。客は「何だと…」と言います。
その様子を窓の外からユンボクは確りと見ていました。そして、手の中の銭を見ながら「何だって…5両…残りは画評代として受け取ったことにしよう…」と独り言を言いながら納得して帰り始めました。そこへ、待ち受けたようにホンドが現われます。ユンボクはホンドの顔を見るなり逃げ出そうとするのですが、ホンドがユンボクの腕をつかみ「何処へ?」と言います。ユンボクは「何ようですか?」と言って、また逃げようとしますが、ホンドが「こいつめ…」と言って、また手をつかみ逃がしません。ユンボクは「何をするんですか…」としらばっくれるのですが、ホンドはユンボクの顔をつまみ、そしてつけ髭をはがします。見破られたユンボクは、おとなしくなります。

二人は酒屋に入っていました。ユンボクはホンドの前に神妙に座っていました。ホンドは酒を飲みながら、ユンボクの描いた俗画を見ていました。そして「“日月山人”…」と言います。ユンボクは両手をついて、少し慌てて「見逃して下さい…父に知れればひどい目に会います。」と言います。すかさずホンドが「ではどうしてだ。金の為か」と言います。ユンボクは、懸命に言い訳をします。「はじめは売るつもりは無かったんです。」と…その姿はやはり子供でした。
ホンドは「後で売るつもりになったのか…」と言います。ユンボクは「いや、それが…それが…思いのほか噂になって、いい作品だと人に言われて…」と言うと、ホンドはさえぎるようにして「こいつ…お前は正気か…その大した才能で、たかが5両で絵を売るのか…」と言います。ユンボクはホンドの言葉に少し驚きます。ホンドはユンボクに酒をついで「飲め!」と言います。ユンボクは恐縮して酒を恐る恐る飲みます。
ホンドはまた、ユンドクの絵を取って見ていました。そして「あきれたな、この絵とは…実にあきれた者だ…背景の描写か…どうしてこんな絵を描いた?…」と聞きます。ユンボクは「それが…分かりません…ただ、見えるものを描いただけです。」と、神妙に答えます。ホンドは呆れたように「本当に天性なんだな、大したもんだ…どうして後ろ姿を描いた?」と聞きます。ユンドクは驚き半分に「はー」と答えます。ホンドは「みのを持つ女人のことだ…」と言います。ユンドクは「あああー、それはソンナクで、蓑ではありません。(ソンナク=僧が使った編みがさ)」と答えます。ホンドは「ソンナクなんだな」と言います。ユンドクは「はい」と答えます。ホンドはユンドクの才能を呆れるほどに感じながら見つめていました。
ホンドは「どうして後ろ姿なんだ?」と聞きます。ユンボクは「それが…あの女人の後姿には何かありました…何か…切なさが感じられました…」と言います。ホンドは「それで筆を取ったんだな…」と言います。ユンボクは「はい、知らぬ間に…手が筆を取っていました。」と少し興奮して言うと、ホンドはすかさず「それが興が湧くということだ…」と言うと、ユンボクは「喜びが突き上げました…世界がすべて止まったように…」と言います。ホンドは「その瞬間は、何も見えなくなる。」と言います。ユンボクは「まさに私がそうでした…」と興奮して答えます。ホンドは「自分を忘れてしまう、没我の境地をお前は経験してした」と言います。ユンボクは「没我の境地をですか…」と聞き返します。ホンドは「そこに到達したのだ…」と少し笑みを浮かべながら言います。ユンボクは「没我の境地…」と独り言を言います。ホンドは「それを経験した…」とため息交じりに言います。ユンボクは、心から喜びが湧いて来ていました。
ユンボクは「なんでそんな話を?」と尋ねます。ホンドは真剣な眼差しでユンボクを見つめながら「明日、図画署で掌破刑が行われる…」と言います。ユンボクは「掌破刑が?」と聞き返します。ホンドは「あの絵を描いたものが掌破刑を受ける…」と言います。ユンボクは「どう言う意味ですか…」と聞きます。ホンドは、語気を強めて「どうして、あんな絵を描いた?才能が何だと言うんだ!もう筆を取れなくなる…」と言います。ユンドクも真剣に「筆も取れない?」と聞き返します。ホンドは「話が分からないのか!図画署があの絵を描いた者を掌破刑にして手を砕く!もう何も出来なくなる」と興奮して言います。ユンボクは「手を砕くのですか…あの絵がそれ程の過ちですか…何を間違えたのですか…没我の境地なのに、たかが一枚の絵です。そんでもないことです。たかが一枚の絵で…先に失礼します。」と言うと、席を立ち出て行こうとします。ユンボクは、絶好調から奈落の底に突き落とされた気持でした。ホンドは「ユンボク…ユンボク…座れ」と言って呼びとめますが、ユンボクは「いいえ…」と言って出て行きます。ホンドは思案に暮れていました。
ユンボクは、呆然として街中を彷徨っていました。思い出が映像となり蘇って来ました。実の父らしき人から、絵の手ほどきを受ける姿が…ユンボクと初めて出会った画商での思い出が…目からは自然と涙が出ていました。自然と小走りになり、当てもなく彷徨い続けました。そして着いたところが、不思議な事に妓房の前でした。そして妓生に捉まり、言われるままに妓房の中に入ってゆきました。そして案内された部屋は、生徒長の誕生の祝いの席でした。
生徒達は「誰かと思えば…懐かしさの先生では…」と言います。ユンボクは、走って酒が回ったのか、少し座った目で前を見つめます。すると生徒長が「“絵は懐かしさ”の先生じゃないか…」と言います。すると隣の生徒が指を指して「手ぶらで来たのか…」と言います。するとユンボクは「心が来たからいいだろう…」と言って座ります。生徒長が「心だと?」と言うと、筆たての筆を取って、妓生に酒をつがせます。そして「飲め!その心がどれほどか見よう。」と言います。すると他の生徒が「女みたいな奴が酒を飲めるか…泣いたらどうだ…兄上…兄上…」と言います。すると妓生達も一緒になって笑います。
ユンボクはしばらくじっとしていましたが、おもむろに筆たてを手にして立ち上がりました。そして「飲めないと思うか…」と言うと一気飲みを始めます。みんなは唖然とした顔で、ユンボクを見つめていました。

ユンボクはいつの間にか仲間に入っていました。生徒たちは酒を飲み、ふざけ合い、音楽を聞きながら踊る者もいました。そしてユンボクは、一人酒を飲み重ね、もの思いにふけっていました。その時、伽耶琴妓生のチョンヒャンが部屋に入って来ます。チョンヒャンは座って無言で一礼をします。
生徒の一人が「すごい美人だ」と言います。生徒長は「お前がチョンヒャンか」と聞きます。チョンヒャンは「はい、チョンヒャンと申します。」と挨拶をします。別の生徒が「本当に綺麗だ」と言います。
チョンヒャンが、琴を準備していると生徒長が「琴はいいから…ここに座ってくれ…」と言います。チョンヒャンは「私は隠君子(ウングンチャ)ではありません。(隠君子=体を売る妓生)」と言います。するとユンボクが突然「相変わらずトゲだらけだ」と言います。チョンヒャンはユンボクの事を直ぐに店に隠れに来た画工だと気付きます。そして「美しい花ほどとげがあります。」と答えます。するとユンボクは、少し笑みを浮かべて「自分で美しいと言う花は、初めて見た。」と言います。チョンヒャンは「自ら言ったとしても、美しい花が、美しくなくなりますか」と言います。ユンボクは「誰かが見なければ、花の美しさに何の意味がある。」と言います。チョンヒャンは「花はただ在るだけ、美しいかどうかは、男達の言うことです。」と言います。
二人のやりとりを聞いていた生徒が「何だ?お前たちは知り合いか…」と、少し驚いた様子で言います。だいぶ酒に酔った別の生徒が「何をしている、早く始めろ…」と言って、酒の入った盃をチョンヒャンに投げつけます。杯は琴の弦に当たり、酒は飛び散り、弦が切れます。
「おい、何のマネだ」と生徒長が怒ります。チョンヒャンは、酒で濡れた顔をハンカチのような布切れで拭きます。生徒長の腰ぎんちゃくの生徒が「お前は寝ていろ」と酔った生徒に言います。生徒長は「大丈夫か…生徒が酔って失礼をしました。」と言って謝ります。チョンヒャンは「起きた事を誤ってどうなりますか」と言います。すると生徒長が「弦が切れたから、伽耶琴はやめて酒を飲もう…私は生徒長のチャン・チョウォンです。」と言います。チョンヒャンは、生徒長の言葉を無視して「曲名は…“桐千年老恒蔵曲”(トンチョンファンシャンゴク)です。」と言うと、琴を弾き始めます。生徒長は無視されたことを気まずく思っていました。ユンボクは、酔いながらもチョンヒャンが、どれほどの琴を弾くのかと、耳をそばだてながら見入っていました。するとその素晴らしさに、ユンボクの眼差しが真剣に成りました。チョンヒャンもユンボクを意識しながら琴を弾いていました。
ユンボクの目には、野山で琴を奏でるチョンヒャンの姿が映っていました。そして、実父らしき男性に肩車をされている幼き日の自分の姿が…横には母らしき女性の姿が…楽しげな家族の映像が…映っていました。チョンヒャンが琴を奏で終わると、ユンボクの目から一筋の涙がこぼれていました。ユンボクはチョンヒャンを見つめ、チョンヒャンもユンボクを見つめていました。何とも言えない余韻が漂っていました。その余韻を打ち消すように、生徒長の「どうした、拍手もせずに…」と言う声と拍手が、静まり返った部屋に響き渡ります。他の生徒からは「素晴らしかった…」と言う声が聞こえました。ユンボクはそっと席を立ち、チョンヒャンの方へ歩み寄ります。そして、チョンヒャンの顔を見つめて「最高の演奏でした。」と一言言い残して部屋を出て行きます。チョンヒャンの顔は満足げでしたが、ユンボクの眼差しは虚ろでした。

ホンドは、友人と二人で部屋にいました。友人はユンボクの絵を見ながら「俗画にしても鮮やかな筆使いが生きている。」と言います。ホンドは友人に「よく見ておけ…二度と見られないかも…惜しい…実に惜しい…方法はないか…」と言います。すると、ホンドの言葉に何かを感じた友人は「下手をすると、お前の手首が飛ぶ…」と言います。ホンドは「どんな危機も精神力で乗り越えられる…」と言います。
 部屋の外では、友人の妹が耳をそばだてていました。そこへホンドが戸を開けて出て来ます。ホンドはビックリした様子で、友人の妹に「ここにいたのか…」と言います。すると友人の妹が「はい、お兄様…」と言います。友人も部屋から出て来て、少し驚いた様子で「ここで何をしている」と言います。妹は「のどが乾いたかと思い水を持って来ました。」と、水差しと湯呑を恥ずかしそうに差し出します。ホンドが、少し照れて「そうか、ありがとう。」と言って受けとると、妹は恥ずかしそうに立ち去ろうとします。ホンドは友人の妹に「のどが乾いて死ぬところだった」と言います。そして「ジョンスク…」と名前を言って呼びとめます。ジョンスクが振り向くと「おやすみ…」と言います。ジョンスクも「お兄様も…」と言って立ち去ろうとしますが、また戻って来て「蚊に気を付けて…」と言います。ホンドが「分かった分かった…」と言うと、ジョンスクは笑顔で恥ずかしそうに自分の部屋に行きます。ホンドと友人は笑いながらジョンスクの後姿を見ています。そしてホンドが「ジョンスクも大きくなったな」と言うと、友人は「もう完全に女に成った…誰かを待ってな…」と言います。ホンドは少し真顔になって「誰を?私をか?…つまらないことを言わずに、早く寝な」と言います。友人は靴をはいて振り向くと「ピョンヤンなまりに成ったな…」と言います。ホンドは真顔になって「早く寝なって…」と言います。ニヤッと笑って「おやすみ…」と言うと自分の部屋に戻ります。

ユンボクは路上で、チョンヒャンを待ち伏せしていました。チョンヒャンに会うと懐からお金を出して「もう一曲お願いしてもいいか…」と言います。チョンヒャンは「5両の演奏とみられたのか…」と言います。ユンボクは「これが持つ金のすべてだ…」と言います。チョンヒャンは無視して行こうとするのですが、ユンボクがチョンヤンの手をつかんで止めます。チョンヤンは驚いて「何の真似ですか…」と言います。ユンボクは「明日には…この手がとぶ…この五両は…この手で描いた、最後の絵を売った金だ…ここで最後の夜を過ごしたい」と言います。

ここで第二話 掌破刑(前)は、終わります。


写生の時間に、春画を描いた生徒を見つける為に、図画署に呼び戻されたホンドは、犯人が、ユンボクであることに気がつくのですが、ユンボクのあまりの才能に、どうやって救おうかと思案します。そしてユンボクにも、やはり秘められた謎があるようです。チョンヒャンの奏でる琴の音色を聞きながら、父母に可愛がられている子どもの映像が浮かんでいました。そして、その子供の映像は女の子でした。この映像が、この後のストーリー展開のカギになるかも知れません。
それから、この物語を私はWebで見ているのですが、配信終了の日付に気づかず、最後の56分の所で、終了してしまいました。その時間帯の記述が少し抜けてしまいました。申し訳ありませんでした。


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