2012年2月3日金曜日

韓流時代劇「風の絵師」第13話生と死を見ました


13話 生と死



 ホンドは這いずりながら前に進みます。そして、弱った足で立ち上がり、かがり火の前に来ます。そしてホンドは、大臣達に向かって「画人の手は…命より大事です…」と言います。ホンドは右手を上げて「この手を…差し出します…」と言います。大臣達は呆然とホンドの姿を見ていました。次の瞬間、ホンドはかがり火の中に手を入れます。すると、ホンドの「ウォー」という、雄叫びとも悲鳴ともとれる叫び声が周辺に響き渡ります。大臣達は、ただ驚いてホンドの姿を見ているだけでした。

 ホンドは、かがり火の中に手を入れながら「若い画工の命をお助け下さい…何とぞ…ウォー…ウォー…」と叫び続けました。その様子を王様の側近ホン・グギョンが偶然に見ていました。



 ホンドは、王様に拝謁していました。右手には痛々しく包帯が巻かれていました。

 王様は呆れた顔で「画員が自ら手を…」と言います。ホンドは両手を付いて低頭しながら「殿下…お話がございます…何とぞ…お聞きください…」と言います。王様は「どうしてそこまでする?…」と語気を強めて言います。ホンドは「シン・ユンボクの兄…シン・ヨンボクは…殿下の竜袍を塗る色を作り…その毒に侵され…死に至りました…」と言います。王様は「どういうことだ?…」とホンドに聞きます。ホンドは「彩色をする前日…品質確認をしましたが…当日朱砂が黒く変色しており…朱砂の中から…銀粉を見つけました…これは…御真の完成を邪魔する者がいたことを意味します…それで臣とシン・ユンボクは…御真を完成したい一念で…シン・ヨンボクに色作りを頼みました…大臣達が色を問題視し…死を辞さなかった兄を侮辱することに…耐えられなかったのです…」と言います。王様は「それだけでは…御真を破いたことを納得出来ない…予にとっても…あの絵はただの絵ではない…」と言います。ホンドは「臣とシン・ユンボク…御真を裂いた罪は死に値しますが…シン・ユンボクは…それが御真だけでなく…一人の魂が込められた絵と思い過ちを犯しました…何とぞ海のような雅量を施してください…」と言います。王様はじっと考えていました。



 牢番がユンボクのところへ食事を持って来て「黄泉の道は遠いぞ…食べろ…」と言いて、食事を置いて行きます。ユンボクは食欲がなさそうで、虚ろな目をして考えていました。ユンボクの脳裏には、居酒屋で描いた鳥の絵が映し出されていました。最初に鳥を描き、後で鳥籠を描いた映像が…



 キム・ジョニョンの屋敷の庭にも籠の鳥がありました。その籠の鳥をチョンヒャンが見上げていました。チョンヒャンは、ジョニョンの言葉を思い出していました。

 「いつか私を受け入れる準備が出来たら…その鳥籠にいる鳥一羽を放せ…」と…

 チョンヒャンは、鳥籠から一羽の鳥を放そうとしていました。そこへお付きの下女が近づいて来ます。そして「お嬢様…何をするのですか…」と聞きます。チョンヒャンは鳥籠から一羽の鳥を取り出すと、鳥を見ながら「すみません…画工…」というと、鳥を放します。下女は「お嬢様…」と言います。チョンヒャンは、鳥の行方をじっと見つめていました。チョンヒャンは、鳥を放すことで、ジョニョンに近づき、何とかユンボクを助けられないかと考えたのです。その為には、チョンヒャンは完全にジョニョンの物にならなければなりませんでした。チョンヒャンの心は複雑でした。



 ジョニョンが雇っている女侍は、チョンヒャンが鳥籠の鳥を一羽放したことを伝えに来ていました。ジョニョンが「何だと…鳥を放した?…」と聞きます。女侍は「はい…」と答えます。



 ユンボクは、牢の中でぼんやりとしていました。その時、牢番の声で「少しだけだぞ…」という声がします。ユンボクが気づくと牢の外にホンドが立っていました。

 ユンボクは「師匠…」と言います。そして立ち上がり、ホンドのところへ近寄ります。ユンボクは「師匠…」と言います。ホンドは牢の隙間から左手を入れユンボクの頭をなぜてやります。そして「体は大丈夫か…食事は?…」と聞きます。ユンボクは涙をこらえながらうつむくと、ホンドの右手に包帯がしてある事に気付きます。ユンボクは「これは…何ですか?」と心配そうに尋ねます。ホンドは「何でもない…」と言いますが、ユンボクは「どうして手が…」というと、ホンドの手を離しません。ホンドは「何でもない…」というと、左手でユンボクの手を握って放します。ユンボクは「もしかして、私の為に?…」と尋ねます。ホンドは首を横に振りながら「そうじゃない…」と答えますが、ユンボクはその言葉を信じることは出来ませんでした。

 ユンボクは涙を流しながら「私のせいで…師匠まで……申し訳ありません…こんな私の為に…申し訳ありません…それでも…師匠が私の側にいてくれて…嬉しかったです…それで…安心し過ぎて…軽率なことを…こうして師匠に会えるのは…今日で最後ですか?…」と言います。ホンドは苦しそうな表情で首を横に振り「違う…つまらぬことを言うな…」と言います。ユンボクは「師匠にとって…私は何でしたか?…好い弟子では…なかったでしょう…」と尋ねます。ほんどは「お前は…私の弟子、それ以上だった…」と答えます。ユンボクは泣きながら「ありがとうございます…」と言います。ホンドは左手で、ユンボクの涙をふいてやります。ユンボクは「ありがとうございます…」と言います。

 ホンドは「私は良い師匠だったか…」と聞きます。ユンボクは「師匠は…私に……ありがとうございます…師匠…」と言いながら、泣き続けます。ホンドも泣きながら、牢の隙間に手を入れて、ユンボクを抱きしめます。ユンボクは「ありがとうございます…」と言います。二人は抱き合いながら泣き続けます。

 ホンドは「長く一緒に絵を描きたかったが…すまない…最後まで守れなくて…」と言います。ユンボクはホンドの胸の中で泣き続けます。そして「ありがとうございます…」と言い続けます。ホンドとユンボクはしっかり抱きしめ会いながら泣き続けました。



 チョンヒャンはジョニョンの前で琴の演奏をしていました。

 チョンヒャンはジョニョンの目を見つめていました。ジョニョンは「なぜ急に心を開いた?…」と聞きます。チョンヒャンは「鳥の籠を見ませんでしたか…」と答えます。ジョニョンは「本当に…胸中にいる者を忘れたのか…」と聞きます。チョンヒャンは、うつむき加減に考えながら「伽耶琴の音が虚空へ流れ消えるように…会えなければ私の心も流れます…」と答えます。ジョニョンは「長く待つと思っていた…」と言います。

 チョンヒャンは琴を横にのけると、ジョニョンの盃にお酒を継ぎます。そして「想いは消えました…旦那様が私の最後の愛人になります…」と答えます。ジョニョンは笑みを浮かべながら「あの高慢な鼻柱はどこに捨ててきた…人を見誤ったか…」と言います。チョンヒャンは「そんなはずはありません…旦那様は…最高の品物を持つ眼目をお持ちです…礼楽を大切にし…画人の才能を知る眼目を信じます…」と言います。ジョニョンは笑いだします。そして「褒め言葉として聞こう…」と言うと盃を飲み干します。

 チョンヒャンは「ところで…檀園先生と御真画師をした画工ですが…」と言います。ジョニョンは「斬首刑になる画工か?…」と言います。チョンヒャンは「はい…若くに御真をするほどなら並みの才能ではないようで…誠に残念です…」と言います。ジョニョンは「あの才能なら、天下の人材なのに…残念だ…」と言います。チョンヒャンは「もし、旦那様がその画工を私画署に入れたら…どんなに良かったかと、ふとそう考えました…」と言います。ジョニョンは「なるほど…私画署に…」と言います。チョンヒャンは「すでに遅いのでしょうね…」と聞きます。ジョニョンは笑いながら「天が助けなければな…だがなぜ?…その画工の絵が欲しいのか?…」と聞きます。チョンヒャンは、ただ黙っているだけでした。



 王様は、自室で考え事をしていました。

 「ただの御真ではなく魂が込められた絵…」と…



 大臣達はそろって宮殿へと歩いていました。

 右議政は「今日だな…あの画員の最後の日は…」と言います。キム・グィジュは「主上は固執した事に失敗したので…しばらくは静かでしょう…」と言います。右議政は「見守ろう…」と言います。



 キム・ジョニョンは、ユンボクの描いた鞦韆の絵を見ていました。

 ジョニョンは「この絵を見ろ…今にも飛び出してきそうだ…強烈な色彩も素晴らしい…」と言います。女侍は「図画署のシン・ハンビョンの息子です…」と言います。ジョニョンは「待てよ…この筆さばきと色彩は…」と言うと、日月山人の書名入りの絵を思い出します。そして「ソ・ジン…」と言います。



 牢屋では、牢番がやって来て、ユンボクの入っている牢のカギを開けます。武官が「罪人シン・ユンボクは出ろ」と言います。ユンボクは虚ろな目をして座っていました。



 宮殿に繋がる渡り廊下では、役人達が立ち往生をしていました。そこへ、右議政やキム・グィジュ達がやって来ます。

 キム・グィジュは「何でしょうか…」と言います。右議政は「行こう…」と言います。右議政達は立ち往生している先頭へ行きます。そこにはユンボクが破った御真画師が、置かれていました。

 右議政はその御真画師を見て「これはどういうことだ…どうしてここにあるんだ?…」と言います。一人の大臣が「侍講場に行くには…門はここだけなのにどうしろと…」と言います。右議政は、御真画師を見ながら動揺していました。キム・グィジュは「どうすればよいですか…引き裂かれた絵とはいえ…竜顔を踏んで行くことは出来ません…」と言います。

 右議政は、御真画師を見ながら考えていました。そして「フン」と息をつくと振り返り、そこにいた大臣達に「皆聞け…殿下が大臣達を為している…」と言います。すると礼曹判事が「試す?…」と言います。右議政は「この絵を踏まなければ価値を認めることになる…」と言います。王様の側近ホン・グギョンは黙って右議政の話を聞いていました。

 右議政はさらに続けます。「つまり奉審(ポンシム=御真を品評し、最終判断を下すこと)のときの…この絵の正当性を認めないという主張が…根拠を失うことになる…違うか…」と言います。キム・グィジュは「確かに…」と言いながらうなずきます。

 右議政は「これを解決する方法を教えてやろう…」と言います。大臣の一人が「どうする気ですか?…」と聞きます。右議政は、振り向いて御真画師を見ると、そのまま歩きだし、御真画師を踏みつけて行きます。それを唖然とした顔で、キム・グィジュは見ていました。礼曹判事は「何ということを…主上の竜顔を…」と言います。ホン・グギョンは、ただ黙って見ているだけでした。

 右議政は振り向いて「絵の価値を認めぬことを見せるのだ…それでなければ…私達の名分が無くなり…それを口実に王権を振りかざす…」と言います。他の大臣達は、それでも恐れ多きことと考えてためらっていました。右議政は「何をしている早く来い…」と言います。すると礼曹判事が「では主上殿下には…」と尋ねます。右議政は「私が理由を説明する…」と言います。皆はためらっていましたが、キム・グィジュが御真画師を踏んで歩きはじめると、他の大臣達も次々に歩き始めます。ホン・グギョンはそれをじっと見ていました。



 ホン・グギョンは、王様の執務室にやって来て座ります。そして見たことを王様に伝えました。王様は何か思いを巡らせているようでした。



 処刑場には人が集まっていました。そこへ武官たちに両脇を抱えられてユンボクがやって来ます。ユンボクは縄で縛られていました。周りから「ユンボク…ユンボク…」と言う声が聞こえて来ます。生徒や知人達が、ユンボクの顔を一目見ようとやって来ていました。生徒達は今にも泣きそうな顔をしていました。ホンドもインムンも来ていました。ただじっとユンボクの顔を見つめていました。チョンヒャンの下女も人ごみに隠れながらユンボクを見つめていました。ジョニョンも女侍と一緒に見に来ていました。ユンボクはむしろの上に座らされます。ユンボクは、ただ一点を見つめて座っていました。



 チョンヒャンは自室で、ユンボクにもらったノリゲを両手で握りしめながら見つめていました。チョンヒャンの目からは涙が流れていました。



 宮殿では、王様が侍講場に大臣達を集めていました。そして内侍達が、引き裂かれた御真画師を持って立っていました。

 王様は玉座に座ると大臣達に「この絵を踏んだ者は誰だ…」と問い質します。すると右議政が「ここにいる大臣のすべてです…」と言います。王様は右議政を見ながら「どうして絵を踏んだのだ…」と問い質します。右議政は「はい、殿下。殿下が絵を置かれた理由は…奉審を思い出させる為と存じます…」と言います。王様は右議政に「続けてくれ…」と言います。右議政は「4日前に申し上げたように、臣どもは…王室代々の御真の形式と異なるので…あの絵の価値を認めぬと申しました…」と言います。王様は「それで?…」と言います。右議政は「殿下があの絵を侍講場の前に置いたのは…それを証明できるかどうかを試そうとされたからです…臣どもは証明する為…あの絵を踏むしかありませんでした…」と言います。

 王様は「では…」と言います。右議政は「はい…殿下…」と言います。王様は「あれは…御真ではないというのだな…」と言います。右議政は「御真ではございません…」と言います。王様は「あれは御真ではない…」と言うと、かすかに笑みを浮かべます。



 刑場に、義禁府判事が入って来ます。役人が「これより…刑を執行する…」と宣言します。ユンボクの目は虚ろでした。



 侍講場では王様が「では…4日前に画工が裂いたもの…御真ではないな…」と言います。キム・グィジュが、小声で右議政に「どういうことですか…」と尋ねます。

 王様は「そうではないか…画工を斬首にする理由は…予の御真を裂いたからだといった…今日はそれが御真ではないと言う…それなら…あの画工の命を奪う必要もない…」と言います。



 処刑場では、義禁府判事が「大逆罪人シン・ユンボク…主上殿下の御真は…主上殿下をそのまま描いたものだ…その御真を裂いた罪は、国王を害した罪に当たる…それゆえ…断罪に処するもので…罪人は謙虚にこれを受け入れろ…」と言います。

 役人が太鼓をたたくと、首切り人が現れます。ホンドの顔は悲痛でした。ユンボクの目からは涙が流れていました。集まった民からは「なんてこっだ…可哀想に…」と声が掛かります。



 侍講場では、王様が右議政に「そうではないか…」と問い質します。右議政は「そ…それは…」と言うと、言葉が詰まります。王様は「言ってみろ…」と言いますが、右議政から返答がありません。王様は「あれは御真か、違うのか…」と問い質します。



 処刑場の首切り人は、気つけの濁り酒を立ったまま飲みます。そして、分厚く広い首切り刀を振りながら、舞のようなものを踊ります。次第にユンボクの心に恐怖が襲って来ます。ホンドはただ、悲痛な顔で見ていることしか出来ませんでした。



 侍講場では、王様が右議政に「もし、あれが御真でないなら…刑具に縛られた画工は、理由なく刑場の露となる…また、もしも…それが御真なら、刑具に縛られる者は…愚かな理論で御真をけなした…お前ではないか…早く言え、ウサン…御真が御真でないのか…」と…最初は穏やかに話していた王様ですが、次第に語気が強まります。

 右議政は「それは…御真ではございません…殿下…」と、言うしかありませんでした。



 処刑場では、首切り人が、口に含んだ水を首切り刀に吹きつけます。そしてユンボクの後ろから、首に何度も刀を当てて、切る場所を定めていました。ユンボクはじっと感情を押しこらえていますが、ただ目からだけは涙がこぼれ続けていました。



 侍講場では、王様が「ウサン…直ちに刑場に行き、画工の命を救え…もしも…刑が執行され、画員を助けられねば…罪のない命を奪った、ウサンの首を切る…」と言います。場内は静まります。



 処刑場では、首切り人の舞が続いていました。そして「ワー」という首切り人の雄叫びが上がります。ユンボクはしっかりと目をつぶり、顔が歪んでいました。ホンドは見るに堪えずに、泣きながら後ろを向きます。

 その時「やめろ!」と言う声が掛かります。馬に乗った武官の使者が現れて「御命だ!…」と叫びます。刑場にいるすべての物が土下座します。武官は馬から降りると、義禁府判事に書状を渡します。義禁府判事は書状を開きます。ユンボクは震えながら下を向いていました。目からは、止めどもなく涙が流れていました。

 義禁府判事は「主上殿下の海のごとき恩恵で…今日…画員シン・ユンボクの斬首刑は…執行させぬものとする…」と、書状を読みあげます。

 ホンドは、ほっとした表情で首を上げます。ユンボクは、泣きながら震えていました。義禁府判事は「画員シン・ユンボクを放免しろ…」と命じると、処刑場を立ち去ります。その様子を見ていたキム・ジョニョンは、白扇を閉じるとうなずき「よかった…」と言うと、その場を立ち去ります…武官がユンボクに近づき、ユンボクを縛っていた縄をほどきます。ユンボクは泣きながら「聖恩に感謝の極みでございます……ありがとうございます…」と言います。ユンボクは体全身がふるえていました。生徒達が近づき、ホンドも近づいて来ます。

 ホンドはユンボクの腕をつかみ起こします。ユンボクはホンドの胸の中で泣き続けます。ホンドもユンボクを抱きながら泣いていました。生徒達もユンボクの姿を見て泣いていました。





 王大妃は、右議政とキム・グィジュから報告を受けていました。

王大妃は、怒りを込めて机をたたき「何ですと…一体どういうことですか…」と、右議政に言います。右議政は「騙されました…見事にです…」と悔しそうに言います。王大妃は、表情をひきつらせて「こうも侮られたのに、皆座して見ていたのですか…」となじります。キム・グィジュは「申し訳ありません…」と謝ることしかできませんでした。



シン・ハンビョンは、自宅の自室で呆然と立っていました。そこへ、インムンが喜んだ顔で現れます。そして「ユンボクが助かりました…」と言います。ハンビョンは振り向いてインムンを見ます。その眼は一瞬で、鋭さが蘇っていました。



チョンヒャンは、ユンボクからもらった蝶のノリゲを両手で握りしめていました。そこへ下女の「お嬢様…」と言う声が聞こえて来ます。下女はチョンヒャンの前に座ると「助かりました…画工は生きています…」と嬉しそうに話します。チョンヒャンはお付きの下女の言葉を聞くとホッとして「ハァー」と息を吐き「画工…」と言いながらノリゲを見ます。チョンヒャンの表情は嬉しそうで、目からは一筋の涙が流れていました。



図画署では別提が「画員キム・ホンドは…御真画師の事件が無罪と評決され…図画署画員の資格を回復する…画員シン・ユンボクは、自身の本分を忘れ…図画署の名誉と権威を失墜させた…図画署画員の資格をはく奪する…」と発表します。

ホンドとユンボクは図画署の中を感慨深げに歩いていました。ユンボクは図画署で自分の荷物をまとめて、ただ茫然とした様子で座っていました。ユンボクの脳裏には兄の思い出だけが駆け廻っていました。御真画師が始まる前に、丹青所にヨンボクに会いに行った時のヨンボクの言葉「優秀な弟を持って幸せだ…御真が終われば…朝鮮の絵の市場で“シン・ユンボク”お前の名前は有名になる…父上の私画署も注文が絶えないだろう…」と…生徒時代の外遊写生のときのヨンボクの言葉「家族なのにどうしてだ…」と…これに対してユンボクが「とにかく兄上はあっち…私はこっちへ行く…三つ数えたら行くんです…」と言った時のヨンボクの姿が……ユンボクは涙を流しながら思い出していました。そして「ごめん…兄上…ごめん…」と絞り出すような声で言いました。



キム・ジョニョンがシン・ハンビョンの家を訪ねて来ました。私画署には誰もいませんでした。ただ、庭を掃除している使用人が一人いるだけでした。使用人が「何の御用ですか…」と聞きます。



ハンビョンの部屋に通されたジョニョンは、宝箱を開けていました。中にはひもで縛られた銭の束や亀の細工物等がぎっしりと入っていました。

ジョニョンはハンビョンに「この程度なら、十分に手厚い額かと…」と言います。ハンビョンは「ですからユンボクをお宅の私画署に入れれば…このお金をくださるということですか…」と聞きます。ジョニョンは「そうです…」と答えます。ハンビョンは「これで4代画員の家門を継いできた家系だ…金に目がくらんで…この才能を売る情けない父親に見えると?…」と言います。ジョニョンは「私は優れた才能を持った画工を…私画署に入れたいだけです…」と答えます。ハンビョンは「金で才能は変えません…」と言います。ジョニョンは「金で才能は変えなくても、才能は育てられます…」と答えます。ハンビョンは、怪しい目で、ジョニョンを見つめていました。



ユンボクは荷物を持って、ホンドの部屋に立ち寄ります。ホンドはユンボクを見つけると、後ろから近づいて行きます。ユンボクがそれに気づくと振り向いてホンドを見ます。ホンドは寂しそうな声で「何をしている…」と言います。ユンボクは「挨拶に来ました…」と言います。ホンドは「行くのか…」と聞きます。ユンボクは「はい…」と答えます。ホンドは「荷物は整理したか…」と聞きます。ユンボクは「終わりました…」と答えます。ホンドは「教えた事も少ない…」と言うと、ユンボクは直ぐに「いいえ、師匠…」と言うと、ホンドのやけどした右手をじっと見ていました。そして「私のせいで…申し訳ありません…」と謝ります。ホンドは「どこに行く?…」と聞きます。ユンボクは「家に帰ります…」と答えます。そして、頭を下げて「師匠…どうかお元気で…」と言うと、立ち去ろうとします。ホンドは「ユンボク…」とユンボクと呼びとめます。ユンボクが振り向いて「はい」と答えると、ホンドは「渡すものがある…」と言います。ホンドは後ろの棚へ行き紙箱を取り出します。そして、その紙箱の蓋を開けてユンボクに手渡します。

 ユンボクは、それを見ると「何ですか…」と聞きます。ホンドは「落款だ…」と答えます。ユンボクは、少し笑みを浮かべながら「落款?…」と言います。

ユンボクは、自分が描いた川で洗濯をしている女達の絵に、初めて落款を押します。そして「蕙園(へーワン)」と、落款に描かれた号を読みます。ホンドは「この絵を覚えているか…どうした…」と言います。ホンドは胸を張ってみせ「格好よく…」と言います。二人の顔から笑みがこぼれます。ホンドがやけどをした自分の手を持って痛そうな顔をします。

ホンドは「蕙草の“蕙”庭園の“園”…蕙草は華麗ではないが…その香りが百里を行く…お前の香りで…世の中を満たせる絵を描け…」と言います。ユンボクは「ありがとうございます…師匠…」と言います。そして「蕙園…檀園…」ユンボクは、満足そうな笑みを見せます。ホンドは「ユンボク…」と呼びます。ユンボクは「はい…」と答えます。ホンドは「これで終わりじゃない…必ず…強くなれ…」と言います。ユンボクは「ありがとうございます…そして…申し訳ありません…師匠…」と言います。ホンドは「これからお前は蕙園…私は檀園だ…ツルマメじゃない…」と言います。



ユンボクは自宅に戻って来ました。庭先の私画署には人の姿はありませんでした。懐かしそうに手すりを触るユンボクの脳裏には、幼き日の自分と兄ヨンボクの姿が写っていました。自分が描いた絵を持って走っていると、それを追ってくるヨンボクの姿が…父の弟子達が絵お描いている周りを走り回って、叱られる姿が…しかし現実の私画署には誰もいなく、荒涼としていました。そしてそれも、自分のせいであることが分かっていました。



ユンボクは父の前に座っていました。

ハンビョンは、怒りを抑えながら「四代続いた我が画員家門の家の名誉は終わった…お前が台無しにした…これ以上…この家でお前を見たくない…すべてお前が自ら招いた…」と言います。ユンボクは「父上…」と言いますが、直ぐにハンビョンは「父と呼ぶなと言った…」と言います。ハンビョンは机の引き出しから封書を出すと「これから…お前が住むところだ…個人画署だ…本当に…胸中深く反省しているなら…どんな侮辱にも耐え…私画署で…主人が言うとおりに絵を描け…」と言います。



 ユンボクは、書きつけを見ながらキム・ジョニョンの家を探していました。そして、門の前にたどり着きます。ユンボクの肩や腰には、画材や身の回りの物が掛けられていました。

 ユンボクが門の中に入ると「俺は最近優しそうな女と…」という画員とも使用人ともつかない集団の話し声が聞こえて来ました。そしてユンボクの前にその集団が現れます。そのうちの一人が「どこの出身だ?…」と聞きます。ユンボクは「誰ですか…」と言います。すると違う人が「どこで絵を描いていた?…私画署の新入りのようだ…女のような顔をして、体も細いな…雑用もできるか…」と偉そうな態度で聞きます。ユンボクは、不満そうな顔つきで「キム・ジョニョン様を訪ねてきた…」と言います。すると一人が隣の男を指して「この方がそうだ…」と言います。ユンボクは、不審そうな顔つきで「私はシン・ユンボクと申します…先日…」と言っていると、男達が笑いだし「単純でからかいやすいな…」と言うと笑い始めます。

 その時「何をしている…」と言う、若い使用人の声が聞こえます。若い使用人は、男たちよりも身分が高いようで、男達はすごすごと退散して行きます。若い使用人は、ユンボクに近づき「シン・ユンボクか…」と聞きます。ユンボクは「そうです」と答えます。若い使用人は「着いてこい…」と言うと、先導してジョニョンの部屋までユンボクを案内します。若い使用人は「間もなく旦那様が来られる…」と言うとユンボクの荷物を持って部屋から出て行きます。ユンボクは物珍しそうに、美術品や調度品を眺めて歩き回っていました。そこへジョニョンがやって来ます。

 ジョニョンは「さて…よく見たか…」と言います。ユンボクは「画員シン・ユンボクです…」と言いながら頭を下げます。ジョニョンは「描くごとに図画署を騒がせたから…反抗期の青年かと思えば…優しげな感じだな…答えてくれ…どうして騒ぎになる絵だけを描いた?…」と言います。ユンボクは「私はただ、描きたい物を描いただけです…」と答えます。ジョニョンは「絵いっぱいに女人、それも裸の女人を描いて…問題になると思わなかったか…」と聞きます。ユンボクは「絵を見ずに裸の体だけ見る目が…騒ぎの原因です…」と答えます。するとジョニョンが「ワッハハは―…」と笑います。そして「その度胸が気に入った…騒ぎだろうが賛辞だろうが…多くの人の口に上るのは優れた能力だ…お前は私の随行画員になる…付いて来い…見せたいものがある…」と言います。





 係りの物が「次の絵は花蝶図です…」と言うと、掛けてあった軸の紐を解いて客らしき人達に絵を見せます。係りの物が「この絵は…キム・ジョニョン様が清から求めた…真彩を使って、ここで描きました…見て下さい…華麗な蝶と静かな花の香りが生きています…それでは今から始めます…価格は100両からです…」と言うと、一人の客が銀の塊を置きます。係りの物が「10両上がりました…」と言います。すると客達が次々に銀の塊を置いて行きます。係りの物は「士大夫が奥座敷に置きたい絵です…」と言います。すると一人の客が金の塊を置きました。係りの物が「200両が出ました…」と言います。今で言う、オークションのようなものが行われていました。

 ジョニョンとユンボクは、間仕切りの半透明の布の向こうから、この様子を見ていました。ユンボクはジョニョンに「彼らは絵の価値を高めるのか…それとも…富者の自尊心を高めるのですか…」と聞きます。ジョニョンは「両方だ…」と答えます。そして「絵は高く売れるほどに価値が上がる…」と言います。



 次にジョニョンは、ユンボクを、絵を描いている画員達のところへ案内します。そして「人々の目が高くなると…優れた絵を描いても注目を受けるのは容易ではない…もう朝鮮でも収集家の耳目を引く…新しい画風が必要だ…私は…お前がその画員になると信じる…」と言います。ユンボクは、黙って聞いていました。



 次に案内された部屋へ行くと、そこにはユンボクの持ってきた荷物が置いてありました。絵を描く机や調度品が揃い、立派な部屋でした。

 ジョニョンは「お前の部屋だ…」と言います。そして「どうだ…これなら直ぐに筆を取りたいほど…意欲が湧かないか…」と言います。ユンボクはジョニョンの方を見て少し頭を下げますが、黙って部屋を眺めていました。そして歩きだし、次の間へ行きます。ジョニョンは後ろから付いて来て「最高の待遇に応じて、最高の絵を描いてくれ…」と言います。ユンボクは振り向いてジョニョンの顔を見ると「最高の絵とは?…」と聞きます。ジョニョンは「人々の財布を開く絵だ…」と答えます。ユンボクは「お金になる絵ですか…」と聞きます。ジョニョンは「金を軽く見るのか…」と言います。



 ジョニョンはユンボクを連れて市中を歩いていました。

 ジョニョンは「財布を開かせるのは何だと思う?…それは、まさに心だ…そして…予の中で一番得難い物も心だ…お前の絵にはそれがある…人の心を動かす力…もう過去はすべて忘れるように…お前の名で、朝鮮の天地を覆せる…」と言います。そして「号が必要だな…」と言います。ユンボクは「私の号は、蕙園です…」と答えます。ジョニョンは「蕙園か…気に入った…」と言うと、袖の中から札を取り出して「受け取れ…私の家の者と証明する牌だ…」と言うと、ユンボクに渡します。そして「今夜…大事な客を招いて宴会を開く…その牌を見せれば何でも手に入れられる…必要な材料を入手するように…」と言います。ユンボクは「何でもですか?…」と尋ねます。ジョニョンは「そのとおりだ…」と答えます。そして、ユンボクの肩を軽く叩きます。





 王様は、宮中の自室に側近たちを集めていました。

 王様は「今日は…予が深慮熟考して来た考えを表明し…助言を求めたい…今日だけは予の師匠として友人として…予の思う所を察して欲しい…」と言います。参加者は一斉に「聖恩の極みでございます…」と言いながら一礼します。王様は「予が即位した日に言った言葉を…皆覚えているな…」と言います。そしてその事を思い出していました。「予は…思悼世子の息子だ…」と…

 王様は「予は…米櫃の中で死んだ父の恨みを…彼らが忘れずに恐れて欲しかったが…彼らの策略は日増しに傲慢になり…今の朝廷に王と臣下はない…それで予は…十分な諡号もなく死んだ父思悼世子を…壮献世子として追尊(チュジョン=王位に就かず死んだ者に王の称号を与える)したい…」と言います。一瞬、側近達は顔を見合わせます。そして、一人の側近が「しかし、殿下…殿下が思悼世子邸下に言及しただけでも…王の資質があるかどうかを責めて来るでしょう…」と言います。ホン・グギョンは「彼らを説得する確かな者が必要です…」と言います。王様は「実は…先王が残した…睿真(イエジン=王になれなかった者の御真)がある…」と言います。側近達は顔を見合わせます。

 他の側近が「もし、先王が残したというその絵さえあれば…確かに先王も思悼世子邸下の死を…過ちと認められていることを証明してくれます…」と言います。するとホン・グギョンが「そのとおりです…その絵さえあれば、邸下を追尊出来ます…罪人として邸下を貶める彼らの妄言を…見事に覆す契機になります…」と言います。王様の学問の師匠ポンアムは「その絵はどこにありますか…」と聞きます。



 その時、図画署ではホンドが、師匠と友人の死の秘密を探っていました。

 ホンドは「ソ・ジン…どうして肖像画を描いた…何があったんだ…どうして死ぬことになった…」と…



 大臣達が朝廷で集まっていました。一人の大臣が「どうしてか、主上が静かですな…」と言います。キム・グィジュは「心配いりません…こういう時に生き抜きでもしなければ…」と言います。すると「あの二人の画員を助けたのが気になります…」と言います。すると別の大臣が「ただの画工です…主上殿下の威光もなく…羽を失った鳥も同じです…」と言います。キム・グィジュは「そうなれば、肖像画でも頼んでみましょう…」と言うと「ハァハァハァー…」と笑いだします。右議政は、黙って考えていました。



 宮廷では王大妃と王様が、お茶を飲みながら話をしていました。

 王大妃は「御真画師がうまくいかず…気を落とされたかと心配です…」と言います。王様は「危機は常に、状況を見る目を与えます…誰が最後まで手を握ってくれ…誰が背に刀を指す者かです…」と言います。王大妃は「まだ、立場が不安定な主上に…それが何の助けになりますか…寛大な者には人が従います…敵味方の区別より自分を磨き…心で従うものを作るのが…君主の道理かと思います…」と言います。王様は「王大妃様の忠告は、胸に深く刻みます…」と言います。二人の腹の探り合いは、顔は微笑んでいても心の中では刃が入り乱れていました。



 王様が宮廷の池の橋を歩いていました。そばにはホン・グギョンが付いていました。

 王様はホン・グギョンに「時が熟したようだ…画工に連絡を…キム・ホンド、シン・ユンボク、彼らはどこにいる…」と言います。



 キム・ジョニョンが、チョンヒャンのいる離れの庭に来て、一匹しかいない鳥籠の鳥を見ていました。そしてニャリと微笑むと離れへと入って行きます。

 ジョニョンはチョンヒャンに「画工を手に入れた…」と言います。チョンヒャンのお付きの下女が、一瞬ニコッと表情を変えるのですが、チョンヒャンの無表情の顔を見て、直ぐに押し殺します。チョンヒャンは、無表情のまま「画工とは…」と聞きます。ジョニョンは「お前が話した、御真を裂いた画工だ…」と言います。するとチョンヒャンは、今、気付いたかのように「思い出しました…使えそうですか…」と、慎重に話します。ジョニョンは「そうだな…お前が良い考えを出してくれた…隠れた宝石を探しだした…」と言います。チョンヒャンは「まだ若いようですが…何を期待されますか…私は何も分かりませんが…画工の実力など似たようなものでしょう…」と言います。ジョニョンは「ウウーン…違う…うまくいけば、キム・ホンドをしのぐ…では行く…明日はその画工の絵を見ることになるだろう…私画署が出来て初の宴会を開く…美しく装ってくれ…」と言うと立ち上がり退室しようとします。チョンヒャンは「お気を付けて…」と言います。ジョニョンはチョンヒャンを振り返るとニコッと微笑み退室します。

 ジョニョンが退室すると下女が直ぐに「私画署に来たなら助かったですね…」と言います。チョンヒャンは緊張した顔で「口に気おつけなさい…もし行首が…私と画工の関係を知れば…画工も私も…無事ではない…絶対に口に出してはいけない…分かったか…」と言います。下女は首を何度もうなずきます。そして「ところで若様は、どこにいるんでしょうか…」と聞きますが、チョンヒャンは何も答えることが出来ませんでした…



 ユンボクは橋の上を歩いていました。すると手の治療をしてくれた医員の姿を見ました。脳裏に蘇って来るものはホンドの言葉でした。

 「見えるもので見えない者を描く…」と…その時、ユンボクはホンドの姿を見つけ、走って追いかけて行きます。「師匠…」と声を掛けるのですが人違いでした。ユンボクは「失礼しました…」と謝ります。その時、王様の護衛官がやって来て、ユンボクに手紙を渡します。ユンボクが読み終わると護衛官は「殿下がお呼びです…」と言います。ユンボクは「殿下が?」と言います。



 ホンドは図画署の自室に帰って来ました。すると作業台の上に封書が置いてありました。ホンドはそれを開けて読みます。「緊急の用がある…来てくれ…お前と若い画工に願いがある…」と書いてありました。王様からのものでした…



 ホンドとユンボクは王様の部屋の前で会います。ホンドはユンボクに「蕙園…元気だったか…」と言います。ユンボクは「はい…師匠もお元気で…」と答えます。ホンドは「遅れなかったな…行くぞツルマメ…」と言うと先に歩いて行きます。ユンボクは後ろから付いて行きます。

 二人は王様に拝謁すると、ホンドが「お呼びですか…殿下…」と言います。王様は「王は万人の上にいると言うが…身近な二人の画工さえ守れなかった…無念だ…」と言います。ホンドは「殿下…私達は償えない罪を犯しました…殿下の恩恵を死ぬまで忘れません…」と言います。王様は「若い画工は図画署を去ったと聞いた…」と言います。ユンボクは「はい殿下…」と答えます。王様は「そうか…図画署が手に余るほど…お前はいつも波紋を起こす絵を描いてきた…図画署を離れて絵を描くのが…お前の才能を守ることかもしれない…」と言います。ユンボクは「殿下…御真画師に失敗した罪人です…才能などと…」と言います。王様は「師匠が弟子を命より惜しんだのだ…弟子の才能を…命と同じ自分の手より貴重に思う…キム・ホンドの真心が…予の心まで動かしたのだ…」と言います。ホンドは「恐れ入ります…」と言います。王様は「予の前にいる、お前たちの厚い情は…これまでのどんな絵よりも素晴らしかった…」と言います。ホンドとユンボクは「恐れ入ります…殿下…」と言います。そして王様は「2人とも近くに来てくれ…」と言います。ホンドの顔が一瞬変わりました。王様は「今日は二人の画工に特別な頼みがあって呼んだ…構わずに近くへ来てくれ…」と言います。ホンドはユンボクに目で合図して、王様に近づきます。ユンボクもホンドに従って前に進みます。

 王様は「お前たちほど御真をよく知る者はいない…丙辰年に消えた…思悼世子の睿真を探せ…」と言います。ホンドは「殿下…丙辰年には御真画師はありませんでした…」と言うと王様は「真実を恐れる者が隠したのだ…確かに御真画師は…あった…」と言います。



 ここで、第13話 生と死は終わります。





 ホンドは、なりふり構わずにユンボクのことを助けようとしました。画工の命とも言える利き腕をかがり火の中に入れてまで「若い画工の命をお助け下さい…」と嘆願しました。その様子をホン・グギョンが確りと見ていました。王様が、ホンドを見守れと命じていたからでしょうが…それほどにホンドは、王様に信頼されていたのでしょうね。

 ホンドは王様に呼び出されて、ヨンボクの死の原因や朱砂に銀粉を混ぜられていたことを伝えます。しかし、それでも王様の怒りは収まりませんでした。ただ、ホンドの最後の言葉「臣とシン・ユンボク…御真を裂いた罪は死に値しますが…シン・ユンボクは…それが御真だけでなく…一人の魂が込められた絵と思い過ちを犯しました…何とぞ海のような雅量を施してください…」に、心を引かれたように思います。そして王様は賭けに出ました。御真を廊下に置いて大臣がどうするかを見ました。

 右議政は、浅知恵から御真を踏みつけにしました。王様は、御真と認めないのならば、ユンボクを、御真を裂いたという理由で処刑するお前の罪はどうなると言われました。結局、右議政は御真とは認めませんでしたが、ユンボクを処刑することは諦めなければなりませんでした。王様の頭の良さがうかがえるシーンでした。

 そして最後に、思悼世子の睿真を探す為に二人を呼びだして言った言葉が素敵でした。王様は「師匠が弟子を命より惜しんだのだ…弟子の才能を…命と同じ自分の手より貴重に思う…キム・ホンドの真心が…予の心まで動かしたのだ…」と言いました。そして「予の前にいる、お前たちの厚い情は…これまでのどんな絵よりも素晴らしかった…」と言いました。こんな話の分かる王様は、なかなかいないと思います。脚色されたフィクションだったとしても、元々が名君だったからこんなシナリオが出来たのだろうと思いました。



 チョンヒャンは、チョンヒャンなりにユンボクを助けようとしました。自分の身を危険にさらしてまでもジョニョンに助けを求めました。それが原因でユンボクが助かった訳ではありませんが、結局、ユンボクの居場所を作ってやることに貢献したのですから、チョンヒャンの想いが天に通じたのだと思います。それにしても、これほど人に愛されるユンボクの魅力とは何なのでしょうね。

 絵に対して、肩肘を張って突っ張ってきたユンボクの生き方は、危なっかしくて堪りませんが、その影にひそんでいる心根の優しさと、真っすぐな心を分かる人には分かるのでしょうね…



 それから、以前別提が、シン・ハンビョンについて評していたことが現実のものとなりました。別提は「ハンビョンは、金を儲けることで身を崩した」と言っていましたが、いくら養子で大失態を犯したからと言って、金で息子を売るような事をして…結局、その野心が実子のヨンボクを死に追いやり、養子のユンボクにも、どれだけ心に傷を与えて来たのか、全く分かっていないような気がします。



 最後に、ユンボクが図画署で別れを告げに来た時に、ホンドは落款を渡しました。ユンボクが号を付けてくださいと頼んだ時は、豆粒だのツルマメだのと、とぼけていましたが…ちゃんと蕙園という立派な号を付けて、落款まで用意をしていたんですね。やはり可愛い弟子だったのでしょうね…でも、それがいつしか、不思議な愛情へと変わっていったようですね…しかし、それも仕方がないことだと思います。実際にユンボクは女人なのですから…どんなに隠そうとしても隠しきれないものがあると思います。まして朝鮮最高の画員の眼力を騙すことはなかなか出来ないことだと思います。これが自然の成り行きだったのかも知れません。これからますます目が離せないシーンが出てくるように思います。それでは次回をお楽しみに…

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