2012年1月14日土曜日

韓流時代劇「風の絵師」第9話御真画師(承)


9話 御真画師(承)



 御真画師の競作に出場する画工達が、整列して会場まで歩いて行く姿が映像で流れています。別提の声で、ナレーションが語られています。

 「主上殿下が即位して、初の御真画師の競作だ…競作は一日だけ行われ、四組中一組だけが選ばれる…図画署画員として最善を尽くしてほしい…」と…



 ホンドは、ユンボクが緊張している様子を見て「何を考えている…」と聞きます。ユンボクはただホンドの顔を見るだけで何も答えません。ホンドは「当ててやろうか…あの人は清国から来た…数十年絵を描き続けた画員達に勝てるか…肖像画だけ10年描いた人に対せるか…緊張して失敗したらどうするか…多くの雑念だろう?…そうだろう…」と言います。ユンボクは緊張した顔で「はい」と答えます。

 ホンドは「百万の大軍が通る戦場でも…画員の征服対象は一つだ…」と言います。ユンボクは「何ですか?」と聞きます。ホンドはただ一言「紙」と言います。ユンボクは「紙ですか?」と聞き返します。ホンドは「そうだ、白い紙だ…それを征服すればいい…白い紙を…筆で満たして征服するんだ…それ以外忘れろ…」と言います。ユンボクは「はい、師匠…」と答えます。



 図画署では生徒達が、御真画師の競作を掛けの対象にしていました。

 生徒の一人が同元の生徒に「早く書け…」と言います。同元の生徒が「新米画員のユンボクとヒョウォンには…御真画師は大変だ…」と言います。するとヒョウォンの腰巾着の生徒が「何を言ってる…別提やイルチェ様も図画署では力があるから…新人画員も御真画師の競作に入れた…さあ、さあ、さあ…とにかく掛けてみろ…」と言います。

 年長の生徒が「ユンボクとヒョウォンは別として…檀園先生とイ・ミョンギ先生だな…それしかない…それじゃオレは檀園先生に3両…」と言います。すると別の生徒が「清国から来たイ・ミョンギ先生に4両…」と言います。すると生徒達が次々に掛けて行きます。



 市中でも御真画師の競作の話題で持ちっきりでした。掛けやが現われて「さあ、どうぞ…朝鮮最高の画員達が競作する御真画師が…今日、あの宮中でおこなわれるということだ…だから早く掛けてくれ…ためらっちゃいけない、まず…主上殿下が寵愛する画員中の画員、最高の画員…差備待令画員のチェ・ソク…2番目、朝鮮の山河草木を美しく描きだす…山水の大家、図画署の若い血イ・インムン…」などと大騒ぎでした。



 キム・ジョニョンの屋敷では、大商人たちが集まり、やはり掛けに興じていました。

 キム・ジョニョンは「…しかし、最も注目されるのは二人の画員…檀園キム・ホンドと崋山館イ・ミョンギです…」と言います。そして、二人が力を合わせて描いた肖像画を棒で指し示しながら、解説を始めます。

 「毛一本逃さぬ精妙な筆さばきのイ・ミョンギと…すべてが境地に至ったキム・ホンド…この二人の参加で…御真画師をする者が誰になるか…項羽と劉邦の対決に比肩する…先の分からぬ薄氷の勝負です。」と…

 参加者の一人から「そうだな…」と声がもれます。

 キム・ジョニョンが「掛け金を二倍にしてみました…」と言います。すると参加者の一人が、高笑いをしました。そして「遊びで千両とは、多過ぎはしないか…」と言います。隣に座っている者が「熱くなりそうだ…そうではないか…」と言います。その場にいた者たちが「そのとおりだ…」と言います。

 ジョニョンは「今日…一緒に最高の勝負を楽しんでください…」と言います。そして使用人に目で合図すると、使用人は、次の間に続く引き戸を開けます。次の間には、琴の演奏をする為に、チョンヒャンが準備して座っていました。チョンヒャンが一礼すると、参加している人達が口々に「天下の美人だな…確かに絶世の美人だ…」と褒め称えます。

 ジョニョンは笑みをうかべながら「演奏が終わるまでに…配った札に名前を書き、箱に入れて下さい…勝負は結果が自分に関係してこそ興が増します…」と言います。参加者も「そのとおりだ…」と同意します。

 ジョニョンは、札を手にとって参加者に見せながら「赤い札は、崋山館イ・ミョンギ…青い札は、檀園キム・ホンド…それでは伽耶琴を演奏します。」と言うと、チョンヒャンに目で合図します。チョンヒャンは琴の演奏を始めます。

 参加者達は「崋山館イ・ミョンギか…檀園キム・ホンドか…どうするか…」などと言いながらも、それぞれ札に名前を書いて行きます。ジョニョンは満足そうに酒を飲みながら、チョンヒャンの琴の演奏を聞いていました。





 宮廷では、図画署の絵師たちが次々に、御真画師の競作の会場へ入っていました。

 ホンドは会場に入る前に「天気がいいな…」とミョンギに話しかけます。ミョンギは「そうだな…」と答えます。ホンドは「絵を描くには持って来だ…そうだろう?…」とユンボクに言います。ユンボクは「そのとおりです…」と言います。

 ミョンギは「酒飲みの画工と、腰巾着も来たのか…」と言います。ホンドは直ぐに切り返して「ところで黒竜は何処にいる…お前の大切な黒竜様だ…そうだ、黒竜は筆をとれないから…腰巾着でも黒竜よりましだな…」と言います。そして、ユンボクの方を向いて「違うか黒豆…」と聞きます。ユンボクは「そのとおりです…」と答えます。

 ミョンギは笑いながら「幸いだな…黒竜が筆を取れたら、お前の画工人生は終わりだ…そうではないか…」と言うと、高笑いして、競作会場へ入って行きます。ホンドはミョンギの後姿を見ながら薄笑いをし、ユンボクに「奴に天賦の才能とは…天も不公平なものだな…気を引き締めなくては…」と言うと、競作会場へ入って行きます。





 競作会場では、朝廷の大臣や図画署の画工達が座していました。太鼓が打ち鳴らされて、係の者が「一同注目しろ…」と言います。

 礼曹判事が「これより丁酉年、御真画師競作を始める…今回の課題は、主上殿下が直接下された…容把(ヨンパ=朝鮮時代のモンタージュのこと)を…絵で表現することだ…」ここまで言うと、会場の画工達が驚き始め、周りを見回し始めます。礼曹判事はさらに続けます。「すなわち…言葉により人を描くという意味だ…それでは画題を出す…」と…

 礼曹判事の挨拶が終わると、競作に出ない別提や元老画員達も驚いて、隣り合った者同士で、ひそひそと何か話していました。

 「容把?」…「罪人を捕らえる時の?…」などと…



 係の役人が、画題を読み上げ始めます。

 「身長は5尺…顔は熟したナツメ色のようで…ひげの中から隠々として、哀切たる人情が…声として発せられ…及ばぬ所がないかの如く、天下をにらんでいる…その顔は細く、眉は雁が座ったようだ…座る姿は堂々とし、桃色の官服は流水の如く…白扇を持った両手が整っている…花ござの上に座ると、その威厳は王のようだ…品行は仙人の如く、言動に節度があった…今日の戌時までに、この人物の下絵を描く…始めてくれ…」と…



 画題が読み上げられるとヒョウォンはミョンギに「見ぬ人を描くのですか、崋山館師匠…」と言います。ミョンギはうつむいて、額に手をやりながら考えます。



 礼曹判事が「これより、御真画師の競作を始める…競作する責任画員は前に出ろ…公正な競作の為…くじで各自の席を決める…」と言います。

 ユンボクはホンドに「どうなりますか…」と尋ねます。ホンドは、ため息交じりに「なるようになるさ…行ってくる…」と言います。ユンボクは「いい席をお願いします…」と言います。ホンドは立ちあがり、礼曹判事の元へ行きます。



 生徒達がいる教室へ、ヒョウォンの腰巾着の生徒が情報を持って走って来ます。

 「出た…出たぞ…」と言いながら…すると、同元をしている生徒が「どんな問題だ?…」と聞きます。腰巾着の生徒は「だから見……」と声を詰まらせます。同元の生徒は「だから早く言えよ…」と言います。腰巾着の生徒は興奮しながら「見ぬ人を描けとさ…」と言います。同元の生徒は驚いて「見てもない人?…」と聞き返します。年上の生徒が「そんな馬鹿な…」と言います。同元の生徒が「見もせずにどうやって?…無理に決まっている…」と大声で言います。すると年上の生徒が「ちょっと待て…描けるぞ…この目を見ろ…」と言うと、腰巾着の生徒の顔を指差して「カレイの目…」と言います。すると他の生徒達が笑いながら「カレイの目…小さいな…」と言います。腰巾着の生徒は、指で目を大きくして「どこがだ…」と反論しますが、生徒達は一斉に「カレイの目…」と言って笑います。



 宮殿では、王様に反感を持つ大臣達が集まって話し合いをしていました。

 キム・グィジュは「姿かたちを描いた文で、人の絵を描けとは、これまでの…御真画師の競作内容とは違います。…」と言います。隣の大臣も「文章だけでその人物を描くとは…」と言います。右議政は「何だ?…」と聞き返します。すると「はい…これは、追写(死後にその姿を描くこと)で使う方法ではないですか…」と答えます。

 キム・グィジュは「主上殿下は本当に、先の世子邸下を…」と、ここまで言うと、右議政が咳払いをして、やめろと合図を送ります。



 王大妃は自室で読書をしていました。

 「主上殿下がどんな手を使っても、私の掌中です…イ・ミョンギは必勝の切り札です…」と、心の中で言っていました。



 王様も自室で墨をすりながら「溜まり水は腐るものです…檀園というものはいつも勝負を覆す切り札です…」と、心の中で言っていました。



 礼曹判事の前で、席順の抽選が始まりした。責任画員が一人ずつ札を引きます。

 順番を待っていたミョンギがホンドに「問題が悪いな…」と話しかけます。ホンドは「なぜだ…同じような絵だけ描いて来て…他の絵を描くのは頭が痛いのか…」と聞き返します。ミョンギは「酔っぱらって適当に描き…下手な理屈を付ける誰かよりましだ…今でもそうなのか?…」と言います。ホンドは「意図せぬ間違いは、神仙の助けによっておこる…お前は身をすくめて見る世の中が…世の中のすべてだからな…」と言います。ミョンギが「粟一粒にも天下が入っている…」と言います。するとホンドが「天下はその外にある…お前が金で描く、金持ちの部屋にあるか?…」と言います。

 二人の口論を聞いていたインムンが心配して「相変わらずだな、会えばケンカだ…」と割って入ります。するとミョンギはインムンに「お前はまだ…ソンビのつもりか…」と言います。しかしインムンは、穏やかに「口の悪さも変わらんな…」と言います。すると係りの者が「次」と言います。インムンの番でした。インムンは前に進み出ます。

 ミョンギは、さらにホンドに話しかけます。

 「小ささで言えば…お前と一緒の腰巾着より小さな奴はいない…能力もそんなものだろう…」と…ホンドは「腰巾着と呼ぶのはやめろ…奴はお前とは比較にならない…もう生徒時代に物我の境地を経験した…分からんだろう…物我一体…」と言います。

 ミョンギは「物我一体か?…」と言うと、笑いながら「アイツも酒飲みなのか…安物の興によって描くのか…」と言います。ホンドは、溜息をしながら「どうにも変っていないな…」と言います。するとミョンギも「変わらないのはお前だ…」と言います。そして「ソ・ジンがお前なんかと親友になるとはな…死んだアイツが可哀想だ…」と言います。ホンドは静かに「その話はするな…」と言います。しかしミョンギは「親しいソ・ジンが死んだ後も…変わりなく筆を取るのを見ると…お前こそ俗物じゃないか…お前がソ・ジンを追って、黄泉まで行くかと思った…」と鼻で笑いながら言います。ホンドは静かに「話すなと言った…」と言います。それでも、ミョンギの挑発は続きます。

ミョンギが「なぜだ?…師匠が死んだ日…私が肖像画を描き終えたと…私を獣以下に扱ったのを忘れたのか…なぜ自分だけ潔癖な振りをする?…」と言うと、我慢できなくなったホンドは、振り向いてミョンギの胸ぐらをつかみます。そして「やめないか…」といます。ミョンギは「この手を離せ…」と言うと、ホンドの手を振り払います。その時の勢いで、ホンドの掛けていた眼鏡が床に落ちてしまいます。

役人が「何をしおている…」と言います。そして「イ・ミョンギ…前に出ろ…」と言います。ミョンギはホンドをにらみつけます。ホンドはミョンギに「師匠とソ・ジンの話は二度とするな…」と言います。そして落とした眼鏡を取ろうとするのですが、ミョンギが眼鏡を踏みつけて壊します。ミョンギは「おっと…愛逮(エチェ)を踏んでしまった…なんてこった…まったく使えないな…すまない…お前は愛逮がないと…肖像のような精緻な絵は大変だろう…どうする…」と薄笑いしながら言います。ホンドは壊れた愛逮(眼鏡)を黙って手にします。

役人が「イ・ミョンギ…前に出ろ…」と強い口調で、また呼びます。ミョンギは薄笑いしながら前に進み出ます。





ホンドとユンボクは席が決まり、着座します。

ユンボクが心配して、ホンドの顔を見て「大丈夫ですか…師匠…」と言います。ホンドはユンボクに心配かけないように「大丈夫…」と言います。ホンドは隣り合ったミョンギの顔を見つめます。ミョンギもホンドに視線を合わせます。次の瞬間に係りの者が、屏風でその視線を隔てます。

係りの者が「始めなさい…」と声をかけます。それぞれの画員達は絵に取り掛かります。

ヒョウォンが、下絵の為の木炭をミョンギに差し出しますが、ミョンギはそれに目も触れずに、ただ一点をじっと見つめて考えていました。そして「人の体に大きな差はない…そしてこの競作は、容把が課題だ…体は悩まずに普通に描けばよいが…説明からして、家格の高い文臣に違いない…それならひげは整い、顔は長くて端麗だろう…」と考えました。



インムンは、すでに下絵の線を描き始めていました。その姿は、落ち着いていて、我が道を行くという感じでした。

肖像画を専門に描いてきた元老画員もまた、独自のスタイルで、落ち着き払って線を引き始めました。そして、ミョンギも線を引き始めました。



ホンドとユンボクも制作を始めました。ユンボクはホンドが描きやすいように、、木炭の先を整えていました。そしてホンドが顔の線を引き始めていた時に、ホンドの目がかすみ始めました。裸眼では仕方のないことだったのかもしれません。ホンドは線を引くのをやめます。

ユンボクが心配して「どうしましたか?…」と聞きます。ホンドは険しい顔で首を横に振り「ユンボク…」と言います。ユンボクは「はい」と言います。そしてホンドは、意を決したように「お前が顔を描け…」と言います。ユンボクは「それは師匠出なければ…」と言いますが、ホンドは「愛逮が…割れた…」と言います。ユンボクは「これまでも愛逮がなくても描かれました…」と言います。ホンドは「太い線は関係ないが…顔のような精緻な線は、愛逮がなくては…苦しい…」と言います。ユンボクは困った表情で「しかし…私はまだ…」と、自信なさそうに言います。ホンドは「大丈夫だ…」と言います。しかしユンボクは、自信がなくて堪らなそうな顔で小さく「師匠…」と言います。衣習(ウィスブ)の太い線は私が手伝うから…顔を描いてくれ…」と言うと、木炭をユンボクに渡します…ユンボクは困った表情で木炭を受け取り、ホンドの顔を見つめます。ホンドは「大丈夫だ…十分に学んだ……さあ…目を閉じろ…早く…」と言いますが、ユンボクは恐怖にも似た感情が心の中を支配していて、目を閉じることが出来ませんでした。ホンドはユンボクを即す為に、手をユンボクの目に当てます。

ユンボクが目をつぶるとホンドは「頭の中にある残影をすべて消せ…改めて画題を考えろ…」と言います。するとユンボクの脳裏には、役人が画題を読み上げる声が聞こえて来ました。「座る姿は堂々とし…桃色の官服は流水の如く…白扇を持った両手は整っている…」ユンボクには微かに映像が見えて来ました。ホンドもまた目をつぶり、画題の映像を追い求めていました。二人の想いが重なり合い、次第に映像が見えて来ます。そして映像が一人の形となりました。ユンボクとホンドは目を開けて視線を合わせます。

ホンドがユンボクに「見えたか?…」と聞きます。ユンボクは首を縦に小さく振ります。ホンドは「描いてみろ…」と言います。ユンボクは息を吸って前に進み紙に向かいます。そして、一度ホンドの顔を見て、線を引き始めます。

ホンドは細かい部分はユンボクにまかせ、大まかな形を線でとらえ始めます。

絵がほぼ出来上がったときに、ユンボクは目に違和感を感じます。そして筆を止め、ホンドの方を向いて「師匠…」と言います。ホンドは「どうした?…」と聞きます。ユンボクは「見て下さい…」と言います。ホンドが絵を見て「何が問題だ?…」と聞きます。ユンボクは真剣な顔をして「この目が気になります…これでよいのか…」と言います。するとホンドが「どういうことだ?…」と聞き返します。ユンボクは「目が天下をにらんでいると言ったのに…」と言います。ホンドはユンボクに「お前はどう思う?…」と聞きます。

ユンボクはしばらく考えて、じっとホンドの顔を見ます。ホンドは「確信があるのか?…」と聞きます。ユンボクな小さな声で「はい」と答えます。ホンドはユンボクに「描け…」と命じます。ユンボクな小さくうなずくと「はい」と言って、目を修正し始めます。ユンボクは、中央にあった黒眼を端の方へ寄せて描きました。そしてホンドの方を振り向いて「出来ました…」と言います。



係りの役人が「終わりだ…」と言います。屏風が取り除かれ、会場が広々と見えるようになります。役人は「これで、丁酉年御真画師の競作を終える…」と宣言します。画員達が「聖恩に感激の極みです…」と一斉に言うと、画員達は低頭します。その時、役人によって、それぞれの絵が回収されます。





ホンドとユンボクは宮殿の庭を歩いていました。ホンドがユンボクに「何か落ちているか?…」と聞きます。ユンボクは何も言わずに、ただ下を向いて歩いているだけでした。ホンドがユンボクの背中をポンと叩いて「胸を張れ…筆を落としたのか…」と聞きます。ユンボクは恐る恐る「はい…」と言います。ホンドは「心配か?…」と聞きます。ユンボクは上目使いで自信なさそうに「やけにあの目が気になります…」と答えます。ホンドは上を見ながら「天下をにらむ目か…」と言います。そして「ところで…どうして思いついた?…」と聞きます。ユンボクは「私はただ…」と言ってホンドを見ます。ホンドは「何だ?…」と聞き返します。ユンボクは「あの内容を聞いたとき…師匠の顔を思い出しました…」と言います。ホンドは「これか…」と言うと、頬を膨らませ、目を大きく見開きます。ユンボクは「はい」と答えます。ホンドは「それならいい…ダメなら私のせいだ…お前は十分にやった…行こう…」と言います。ユンボクはホンドの後ろを付いて歩きます。その姿は、いかにも自信がなさそうでした…



キム・ジョニョンの屋敷には、イ・ミョンギが来ていました。

ジョニョンは「…そうか…容把を描く問題が出たのか…」と聞きます。ミョンギは「つまらぬ問題です…肖像で御真画師の能力を見るのに…何の謎かけですか…朝鮮はまだまだ清国に追いつけません…」と答えます。ジョニョンは「愚痴が多いから自信があるようだな…自信がある時のお前の癖だ…」と言います。ミョンギは「見る目があれば、誰が見ても同じです…心配いりません…私がまだ分かりませんか…私は負ける喧嘩はしません…」と答えます。ジョニョンは少し笑いながら「これは困ったな…祝い酒を準備すべきだった…酒がないと興も湧かない…」と言うと、二人は笑いだします。



宮廷では王大妃が右議政とキム・グィジュに「自信があると?…」聞きます。グィジュは「もう祝宴を開く雰囲気です…」と答えます。王大妃は「好事魔多し…慎重の上に慎重を期してください…」と言います。右議政は「あの者らが、どなたに向かって…出来ないことを大言壮語しますか…心配いりません…」と言います。王大妃は「結果が出た時の主上の顔が見たいものだ…真っすぐでは最後に折れる…そう忠告したのに…」と言います。右議政は「そのとおりです…」と言うと高笑いを始めます。王大妃は満足そうな顔をしていました。



宮廷の王様の部屋には、側近のホン・グギョンがいました。

ホン・グギョンは「それで…翌日8人の画師の絵を監董(カムドン)し…競作を終えます…」と、報告します。

王様は「彼らが清国から呼んだ者がイ・ミョンギか?…」と聞きます。グギョンは「はい、競作の為に動いたようです…」と答えます。王様は「容易でない競作になるな…競作が終わるまで何かが起きないように…徹底的に監視しろ…」と命じます。グギョンは「はい殿下…」と答えます。



ユンボクは自宅で、筆を見ながらヨンボクのことを思っていました。

「筆は…毎日よく洗い、陰で干すと長く使える…お前には才能がある…私などには…想像もできない天が与えた才能だ…」

「兄上…丹青所に行ったら図画署に戻れない…」

「だから私の為にも…私の為にも…必ず…最高の画員になってくれ…」

ユンボクは、あのときのことを思い出すと「兄上…少し待ってくれ…」と言いながら、筆を触っていました。そこへ、父ハンビョンがやって来ます。

ハンビョンは「ユンボク…」と言うと部屋に入って来ます。

ユンボクは「はい、父上」と言いながら立ちあがります。ハンビョンは「起きていたのか…」と言いながら、上座に座ります。

ハンビョンは「疲れたろうに、どうして寝ない…明日が心配で眠れないのか…」と聞きます。ユンボクは「はい、少し…」と答えます。ハンビョンは笑いながら「私も今夜は眠れそうにない…」と言います。ユンボクは神妙な顔で「期待しないでください…自信がありません…」と言います。ハンビョンは「口が災いを呼ぶというぞ…この父は少しも疑わずにお前を信じる…今度の競作で必ず勝ち…御真画師は必ずお前の者になる…必ずな…そうとも…」と言います。





 御真画師の競作の会場では、監董(カムドン=審査)が始まろうとしていました。係りの役人が「画員は絵を広げるように…これから監董を始める…」と言います。

 それぞれの画員達の前に絵が並べられます。朝廷の大臣達や図画署の別提・元老画員達が絵を見て回ります。

 キム・グィジュはイ・ミョンギの絵を見て「やはり…筆致が精巧だ…」と言います。誰かが「あの精緻なひげを見ろ…毛の一本一本が…まるで生きているように力がある…」と言います。別提は「肖像は伝神写照(肖像を描き精神を伝えること)と言うが…見もせずにこれほどに描くとは…やはり肖像の大家、崋山館らしい…」と言うと笑い始めます。ミョンギも満足そうでした。すると近くにいた大臣が「筆だけでこの境地とは…この肖像を彩色すれば、生きている絵になりそうだ…」と言います。王様を快く思っていない、右議政一派の大臣達は上機嫌でした。



 別提がホンドとユンボクの前に進みより絵を見ます。

 別提は虫唾が走るような嫌な顔をして「いや…」と言います。隣に座っていたミョンギも二人の描いた絵を見て、呆れた顔をしていました。

 キム・グィジュが不機嫌な顔で「画師キム・ホンド、これは何だ…どうしてこの人物の目は、斜視になっている?…衣習を見ると価格は高いのに…これは大臣達を…からかうものか?」と語気を強めて言います。ホンドは「とんでもないことです…」と答えます。右議政は、真剣な顔をして「ではなぜだ?…」と言います。ホンドは「それは…」と言うと言葉が詰まります。すると横にいたユンボクが低頭して「それは…画題に出た文を解釈したのです…」と、恐る恐る言います。右議政は「どう言うことだ?…」と聞きます。

 ユンボクは恐る恐る「二つの目が…天下をにらんでいるという文章でした…」と答えます。大臣達は、不満そうに隣り合った者同士、何か言葉を交わしていました。別提は「天下をにらんでいる?…まったく…」と吐き捨てます。ミョンギがユンボクの方を向いて「腰巾着らしい単純な発想だな…」と言いながら笑い捨てます。ホンドはミョンギをにらみつけます。

 するとキム・グィジュが「これは…神聖な画師競作を侮る行為です。肖像というのは…内面に潜む本質を像に表現するものです…斜眼にしたのは…この肖像の…人物の本質まで汚すことです…そうではないですか…」と、興奮して手ぶりを付けながら周りの大臣達に訴えます。ユンボクの顔はこわばり、最大限の緊張がユンボクに押し寄せていました。

 別提は苦虫を噛み殺したような顔をして「図画署全体をあざけりの対象にするつもりか…」とヨンボクを恫喝します。ヨンボクはホンドの顔を見ます。



 競作会場の控室では、ホン・グギョンが老高官の前に立っていました。

 老高官は「今度の御真画師は、主上殿下の発想か?…」と聞きます。グギョンは「はい、ボンアム様…」と答えます。ボンアムは「主上は…世孫時代から他人と違うことを好んだ…それが危険だと言っても…正しいと思えば常にそうだった…」と言います。グギョンは「その勇気は今も変わっていません…」と言います。ボンアムは「うん…さあ、結末を付けに行ってみるか…」と言います。グギョンは「はい」と答え、一礼します。



 競作会場では、まだホンドとユンボクへの批判が続いていました。

 キム・グィジュが興奮して「こんな軽い者たちに…御真画師の競作とは…絶対に見逃せない重大なことです…」と大声を上げて言います。右議政は「何より肖像画で目は…その精神を象徴する中心なのに…軽率に過ぎる…」と語気を強めて言います。ミョンギは呆れてホンド達を見ていました。

 ホンドは「画題は山水画でも静物画でもない…容把です…容把とは…文章で人の顔を描くことです…」と言います。ユンボクはすがりつくような目でホンドを見ながら「師匠…」と言います。ホンドは、語気を強めて「基本に忠実な心で絵を描いたのです…」と言います。

 すると別提が前に出て、いぶかしそうな顔つきで「基本?…この絵が基本に忠実だと?…」と怒鳴りつけます。側にいた礼曹判事が「やめないか…」と、双方を怒鳴りつけます。



 その時、役人から「一同、注目されよ…」と声が掛かります。そこへ、ホン・グギョンが入って来ます。ホン・グギョンは「画題となった方が来られる…競作の結果は…画題になった方と似た点と似た点と違う点を比べ…監董するものとする」と言います。

 ユンボクは心配でたまりませんでした。そしてすがりつくような目でホンドを見て「師匠…どうすれば?…」と言います。ホンドは「待つしかない…」と答えます。



 役人が「皆礼をもって迎えよ…」と言います。会場にいる全員が礼をします。そこへ、ボンアムが入って来ます。役人が「頭を上げろ…」と言います。会場内は緊張で静まり返っていました。

 次の瞬間、そこにいた誰もが驚き、声も出ませんでした。そこには、 “ボンアム”(チェ・ジェゴン=朝鮮後期の文臣で正祖の師)が立っていました。そして、その目は、ユンボクが描いた肖像画の目と瓜二つでした。

 ユンボクは「アッ…師匠…やりました…」と言いながら、ホンドを見つめます。ホンドも「やったな…やったな…やってのけたな…」と答えます。ホンドは「よくやった…ツルマメ…」と言いながらユンボクの方を見て笑います。ユンボクもホッとしたように笑みが浮かびます。それを見ていたミョンギは、負けを自覚したようで、うつむいて歯を噛み締めていました。

 ボンアムは前に進み出て、それぞれの画工が描いた自分の肖像を見比べていました。そして、ホンドとユンボクが描いた絵を見て「フフフ…」と笑い「不思議なほどによく似ている…皆聞くように…この二人の画員は…誰にもない心の目を持ったものだ…」と言います。

 すると礼曹判事が「画員キム・ホンド…画員シン・ユンボク…二人は…丁酉年競作の合格者として…御真画師を遂行することを命ずる…」と宣言しました。

 ホンドとユンボクは見つめ合い、そして向き直ると同時に低頭して「はい、命を奉じます…」と答えます。その二人の姿を見ていたミョンギの目は、鋭く輝き、不服を持った目でした。王様に反意を持つ大臣達の顔は、苦虫を噛み殺したような顔つきで、ただ沈黙するだけでした。

 するとミョンギが立ちあがり異議を申し立てます。

 「この競作は無効です…シン・ユンボクは参同画師なのに…主管画師でない者が顔を描けますか…」と…

 するとキム・グィジュが、この時とばかりに「どういうことだ?…」と、ホンドとユンボクを問い詰めます。ホンドとユンボクは立ちあがります。そしてホンドが「この画工は精妙な筆が特徴で…私は粗すぎる為…二人の特性を考えてそうしました…問題でしょうか…」と答えます。今度は右議政が前に進み出て「それは事実か…」と問いただします。ホンドは「適正に応じただけです…良い絵が描けました…」と言います。

 それでも右議政は引かずに「しかし新人画工に筆を任せるとは…この画事を何と思って無謀な仕業をする…」と声を強めて言います。ミョンギは、ユンボクを斜に見つめた格好で、蔑むように「主管画師に何か問題があるのでは?…」と言います。ホンドは「何の問題だ?…」と聞き返します。するとミョンギはホンドを見て「あるだろう…肖像を描けない致命的な理由だ…お前の目は…精緻な線は引けない…描くだけでなく…観察することすら…難しくないか…」と言います。すると礼曹判事が「どういうことだ?…」と聞きます。ミョンギは振り返り、礼曹判事に「はい…キム・ホンドはわずかな誤差も許されない…精巧な御真画師は出来ません…」と答えます。礼曹判事はミョンギに「どうしてだ?…」と聞きます。ミョンギは得意げに「画師キム・ホンドは…愛逮がなければ目の焦点が合わず…精巧な絵は描けません…」と答えます。周りでは「どうしてそんなことが…あってなることですか…」と声が出始めます。

 その時です。「オッホン」とボンアムの咳払いが聞こえます。そして「競作は終わった…お前の絵の実力は本当に惜しいな…」と言うと、舌打ちを繰り返してその場を立ち去ります。大臣達も別提や元老画員達もボンアムの言葉には逆らうことが出来ずに、静かにその場を去って行きます。

 ユンボクは一人で静かに会場を出て行きます。放心状態に近いものがありました。そして会場を見つめ、ホンドが出て来るのを待っていました。



 会場には、ホンドとミョンギが残っていました。

 ホンドはミョンギに「私の弱点をよく知って…愛逮まで壊したのだから…勝つべきだったな…」と言います。ミョンギは「何だ…忠告でもするつもりか…」と言います。ホンドは「望むならな…今度もお前に勝った…これからも私には勝てない…」と言います。ミョンギは、溜息らしきものを吐き出して「随従画師に助けられたくせに、偉そうに言うな…」と言うとその場を立ち去ろうとしますが、ホンドは「行くのか…死んだ師匠も私もお前の絵が好きだった…時には、一緒に暮らした昔が…懐かしくなる…何も恐れずに、堂々としたお前の姿が…ひどく懐かしくなる…声を上げて喧嘩しながらも…一緒に絵を描いた時代が…」と言います。ミョンギは、大きく息を吸って「くだらない…」と言います。ホンドは「そうだろう…臆病ものは死ぬ前に何度も死ぬが…勇者は一度しか死なない…今日、一度死んだことにしろ…そんな姿は、崋山館らしくない…酒でも一杯飲もう…」と言うと、立ち去ります。ミョンギは、前の一点を見つめて、大きくため息をして「気に食わない奴だ…最後まで偉そうに…」と言います。



 宮廷の王大妃の部屋では、王大妃が王様にもらった携帯用の羅針盤を静かに見ていました。そこへ王大妃付きの尚宮がやって来ました。

 王大妃は「誰に決まったか…」と聞きます。尚宮は申し訳なさそうな顔で「キム・ホンドとシン・ユンボクです…」と答えました。

 王大妃は「何だと…イ・ミョンギではないのか…」と聞きます。尚宮は「はい…」と答えます。王大妃は悔しさで、机を叩きます。そして「なんと…」と言いながら、次の手を考えていました。



 図画署の生徒達は、掛けの取り分を分配していました。

 「5両だな…」

 勝った者は笑い、負けた者は悔しがっていました。

 年長の生徒が「それ見ろ…檀園先生に勝つものはこの朝鮮にいない…」と言います。すると「そうだ…」という声が聞こえます。

 ヒョウォンの腰巾着の生徒が「ところで…実力じゃないそうだ…そんな問題が出ると誰が分かる…」と負け惜しみを言います。すると年長の生徒が「生きてれば分かるが、運も実力ということだ…」と言います。同元の生徒が「確かにそのとおりだ…」と言います。そして、腰巾着の生徒に「おい、金をくれ…」と言います。すると横から「私は5両だ…」と声がします。腰巾着の生徒は、持っていたつぼの中から金を出し、しぶしぶ金を配り始めます。その配り方が遅く、他の生徒たちから文句を言われた腰巾着の生徒は「全部持って行け…」と言います。

 市中でも、掛け金の払い戻しが行われていました。かったものは喜び、並んで払い戻しを受けていました。同元が「だから檀園先生に掛けろと言っただろう…」と言っていました。



 キム・ジョニョンの屋敷には、大商人達が集まっていました。

 ジョニョンは「崋山館イ・ミョンギ…檀園キム・ホンド…」というと、隣の席に座っていた大商人が「どちらが勝った?…」と聞きます。ジョニョンは「誰に掛けましたか?…」と聞きます。すると「大行首の話を聞いて、崋山館に掛けた…」というと高笑いをします。

 キム・ジョニョンは、すました顔で「実力ならイ・ミョンギが圧勝です…しかし…主上殿下は何をお考えか…絵の実力ではなく、才気の争いでした…その結果、勝者は…檀園キム・ホンド…この者です…」と言います。

 するととなりにいた大商人が「どういうことですか…崋山館を進めたではないか…」と興奮して怒りだします。その隣にいた大商人も「これは無効だ、詐欺だ!…」と叫びます。隣の大商人が「金を返してくれ…」と大声で迫ります。

 ジョニョンは冷めた目つきで「だから卑しい商売人と言われる…最後の決定は自らしたはずです…」と答えます。大商人は「待ってくれ…」と興奮して叫びます。するとジョニョンは「掛けごととは不確実なものです…札を入れても勝つとは限らない…札は…勝つ機会を提供するものです…」と言います。大商人は「話にならん…」と言って怒りだします。



 部屋の外で控えていた、大商人の用心棒らしき男たちが入って来ます。すると次の間に控えていたジョニョンの女侍が入って来てそれを取り押さえます。そして女侍は、大商人の顔の前に剣を向けます。

 ジョニョンは舌打ちをしながら大商人に「乱暴なことですな…惜しいのですか…札を選んだときの自信を持って…すぐ商売をして下さい…負けた金の何倍も儲けられます…」と言います。大商人の一人が「今日のことは忘れないからな…」と言うと、その場を立ち去ります。



 チョンヒャンは、自室で琴を奏でていました。そこへお付きの下女が息を切らして入って来ます。下女はチョンヒャンの前に座ると「檀園先生と若様です…」と言います。チョンヒャンは「本当なのか…」と聞き返します。下女は笑顔で「はい…」と答えます。チョンヒャンは、笑顔で下を向き、胸元に掛けていたユンボクからもらった蝶のノリゲを愛おしそうに両手で握ります。



 図画署の別提の部屋には、ミョンギが座っていました。別提は立って外を眺めながら悔しそうに柱を叩きます。そして「何てことだ…檀園ごときと言いながら何というざまだ…」とミョンギを大声で罵ります。

 ミョンギは「お恥ずかしい…」とただ一言謝るだけでした。そして、若かりし頃のホンドのことを思い出していました…

 それは、ホンドがユンボク達生徒に出した九つの点に線を引く問題を解いて解説する姿でした。そして、驚くことにホンドはユンボクと同じ回答をしていたのです。

 ホンドは「もしこの線を無限に延長することが出来れば…線の角度は無限に小さくなって行き…中の三点を通過できると思います…もし線の角度を減らせれば…中の線を平行に通ると思います…無限に延長すれば角度はさらに減少し…中の線は三点を通過します。」と解説していました。

 ミョンギは、ニッコリ笑って「檀園…檀園…」と言うと「ウウン―」と息を吐き出しました。



 宮廷では、王大妃の部屋に右議政とキム・グィジュが呼ばれていました。

 王大妃は「これは主上の横車です…キム・ホンドを選ぼうと…作った課題です…」と語気を強めて言います。キム・グィジュは「ところでどうしますか…もう競作は終わり、勝負はつきました…」と聞きます。王大妃は「主上が何をたくらんでいるか…毛ほどでも過失があれば…それを材料にキム・ホンドを妨害します…監視してください…」と言います。右議政は「そうします。王大妃様…」と答えます。

 王大妃は「卑しい商人に任せたのは失敗でした…なぜ、あんな者に…」と言います。右議政は「あの者に対しては、手厳しい措置を取ります…」と答えます。



 右議政の邸宅には、キム・ジョニョンが呼び出されていました。ジョニョンは家の中に通されず、庭に土下座をしていました。

 右議政は「今回の失敗は、このまま見過ごせない…覚悟しておけ…」と、ものすごい剣幕で叱ります。ジョニョンは低頭して「どんな罰にも甘んじます…」と言います。右議政は窓越しに「今は会いたくないから、また呼ぶまで待つように…今回の件は最後までけりを付ける…」と言います。ジョニョンは「もう一度方法を考えます。ウサン様…」と言います。



 ジョニョンの家には、ミョンギが来ていました。ミョンギは、以前にもらっていたお金を金箱ごと持って来ていました。そしてジョニョンの目の前で金箱を開いて見せます。中にはお金がいっぱい入っていました。

 ジョニョンはミョンギに「清国に帰るのか…」と聞きます。ミョンギは「朝鮮にいる理由がありますか…とにかく負けたのでお金は返します…」と言います。ジョニョンは、金箱のふたを締めます。

 ミョンギは「ずる賢いキム・ホンドと腰巾着の随従画師が…御真画師に選ばれるとは…建国以来、最悪の画事です…呆れかえります…」と言います。ジョニョンは「その最悪の画事を阻む為に…お前を必要とする者がいる…」と言います。ミョンギは「誰ですか…」と尋ねます。ジョニョンは「画事を望まぬ人たちだ…望むだけの金をくれる…他の方法を考え…彩色段階で檀園を脱落させる…その時…新しい御真画師を選ぶなら…それを行えるものはお前しかいない…」と言います。

 ミョンギは「檀園が失策を犯すのを待てということですか…画員への礼が少しもないですね…帰ります…」と語気を強めて言います。そして立ち上がり、立ち去ろうとします。ジョニョンは背中越しに「待て…」と止めます。そして「だから檀園に勝てないのだ…檀園は昔からお前が越えられない峠だ…見のほども知らずに自慢し、恥ずかしくないか…」と言います。ミョンギは振り向くとジョニョンに鋭い眼差しで「言い過ぎです…」と言います。ジョニョンは「わずかな金で、清国から飛んできたお前が…画員の扱いを受けたいのか…」と言います。ミョンギが「実力相当の代価です…」と言うと、ジョニョンは「実力を証明できなければ恥ろ…偉そうに言うな…そうではないか…」と言います。ジョニョンは、薄笑いしながら「商売人の眼識とは…」と言います。ジョニョンは「商売人?…私には商売人らしさがある…お前はどうだ?…骨の髄まで画人と言えるか…その能力で檀園に対せると思ったのか…」と言います。ミョンギは、ジョニョンをにらみつけるようにして「そこまで言うことはないでしょう…」と言います。ジョニョンは「私に訓戒するつもりか…自分の失敗を処理もせず逃げ出すとは…私がその首をひねる前にすぐ消えろ…」と叱りつけるように言います。ミョンギは「まったく聞いていられない…」と吐き捨てるように言うと、部屋を出て行きます。

 ミョンギは、ジョニョンの屋敷の門を出ると振り向いて、怒りを込めた表情で「汚い争いに巻き込まれた…あんな奴に画人の待遇を期待するなど…」と言うと、つばを吐き捨てて馬に乗ります。そして馬に「行くぞ、黒竜…」と言うと、馬を走らせて立ち去ります。



 ホンドとユンボクは、図画署の制服姿で市中の露天商の前に立っていました。ユンボクは、ホンドの為に愛逮(眼鏡)を探していました。

 ユンボクは「これです師匠…」と言って、愛逮をホンドに渡します。ホンドはその愛逮を掛けてみます。そしてユンボクの方を見て「どうだ…」と聞きます。ユンボクは気に食わなかったのか、首を横に振り「待ってください…」と言って次の愛逮を探します。

 ホンドは、そんなユンボクを見ながら「同じなのに、何をそんなに選ぶ…」と言います。ユンボクは振り向いて「少しずつ違います…師匠…」と言うと、懸命に愛逮を探します。そして「これはどうですか…」と言って、次の愛逮をホンドに差し出します。ホンドは「似たようなものだ…」と言いつつも、また愛逮を掛けなおします。

 ユンボクは「師匠の目は深いので…透明なのが好いです…」と言います。ホンドはその気になって「そう思うか…少しは見る目があるな…」と笑いながら言います。するとユンボクも笑いだします。すぐ隣では、老夫婦が主人の為に愛逮を選んでいました。夫人は主人に「あなたに会いますよ…」と言って愛逮を渡しました。主人は愛逮を掛けながら「お前は見る目があるな…」と言っていました。ホンドはその姿を見ながらユンボクに「これにしよう…」と言います。ユンボクは「もっと見なくても?…」と言いますがホンドは「もういい…」と言います。そして店の者に「これはいくらだ…」と聞きます。ユンボクはホンドの体を両手でつかんで割って入るようにして「私が払います…」と言います。ホンドは「金を持っているのか…絵を打ったのか?…」と聞きます。ユンボクは慌てて「い…いいえ…貯めたお金が少し…」と言うと振り向いて、店の者に「いくらですか…」と聞きます。そして小声で「まけて下さい…まけてくれよ…どうも…」と頼みこみます。ユンボクは商談が成立すると嬉しそうに、ホンドの手を握って「行きましょう…」と言います。ホンドはユンボクに「10両もするのか…」と言います。ユンボクは「それでも…」と言います。

 ユンボク達は広い道に出て来ました。ユンボクがホンドの顔を見ながら「どうですか…」と嬉しそうに尋ねます。ホンドは「これは明るいな…」と答えます。ユンボクは「よく見えますか…」と尋ねます。ホンドは「世の中が完全に違って見える…」と嬉しそうに言います。ユンボクが「どのように…」と聞くと、ホンドは「それはなんだな…それがとにかく…お前がツルマメに見える…」と冷やかします。ユンボクは笑いながら「師匠…」と言います。ホンドも笑いながら嬉しがっていました。

 ホンドは「この愛逮は…私の命が無くなるまで大切にする…」と言います。ユンボクは満足げに「そうしてください…私の贈り物を壊さないでください…」と言います。ホンドは「分かった…得意顔をして…」と言います。ホンドが愛逮をなおそうとすると、ユンボクは「なぜしまうのですか…」と聞きます。ホンドは「これか?大切にしなくては…」と言うと笑います。

 ユンボク達の目に。イ・ミョンギの馬に乗る姿が見えて来ました。ユンボクは折角の好い雰囲気に水を差すようで「アアー」と言ってしかめっ面をします。

 そしてミョンギが二人の前に現れます。ミョンギはホンドに「おめでとう…」と言います。ホンドは「どうしたんだ?…認めないと思ったが…」と言います。ミョンギは、笑いながら「絵の勝負ではなかった…朝鮮では…その実力で御真を描けるとは…実に驚きだ…」と言います。ホンドは「帰るのか…」と聞きます。ミョンギは「息苦しい朝鮮で何をする…帰るさ…」と言います。ホンドは「寂しいな…」と言います。ミョンギは「寂しさを言葉で語れるか…しかし行くさ…」と言います。ホンドは「死ぬ前にまた会えるか分からんな…じゃあな…」と言うと立ち去ろうとします。するとミョンギは、馬の鞭でホンドの背中を叩きます。ホンドは振り向いて鞭をつかんで、ミョンギをにらみつけます。

 ミョンギはホンドに「気をつけろ…お前の想像よりも高い所で…今度の事件に関係している…」と言います。ホンドは「心配してくれるのか…」と言います。ミョンギは「同じ画人として…同じ師の下で学んだ同門として…お前の失策を待つ目が…お前達二人を見張っている…」と言うとミョンギは振り返り馬を進めます「行くぞ、黒竜…」と言って…

 ユンボクは心配して「大丈夫ですか…」と聞きます。ホンドは、ミョンギの後姿をじっと見つめ続けていました。



 ここで、第9話 御真画師(承)は終わります。



 この回を見て、現代にホンドのような師匠、あるいは上司がいたらいいなと思いました。ユンボクのように、若くて才能があっても、くそ生意気で、どことなく危なっかしいような学生や部下はたくさんいると思います。そんな若者の長所をホンドはうまく引き出しているような気がします。

 例えば、普段はくそ生意気で反抗的なユンボクが、御真画師の競作に出場する時に上がってガチガチになっていました。それに気付いたホンドは、ユンボクの心境を「あの人は清国から来た…数十年絵を描き続けた画員達に勝てるか…肖像画だけ10年描いた人に対せるか…緊張して失敗したらどうするか…多くの雑念だろう?」と、言い当てます。そして、

ホンドは「百万の大軍が通る戦場でも…画員の征服対象は一つだ…それは紙だ…」と言います。「そうだ、白い紙だ…それを征服すればいい…白い紙を…筆で満たして征服するんだ…それ以外忘れろ…」と言います。こんなに分かりやすい説明はないと思います。実力はあるのだから、人と勝負するのではなく、自分の実力を出せばいいと言っているのだと思います。



 また、ミョンギが「肖像画の顔を描いたのはホンドではなくユンボクだ…そんな重要なことを参同画師に任せていいのか…」と攻め立てた時も、毅然と跳ね付けてユンボクを守り抜きました。眼鏡を壊されて仕方が無かったとはいえ、その他のことも含めて、一度任せた以上は、責任は自分が取るという姿勢が感じられました。最近、こんな師匠や上司は少なくなったような気がします。



 また、競作が終わり自信なさそうに歩いているユンボクを見て、ホンドは、「目の位置はどうして思いついた…」と聞きます。するとユンボクは「画題を聞いて、師匠の顔を思い出しました…」と答えます。するとホンドは「それならいい…ダメなら私のせいだ…お前は十分にやった…」と言います。つまり、ホンドがユンボクに肖像画のイロハを教える時に、三停五岳を説明する際に、書物に書いてある理論だけでは描けない、実際の三停五岳は変化すると教え、ホンドの顔を教材にして演習させたことを思い出したとユンボクは言ったわけです。それに対してホンドは、お前はやるだけやった。責任はオレが取ると言ったわけです。なかなか言えるようで、言えない言葉だと思います。

 

 それから、ミョンギの生徒時代の思い出の映像から分かったことなのですが、ホンドが生徒達に出した最初の課題、九つの点を線でつなぐ問題ですが、ユンボクが出した解答とまったく同じ解答をホンドも生徒時代に出していたんですね。ただその当時受け入れられたかどうかは分かりませんが…そして、廻り廻って自分が教える生徒に同じ考えの持ち主が出てきた…実証するのは難しいので正解はやらなかったが、自分の理論は正しいと食い下がるユンボクの姿を見て、自分自身と重なり、興味を抱き可愛がるのは仕方がない事かも知れませんね…

 

 それから最後に、ミョンギは案外いい人なのかも知れませんね。ただ素直になれないだけで、突っかかる人は、世の中に沢山いますから…どちらかと言えば、ホンドやユンボクも良く似た類の人間なのかもしれません。だから、似た者同士のミョンギとホンドが跳ね付け合うのは当然のことかもしれません。

ただ、これは私の第六感ですが、ミョンギは、ホンドの師匠と友人のソ・ジン(ユンボクの実父)の死について、隠された秘密を知っているような気がします。あくまで第六感なので確証はありませんが、今までの発言などを考慮して、私の感ピューターで計算するとそんな気がします。あくまでも、当たるもハッケ、当たらぬもハッケの世界です…

 ではまた次回をお楽しみに…

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