仁は、勝の所から仁友堂に戻ってくると、咲に「咲さん、龍馬さんは、一月後にあん…」ここまで言うと仁は、いつもの発作を起こします。その時、仁の頭の中に、過去の映像が蘇ります。
龍馬?(頭に包帯をした男)が「オマンは、ワシじゃ…」と言います。
未来は「きっとまた何時か会えるから…」と言います。
仁は「何だこれは…」と思います。
咲は仁の姿を見て「先生…!」と叫びます。
恭太郎は、上役に呼び出されていました。
上役が「オマエは、坂本と通じて、我らを謀ったのか…」と、恭太郎に言います。
恭太郎は上役に「謀ったわけではございませぬ。私に能力が無かっただけでございます。」と言います。
すると、上役は、「では、京に上って、坂本を討て…お主の妹は、仁友堂で坂本びいきの医者と一緒に居るそうではないか…」と言います。
恭太郎は「妹は、仁湯堂で医の道を学んでいるだけです…坂本殿とは何も関わりはございませぬ…」と言います。
上役は、不快感をあらわに「坂本殿…」と言うと立ち上がり、次の間の襖を開けて「この者たちと共に、坂本を討て…」と言います。そして「取り逃したら、母御と妹がどうなるか分かっているだろうな…」と言います。
咲は心配そうに、仁を見つめていました。そして「その頭痛は、真にただの持病でござますか…本当はガンなどでは…」と言います。
仁は「前にも説明したように、未来で調べた時には大丈夫でした…」と言います。
咲は、恐る恐る仁に聞きます。「先生は、いつもあんと言われたら頭痛を起こされます…あのう…あんは…暗殺のあんでございますか。」と
仁は「そうです…勝先生に伺ったら、龍馬さんの誕生日は11月15日だそうです…」と言います。
咲は「では、坂本殿は、28日後に…」と言います。
そこへ、佐分利祐輔がやって来ます。
祐輔は「起きはっても大丈夫ですか…」と言います。
仁は祐輔に「佐分利先生、一緒に京へ行ってくれませんか…」と言います。
祐輔は「ええですけど、何でですか…」と言います。
仁は「京で、患者が待っています…佐分利先生の力が必要になるような気がします…」と言います。
祐輔が「私の力がでっかー…」と言うと、仁は「お願いします…」と言います。
祐輔は、嬉しそうに「喜んで、何処までも…」と言います。
恭太郎は、旅立つ前に自宅で、刀の手入れをしていました。栄は、恭太郎の旅の支度をしていました。
栄は恭太郎に「橘は、三河以来(三河とは、徳川家の発祥の地で、この場合、三河以来と使う場合は、名門の家柄を意味します。)の旗本です。世がどうなろうとも確りお勤めしてください…」と言います。そして「道中の無事をお願いしてまいりました…体には気を付けるのですよ…」と言って、恭太郎の手に、お守り袋を渡します。
仁は、勝の屋敷に来ていました。
勝は仁に「これが、京までの通行手形です…」と言って渡します。仁は「ありがとうございます…」と言って、通行手形を受け取ります。この時代、まだ、往来の自由が無く、関八州や藩境を渡る時には、通行手形が必要でした。仁は急遽、京に行かねば成らなくなり、勝に手形を取ってもらったのだと思われます。
勝は仁に「先生が、助けに行かれる患者とは…アイツの事かい…」と言います。
仁は、何と言っていいか分からず「いいえ…」と答えます。
勝は仁に「まあいいよ…もし、そうだとしたら、オイラ、アイツに会ったら言ってやりたい事が山ほどある…だから、アイツの事を頼んだぜ…」と言います。勝は仁の様子を見て、何かを感じていました。
咲は、野風の部屋にいました。
野風が咲に「京に行かれると聞きましたが、もし坂本様とお会いになる事がありんしたら、この手紙を渡してくんなまし…」と言います。
咲は、どうしようか困った様子で「坂本様が、京にいらしゃるかどうか分かりませんが…」と言います。
野風は、咲の様子を感じ取りながらも「もし、京におられたらでありんす…」と言います。
咲は「はい…」と答えます。
咲は、仁の部屋にいました。
咲は、仁に「すでに先生は、歴史を変えられているのでは…」と聞きます。
仁は思います「歴史は、変えられないことはない…だが、龍馬さんを助ける前に、この頭痛に殺されることは無いのだろうか…考えるな…」と
仁と咲は、佐分利祐輔と一緒に、仁友堂から京へ旅立とうとしていました。
仁は、仁友堂のみんなに「留守をお願いします…」と言います。
山田純庵が「留守は確りお守りいたします…」と言います。
仁が「じゃー、お願いします…」と言うと、一行は旅立って行きます。その姿を通りの影から、アイツがにやりと笑いながら見ていました。奥医師の三隅俊斉です。何かをたくらんでいるようで、不気味さが感じられます。
咲は道中で、仁と二人になると「佐分利先生に同行を願われたのは、あれを防ぐ為にでございますか…」と聞きます。
仁は咲に「人では多い方が好いかと思いまして…」と言います。
仁は思います「何の根拠も無いけれど、オレは信じようとしていた…オレは龍馬さんを救う為にここに来たのだと…龍馬さんが、坂本龍馬が死なない歴史を作る為に、オレはここに来たのだと…ただ、ひたすらに信じようとしていた…」と
そして仁は、さらに思いだします「南方仁がおれば、オレは死なん…坂本龍馬は死なん……助けますよ、オレがこの手で…ただひたすらに信じようとした…
たとえ、龍馬さんが歴史のとおりに斬られたとしても、オレがその場にいれば、助けられるかもしれない…」と
その頃、恭太郎たちは、仁たちの後を追って、京へ向かっていました。
仁たちは、道中日が暮れて、旅籠に部屋を取っていました。しかし仁は、焦っていました。龍馬の誕生日までには、もう日が無かったからです。
仁は祐輔に「京までは、後どれくらいで着きますか…」と尋ねます。
祐輔は「十日位では…」と答えます。
仁は、どうしても気が焦るようで「私だけ先に行ってもいいですか…」と言います。
そこへ、咲がやって来ます。
咲は仁に「近在の村の人がやって来て、病人がいるので診てくれと言われましたが…ここいらには医者がいないようで…」と言います。
それでも仁は、焦りを隠しませんでした。
仁は、二人に「私は、一人で先に行こうかと…」と言います。
すると祐輔がたまりかねて「夜の街道をどうやって一人で行かれるのですか…危ないではないですか…何か訳でもあるのですか…」と言います。
仁は、困った表情で「訳は言えませんけど…」と言います。
結局三人は、近在の村へ往診に行くことになります。
恭太郎たちは、たまたま仁たちと同じ宿に泊まっていました。
恭太郎は、一人部屋にいました。そして、母へ遺書を書いていました。「この先、どのような事があったとしても、私は徳川家の為に働いて死んでいったとお思いください…」という内容でした。
そこへ、仲間の二人がやって来ます。
仲間は、恭太郎に「隣の部屋に南方たちがいるようだ…探ってまいれ…」と言います。恭太郎は言われるままに、仁たちを探りに行きます。
仁たちは、旅籠から出て往診へ行こうとしていました。そこへ、偶然を装ったふりをして恭太郎がやって来ます。
恭太郎は「咲ではないか…どうしてここに…」と声を掛けます。
仁と咲は、おどろきます。
咲が恭太郎に「兄上ではありませぬか…兄上こそどうしてここに…」と尋ねます。
恭太郎は、「お役目で京へ…」と言います。そして、「そちたちは何処へ行くのだ…」と言います。咲と仁は、何とも答えようがありませんでした。
すると、祐輔が「医学館の松本良順先生の御依頼で、京へまいります…」と答えました。
仁は「私たちは、これから近在の村に往診に行かねばなりませぬ…これで失礼します…」と言います。三人は、往診に行こうとするのですが…
恭太郎は仁に「お急ぎで申し訳ないのですが、咲と話をしたいのですが…」と言います。
仁は「どうぞ…」と言うと、祐輔と二人で先に往診に行きます。往診に行く途中で祐輔は、仁の只ならぬ表情を見て、「わしは、何か言うたらいかんことを言うたでしょうか…」と言います。仁は「いいえ、そんな事はありません…」と言いますが、その表情には、明らかに焦りの様なものが見えていました。
村に着くと案内人が「先生方、こちらへ…」と言って、家の戸をあけると、家の中には大勢の患者たちが集まっていました。仁と祐輔は、その様子を見るとため息交じりに「無医村か…」と言います。
恭太郎は咲に「橘の家に戻れぬか…先生さえ良いと仰るならば、共に戻って頂いては…」と言います。
咲は恭太郎に「茶化さないで下さいまし…」と言います。咲は、恭太郎の様子がおかしい事に気づきますが、その理由までは分かりませんでした。
恭太郎は、話を続けます。
「あの頃は、楽しかった…と思うてな…お前がいて、南方先生がいて、勝先生や緒方先生、坂本殿と…様々な方が橘の家に訪ねて来られた…この頃は、時を巻き戻せぬかとよく思う…」と
咲は「兄上…」と言います。そして、昔を懐かしむ恭太郎に不安を覚えます。
恭太郎は咲に「口には出されぬが、母上もそれを望んでおられるに違いない…」と言います。
咲は恭太郎に「考えてみます…」と答えます。
仁と祐輔が診察を終えたのは明け方でした。二人は旅籠に戻ると旅の用意をします。心の逸る仁は、先を急ぐ為に休息も取らずに旅籠を出ます。そこへ恭太郎がやって来ます。
仁は恭太郎に「恭太郎さん、見送りに…」と言います。
恭太郎は、険しい顔つきで仁に「先生に一つお願いがございます…咲の事を宜しくお願いします…」と言います。
仁は恭太郎に「ちゃんと危なくないように京へ…」と言います。
すると恭太郎は「咲の事を末永く宜しくお願いします…」と言います。仁は、どう答えればいいのか分かりませんでした。
すると咲は「すみません、先生…お忘れくださいまし…」と言って、取り繕います。
横から祐輔が慌てて「忘れるんですか…」と言います。
恭太郎の顔は、真剣そのものでした…
咲は、これ以上居た溜まれずに「まいりましょう…」と言います。三人は京へと向かいます。恭太郎は、頭を深々と下げて、三人を見送ります。恭太郎は心の中で、三人に別れを告げていました…
三人が出発して遠ざかると、恭太郎の元へ仲間の二人がやって来ます。そして、仲間の一人が「見失わないように、我らも立つぞ…」と言います。
京の薩摩藩邸では、龍馬が書き上げた、新政府の組閣とも言うべき人選を西郷や大久保たちが診ていました。薩長土、そして公卿と満遍なく振り分けられていました。
西郷は龍馬に「この〇〇〇は、どなたですか…一人だけ、何故〇〇〇なのですか…」と聞きます。
龍馬が分からないふりをすると大久保が「この〇〇〇は、慶喜候か…」と怒鳴ります。
龍馬は、とぼけた振りをして黙っています。
すると大久保が「徳川は最大の大名…政権を返上したにも関わらず、新政権を担おうと言うのか…」と言います。
龍馬は、すかさずその下知を取って「そりゃえー、さすがは大久保さん…徳川は、見ようによっては、新政権の最大の立役者じゃ…外せば必ずややこしい事になるやろしな…そりゃいいがや…」と言います。そして龍馬は、自分の言いたいことだけを言うと、その場を立ち去ろうとしますが、西郷が口を挟みます。
「待って下さい…坂本さんの名前が載ってないのは、なぜでごわす…」と…西郷は組閣名簿に、龍馬の名前が無いことを不思議に思います。
龍馬は西郷に「わしはのう、そろそろこういうことから身を引こうかと思っちょる…」と言います。
すると西郷は、龍馬に「やめて何ばするとでごわすか…」と聞きます。
龍馬は「わしはのう、世界の海援隊でもやろうかと思っちょる…西郷さん、海の向こうには、見たことも無いようなおなごが、山のようにおるそうじゃ…金の髪、赤い髪、黒い髪、赤い目、青い目、…雪のように白いおなごもおれば、つややかな褐色のおなごもおるそうじゃ…その声を聞いてみたいと思わんか…抱き合いたいと思わんか…」と言います。すると龍馬は、筆を取り、紙に「海縁隊」と書いて、西郷に見せます。
そして龍馬は「これからは、海の向こうのおなごと縁を結ぶと書いて『海縁隊』じゃ…」と言います。
西郷や大久保は、龍馬の言葉に呆気に取られますが、龍馬は「嘘じゃないぜよ…海縁隊じゃー…」と言って、その場を立ち去ります。
大久保は、龍馬のことを腹に据え兼ねたのか「またしても遣られた…もう、こりごりじゃ…」と言うと、立ち上がり、龍馬を追いかけようとしますが…西郷は大久保に「成らん…成らんぞ、一蔵どん…それはならん…」と叫びます。
大久保は、西郷に振り向くと「かわやに行くだけでごわす…吉之助さん…」と言ってその場を立ち去ります。
龍馬は、河原で小便をしていました。
東が龍馬に「早くしてください…こういう時が危険なのですから…」と言います。
龍馬は「小便位ゆっくりさせてくれんかのう…」と言います。
小便が終わって、龍馬が東の所へ来ると東は「あれでよかったのですか…新政府には加わらなくても良いのですか…」と、龍馬に尋ねます。
龍馬は東に「わしはのう、ええ加減な男でのう…尊王やら、攘夷やら…はやりもんに、直ぐに飛びついたところがあったんじゃ…けれど、その中で、山のような死にで会ったんじゃ…土佐の仲間や…久坂や長州兵、長州に討たれた幕府兵もおった…身を守るためとはいえ、この手で殺してしもうた役人や長州藩士もおった…」と言います。
そして龍馬は「そいつらが、もういっぺん生まれて来たいと思うような国にすることが、生き残った者の役割じゃち思った…今日まで走って来たんやけども、小便もゆっくり出来んような暮らしは、もうこりごりぜよ…」と言います。
東は、少し考えて「坂本さんらしいですね…」と言います。
龍馬は東に「オマンは、これからどうするんぜよ…」と聞きます。
東は少し考えて「ずっと、坂本さんの護衛をします…」と言います。
龍馬は嬉しそうに「そうかえ、けんどオマンは、やり残したことがあると言うとったんと違うかえ…それはかまわんのかえ…」と東に言います。
東は龍馬に「私の兄は志士で、やはり志半ばで倒れました…兄のやり残したことを代わりに果たしたいと思っていたのですが…坂本さんの大政奉還の建白書を読んだ時に…もう良いのではないかと思いました…この国にもう一度生まれて来たい…兄は、きっとそう思っているでしょう…」と言います。
龍馬は「よし、東…そしたらオマンも、世界中のおなごとアバンチュールぜよ…」と言います。すると、いつも小難しい顔をしている東が、にこっと笑顔になります。龍馬は東に「そんな顔をしとったか、オマンは…」と言います。
仁たち三人は、伏見の寺田屋に着きます。その様子を恭太郎たちは、物陰から見ていました。恭太郎の仲間の一人が「やはり、寺田屋か…」と言います。寺田屋は、龍馬の定宿だったからです。
女将のお登世が出て来ると、仁は「南方仁ですが…」と言います。女将のお登世は「あなたが、南方先生どすか…」と言います。そして、仁たちを歓迎します。 仁がお登世に「私が、龍馬さんに出した手紙を見せて頂けないでしょうか…」と言います。お登世は、不思議に思いますが、仁が出した龍馬宛の手紙を持って来ます。
お登世は仁に「先生からの文で、お預かりしているのは、これだけですが…」と言うと、数通の手紙を差し出します。仁は、手紙を確かめますが、出したはずの手紙が一通足りませんでした。
仁は、お登世に「これだけですか、他にはありませんか…」と聞きます。
お登世は「うちがお預かりしている手紙は、ここにあるだけです…」と言います。
仁は咲に「やはり、一通たりません…」と言います。そして仁は、お登世に「龍馬さんは、いらっしゃるでしょうか…」と聞きます。
お登世は「あいにく今は、坂本さんは、こちらにはおられまへんが…」と言います。京ではすでに、龍馬の身に危険が迫り、居場所を転々と変えているようでした。
お登世が「坂本はんに、何か御用ですか…」と言います。
すると佐分利祐輔が「坂本龍馬はんを診る為に、京まで来たのですか…」とおどろきます。咲はその場を取り繕うように「先生は、この十五日に、坂本様が大怪我をするという夢を見られたのです…」と言います。
お登世は、「夢で、坂本様がけがを…」と言います。
祐輔は、呆れた顔で「夢で京まで来たのですか…」と言います。
しかし、お登世は「的はずれではないかもしれませぬな…」と言います。
仁は、お登世の言葉に、龍馬が命を狙われ、危険にさらされている事を感じ、さらに焦ります。
仁は、お登世に「龍馬さんの居所は、分かりませんか…」と尋ねます。
その頃、江戸では、奥医師の三隅俊斉が、仁のいない仁友堂に罠を掛ける為に、南方仁の名前の入ったペニシリンを製造する為の免許状を作らせていました。
三隅俊斉は「評判どおりの腕じゃのう…」と独り言を言います。三隅の膝元には、贋作職人が倒れていました。三隅は職人に「飲みすぎたか…」と言いますが、その様子を見る限りでは、職人は三隅に毒殺されたようです。
仁たちは、龍馬を探す為に、京の街中を歩きまわっていました。恭太郎は、仁たちを後ろからこっそり付けていました。
仁たちは、橋の上で京の見回り組とすれ違います。
見回り組が「道を開けろ…」と怒鳴ります。
祐輔が「なんや、きりきりしてますな…なんでやろう…」と言います。
仁が「慶喜さんに、大政奉還をそそのかした者を探しているのでしょう…」と言います。
仁たちは、必死になって龍馬の居所を探しますが、見つかりません。薩摩藩邸などの屋敷に出かけて、「才谷(龍馬の変名)さんは、こちらに来ていませんか…もし来られたら、南方仁が来たとお伝え願えませんか…」と聞いても「そのような者は、当屋敷には出入りしておらん…」と門番にあしらわれるだけでした。
「龍馬さんが、隠れているのは事実…」仁の心は焦るばかりでした。
江戸の仁友堂では、留守を預かる山田純庵が他の面々と話をしていました。
「先生方は、そろそろ坂本様に会えましたかね…」
その時、仁友堂の門前で、騒動が起きます。大声を上げたり、石を投げつけられた音がして、純庵たちは、何事が起きたのかと思い、門前まで出て行きます。門前では、町民たちが、純庵たちに罵声を浴びせて、もみ合いになります。
そこへ、役人たちが現われて、「沈まれ…沈まれ、南方仁はおらぬか…」と大声を上げます。
純庵は「南方先生は、旅に出ておられます…」と言います。
すると役人は「ペニシリンに携っている者はおらぬか…」と言います。
純庵が「私が、差配でございますが…」と言うと、役人の頭が「この者を捕らえよ…」と言います。純庵は、突然の事におどろき、抵抗することも出来ませんでした。
京では、仁たちが懸命に龍馬のことを探し続けていました。
仁は、心の中で叫びます「もう明日ですよ、龍馬さん…」と
恭太郎は、仲間と一緒に、仁たちを付けていました。
仲間の一人が恭太郎に「このまま坂本が、見つからなければ良いと思っているのではないか…」と言います。恭太郎はただ「いいえ…」と答えるだけでした。
佐分利祐輔は、龍馬のことを探し回り、疲れていました。そして「えいかげんに出てこいや…」と叫びます。
龍馬は、京の小間物屋でかんざしを買っていました。
「これを包んでくれや…」と…すると、店の者が「ヘイ…」と答えます。
こうして、最後の一日が終わりました。
慶応三年十一月十五日、ついに龍馬が暗殺される日が遣って来ました。しかし、仁はあきらめませんでした。仁は、懸命に龍馬を探し続けます。そして仁は、ついに、龍馬の護衛をしている東の姿を見つけます。
東は仁に気が付きます。「先生では…」
仁も東に近寄り「東さん…」と声を掛けます。そして、「坂本さんの居所を知りませんか…もう時間が無い…伝えたいことがあるのですが…」と言います。
東は少しの間考えて「分からないように、離れて付いて来て下さい。私と一緒と悟られないように…」と言うと、先に歩き始めます。仁たちは、言われるがままに東について行きます。しかし、仁たちの後ろには、恭太郎と仲間たちの姿がありました。
見回り組の部屋に、料理が運ばれて来ました。一人の侍が椀の蓋を取ると、汁ではなく、丸められた紙が入っていました。それを広げると、中には「坂本、近江屋」と書かれていました。これは薩摩からの情報でした…
薩摩藩邸では、大久保一蔵が配下の者に、「中岡に、才谷が来たと伝えてこい…」と命じます。そして「オイ達は、燃える火に、油を一滴落とすだけじゃ…」と言います。
仁たちは、東の後を追って近江屋に入ります。東は、仁たちを案内して、龍馬の部屋に向かいます。部屋に入ると、龍馬の姿はありません。東の顔色が変わって、強張っていました。
仁は「いませんか…」と言います。そして心の中で「まさか龍馬さんはもう…暗殺されたのでは…」と思います。その時、仁の背中に銃を突きつける者がいました。仁が振り向くと、そこには、龍馬がいました。
龍馬は「久しぶりやのう…先生…」と言います。
仁は「龍馬さん…」と言います。その顔つきは、龍馬のことを思う気持ちで溢れていました。
東は龍馬に「一人では動かないようにと言っておいたでは無いですか…一人で動くのは危険です」と言います。龍馬は東の言葉を意に介せず、仁に保険の話を聞きます。
仁は龍馬に「そんな事より、京を出ましょう…ここは危険です…」と言います。仁は、どうにかして龍馬を京から連れだそうとしたのですが、龍馬は仁がそう言う理由が分かりませんでした。とりあえず場所を変えることになったのですが、その時、一階から龍馬の名を呼ぶ大声が聞こえます。
「龍馬!…」
仁は、刺客かと思い、龍馬を隠そうとしますが、そこに現れたのは、すごい剣幕の中岡慎太郎でした。
龍馬は「中岡か!…」と言います。
中岡は龍馬に「オマンは黙って…変なもん出して…」と言います。
仁は龍馬の姿を見て、いても立ってもいられないようになり「龍馬さん、早く京から出ましょう…」と言います。すると龍馬は、この男と話しをしてからじゃ…」と言います。その時、中岡の腹の虫が成ります。
龍馬は「そいじゃ、みんなと軍鶏でも食らうかい…」と言います。仁は「龍馬さん…」と心配します。
近江屋に客が来ます。
店の者が「どなたはんですか…」と言います。
客は「十津川郷士の物ですが、坂本殿はおいでになりますか…」と言います。
店の者が「坂本様は、いらしゃいません…」と言うと、客の侍たちは、店の中へ乗り込んで行きます。階段を上り、二階の龍馬の部屋に行くとそこには誰もいませんでした。
龍馬たちは、伏見の寺田屋にいました。龍馬の部屋には、軍鶏鍋の用意がされ、もう少しで火が通り食べられるように成っていました。
佐分利祐輔が「もう…先生と逸れた時は、どうなるかと思いました…」と言います。
中岡は「これで帰る…この様な所では話が出来ん…」と言って、部屋を出て行こうとします。
龍馬が「食うて行けばいいがや…」と言います。
中岡は、食べて行こうかなと一瞬思いますが、龍馬のことを心配する仁が、龍馬のことを少しでも早く京から連れ出す為に、中岡を返したかったのか「あの…ありがとうございました…」と言うと、中岡は、そこに居辛くなり、「明日又来る…」と言って出て行きます。龍馬は「明日な…」と言います。
中岡が、寺田屋から出て行くと、背後から恭太郎が見詰めていました。
寺田屋では、みんなで軍鶏鍋をつついていました。しかし、仁だけは気が気ではありません。
仁は咲に「後どれくらいで、日付が変わるのですか…」と聞きます。
咲は仁に「後もう少しです…」と答えます。
仁は龍馬に「それを食べたら、京を出ましょう…」と言います。
龍馬は仁に「ここは京のはずれ、出たも同じじゃ…」と言います。
中岡は、伏見の夜の町を一人で歩いていました。すると、向こうの路地裏の水桶の陰で、男たちの声がします。その声に中岡は気付きます。
「坂本は?…」
「取り逃がしたようだ…」
その時中岡は、頭巾をした集団に取り囲まれます。
中岡は、きりかかって来た男の顔を見ると「オマン…」と言いますが、その瞬間に切られて、倒れてしまいます。中岡は、自分を切った相手のことを知っているようでした。
「オマンの言うごと、食って出れば良かったぜよ…龍馬…」と、中岡が言うと中岡は絶命します。
寺田屋では、酒がすすみ、龍馬と祐輔が酒に酔っていました。
龍馬は仁に「保険のことをもう少し聞きたいがや…」と言います。
気の焦る仁は「保険のことは、また後で…もう存分に食べられたようなので、早く京を出ましょう…」と言いますが、龍馬は仁の言うことをなかなか聞き入れようとしません。その時、祐輔が無神経にも「野風さんが、子を産まれました…」と言います。龍馬は、また腰を落ち着かせて、話と酒を続けます。
東は、仁の只ならぬ様子を見て、何かを察知し「ちょっと外を見てまいります…」と言って、立ち上がり、部屋を出ようとします。
仁は「すいません、東さん…」と声を掛けます。
東が店の前に出ると、侍と出会います。東は、その侍に不審な者を感じ、物陰から見張る事にしました。
龍馬の部屋では、龍馬と祐輔が酒を飲みながら話し続けていました。その時、時を告げる鐘が成ります。
仁は咲に「鐘が鳴りました…咲さんこれで…」と言います。
咲は「はい、日が変わりました…」と言います。
仁と咲はほっとします。日付が変わったことにより、龍馬の暗殺は無くなり、歴史を変えることが出来たと思ったからです。
仁と咲の様子を見ていた龍馬は、やっと事の重大さに気付いたようで「咲さん、先生と二人にしてくれないか…大事な話があるので…」と言います。
寺田屋の外では、先ほどの侍がまだ立っていました。その様子を見ていた東は、侍に声を掛けます。「そこで何をしているのか…」と…
すると侍は「ここの宿に、親しい者が止まっておるので…」と言います。
東は侍に「ではなぜ、ここに一時も留っておるのだ…出まかせを言うな…」と言うと、東は、刀を抜きます。
その侍は、やはり恭太郎でした。そして、恭太郎も刀を抜きます。しかし、恭太郎は走ってその場を立ち去ります。東は、恭太郎の後を追います。
寺田屋の中では、仁と龍馬が二人で話をしていました。
龍馬は「先生、わしは昨日、殺されるはずじゃったのかえ…そんで、先生はわざわざ京くんだりまで、わしを守りに来てくれたのかえ…」と聞きます。龍馬は、もともと感の鋭い人なので、薄々は気付いていたようです。
仁は笑いながら「約束したではないですか…」と答えます。
龍馬は「約束…」と問いただします。
仁は「覚えてなくても別にいいですけど…」と言います。
龍馬は、仁を見つめて「まっこと先生は、いいなあ…」と言います。そして「ところで先生、わしはそろそろおらんでいいかい…」と聞きます。
仁は、返事に困ります。
さらに龍馬は「もうこのへんで、国にかかわることは、やめてもいいかえ…」と聞きます。
仁は「何で私にそんなことを聞くのですか…」と言います。
龍馬は「先生は、わしの道しるべじゃ…初めて会った頃、わしはよう分らんままに、攘夷派の志士を気取っとった…これは正しいかと迷っとたら…他に何をしていいか分からんまま流されとった…
けんど、先生がたった一人でコロリの治療ば遣りよるのば見て、わしも恐れずに、自分が正しいと思うことをやろうと思うたがや…長州の戦の時もそうじゃった…この戦は必要な戦じゃ、これしかないち、無理に己に言い聞かせちょった…
暴力は暴力を産むと先生に怒られて…わしゃもういっぺん考えてみようと思うたんじゃ…
先生は、わしにとって夜の海の道標じゃ…わしは、ただそこに向こうて進んだだけのような気がするぜよ…」と言います。
仁は、ただ嬉しいと思いました。
龍馬は、懐から拳銃を出して、畳の上に置きます。そして
「けんど、もうこんなもんを持ち歩く暮らしはこりごりじゃ…他に遣りたいこともあるし…ここらで、手を引こうかと思うちょるんやが…」
仁には、なぜか別れの言葉に聞こえました。
龍馬は仁に「どうしたがや、先生…」と言います。
仁は思います「龍馬さんとオレとの別れの時が来たのかも知れない…本当のことを打ち明けよう…」と…そして
仁は「龍馬さん、私は龍馬さんの声に導かれて…」ここまで言うと、いつもの発作に襲われます。
寺田屋の外では、恭太郎と東との斬り合いが続いていました。
東は恭太郎に「坂本さんを斬ろうとも、時の流れは戻らないぜ…徳川の時代は終わったんだ…何故そのように無駄なことをするのか…」と言います。
恭太郎は東に「私には、これしかないのだ…」と言います。恭太郎は、気合いを入れて東に斬りかかります。恭太郎の背後には、仲間の二人の侍もいました。
寺田屋の中では、仁が苦しんでいました。いつもの発作よりはひどく、その様子を見ていた龍馬は驚きます。そして
「咲さんを連れてくる…」と言って、部屋を出ます。
仁は、龍馬に本当のことを伝えようとするのですが「龍馬さん…」この先が言葉に成りません。仁は、苦しみながらも「こんな時に…まさか…」と思います。
咲が「先生…」と言って部屋に入って来ます。龍馬は、水を汲みにまた下へ行きます。
龍馬は、水を汲んでいると外の騒がしさに気付きます。窓から外を見ると、東が何者かと死闘を繰り広げているところを見ます。龍馬は外に出て「東…何をしよる…」と言います。
東は龍馬に「来ないでください…逃げて…」と大声で叫びます。
龍馬は、懐の銃を取り出そうとしますが、銃はありませんでした。銃は、部屋に置いたままだったのです。
恭太郎は、丸腰の龍馬の所に向かいます。東は、他の二人と戦っているので、龍馬の所には行けません。
外の物音に気付いた仁と咲が降りて来ます。仁は咲に支えられて歩くのがやっとでした…そして、咲の眼に映ったのは、兄が龍馬に襲いかかろうとしている姿でした。
咲は「兄上…」と叫びます。
龍馬は、恭太郎の事情を察します。そして
「咲さんと栄さんを人質に取られたか…」と言います。
恭太郎がひるんでいると、仲間が「はようせい…橘…」と声を掛けます。
龍馬は恭太郎に「わしを斬ったら死ぬつもりか…まっことそれより他に道は無いのか…」と言います。
仁が、声を振り絞って「恭太郎さんやめろ…」と叫びます。するとまた、恭太郎の仲間が「はようせい…」と、恭太郎をせかせます。
恭太郎は「ごめん…」と言って龍馬に斬りかかります。
仁が「やめろ…」と叫びます。
東が「坂本さん…」と叫びながら、恭太郎の刀を振り払います。すると恭太郎は、勢い余って地面に倒れ込みます。その時、恭太郎の仲間が、龍馬に襲いかかります。
その時、東は不思議な行動をします。東の刀は、恭太郎の仲間ではなく、龍馬へと向かいました。そして、龍馬は東の刀で額を斬られ倒れます。
仁の「龍馬さん…龍馬さん…」と言う叫び声が響き渡ります。
今週は、ここで終わります。次週へと続きます。
今週は、坂本龍馬の暗殺について、物語は描いていました。
仁では、龍馬の暗殺は寺田屋で起きたように成っていますが、実際は、近江屋で行われています。そして、龍馬と中岡は別々に殺されたのではなく、二人で会談をしている時に、不意打ちされたものです。また、犯人はいろいろな説があるようですが、現在のところ、見回り組が有力な説に成っています。
それから、個性の強い人だから、やはり薩摩からは、かなり煙たがられてもいたようです。薩摩としては、武力による倒幕を目指していたのですから、大政奉還という途轍もないことをされてしまったのですから仕方のない事かも知れません。龍馬の死後、江戸城は無血開城されるのですが、それ以後は、東北・函館と血で血を洗う戦と成って行くのは有名な話です。これも、大政奉還の余波なのかもしれません。
坂本龍馬は、北辰一刀流の免許皆伝で、道場の師範代をしていました。それもただの師範代ではなく、歴代の師範代の中でも優秀だったそうです。だから、たとえ丸腰でも不意打ちを食らわなかったなら、かなりの抵抗が出来たように思います。ただ、仁ではそんな描き方はされていませんでした。
それから、龍馬と言えば、妻はお竜さんですが、寺田屋事件の時にちょっと顔を出しただけで、他には登場していません。今回も、見ている限りでは、龍馬を独身として描いているように思われます。これはたぶん、今でも野風のことを愛しているという設定なのかもしれませんが、あまりにも有名なお竜さんの扱い方をそのようにしていいのだろうかと思いました。
それから、龍馬をあまりにも下品に描き過ぎていたのではないでしょうか。わざわざ、金髪だの褐色の肌の女だのという表現はする必要が無かったのではないでしょうか。官職には就かず、世界の海援隊をするで良かったのではないでしょうか。実際、海援隊を引き継いだ、岩崎弥太郎は、海運業を起こし、そこから世界の三菱と成って行くのですから、こういうとらえ方をするのは、なんか寂しいような気がします。龍馬は、女性を蔑視していたと思われかねないのではないでしょうか。
最後に、恭太郎を通して、幕末の武士の生き方を描いているような気がしました。友情や私的感情は抑えて、幕命を優先させなければならない恭太郎の心が良く描かれていたと思います。咲に家に帰るように言うところや、仁に咲の事をお願いする場面では、恭太郎はすでに、死を覚悟していたと思います。残して行く、家族の事を思いながらも、大義の為に生きなければならない武士の世界は辛いですね。
それでは、今週はこのへんで終わります。次週はいよいよ最終回です。70分の特別編成で放映されるようです。最終回はどうなるのでしょうか、楽しみにしています。
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