この作品、韓流ドラマ特有の恨み辛みに足の引っ張り合いが無く、実に好い作品でした。原作が秋元康の「象の背中」だから、日本人にも理解しやすいのかもしれません。私は原作を読んでいないので分かりませんが、ドラマとは少し内容が違い、愛人問題など男の身勝手という批判もあるようです。さすがに儒教社会の韓国では、直に取り上げる事が出来なかったのかもしれません。しかし、それが返って私の胸を打ったのかもしれません。病で死に直面した主人公のキム・ドッスが、昭和の親父に見えて仕方ありませんでした。そして、基本的に日韓の心情には、相通じる物があるように思いました。
最近の日韓関係は、韓流ブームが去って、嫌韓が蔓延り、悪化の一途をたどっています。近親増悪と言うべきか、イギリスとアイルランド、最近ではイングランドとスコットランドにも何処か似ているような気がします。朴槿惠大統領は、恨みを忘れるのに千年かかると言われましたが、ご存じのように元寇(高麗も参戦していた)からは千年たっていません。お互い様と言うところでしょうか。また、中国は朝鮮戦争に参戦して、多くの韓国人を殺傷していますが、わずか数十年で、韓中の現在の親密ぶりは何なのでしょうか。韓国は、中国に侵略される事に慣れ過ぎているような気がします。このような結果、日頃の鬱憤も重なり、日本のネットでは、韓流排除の声が高まっています。しかし私は、その考えには反対です。
第二次世界大戦中、我国では、敵性語などと言って、アメリカの文化などを排除しましたが、アメリカでは日本の文化を徹底的に研究しました。結果は歴史が証明しています。マンネリ化した韓流ドラマを見て、日本人にはドギツクて、ウンザリします。しかし、このハッピーエンディングのような好い作品もあります。これからは、韓流も質が試される時代なのかもしれません。
前置きは、この位にしておいて、物語のあらすじを書いておきます。
主人公のキム・ドッスは、テレビの報道局の次長で、出世に興味の無いバリバリの報道記者。家庭を顧みない仕事の鬼で、部下達からは、恐怖心を持たれながらも慕われていました。そんなキム・ドッスが、ある日突然、ガンで余命半年と宣告されたのです。
ドッスは、親友で医師のジェホから、すぐに入院するようにと言われるのですが、治療しても完治する見込みが少ないと知り、家族にお金を残す為に、通院しながらの治療を選択します。妻のヤン・ソナには、気持ちの整理が出来るまでは知らせないで欲しいと頼みます。最初の抗がん剤治療の時、付き添いに呼んだのは、初恋の人で今では親友のホン・エランでした。(エランは未亡人で、二人の女の子がいた。)
エランは、「奥さんに知らせるべきだ…」と言うのですが、ドッスは「妻の悲しんで、取り乱す姿を見たくない…」と言い拒否します。
抗がん剤治療の後、エランが車でドッスを自宅に送り、門の前でハグをしているところをソナが偶然に見ます。ソナは、ドッスが浮気をしていると思い込み、悩んでエランに会うのですが、エランはソナに、ドッスが末期がんだということを告げます。ソナは御礼を言って、以後の付き添いを断わるのですが、女の感は、複雑な思いを巡らせます。エランはこれ以後、ドッスに会いたい気持ちを抑えて、会うのをひかえます。
エランの長女ナヨンは、学生時代に偶然ドッスの取材現場を見て憧れ、同じテレビ局に記者として入社していました。ナヨンはエランに、親子であることを上司のドッスには秘密にして欲しいとたのんでいました。ドッスはナヨンを有望な若手記者として鍛えるのですが、ナヨンはそれをいじめと受け取り、ドッスを嫌って、いつも喧嘩をしているような口調で話していました。
ドッスは通院しながら、あらゆる治療を受けるのですが、効果が表れません。そしてジェホから、これ以上の治療は無意味だと宣告されます。ドッスが余命を聞くと、ジェホは四カ月と答えました。以後、痛みを緩和するだけの治療を受けます。
ドッスは自分の死後、ソナや家族の生活が成り立つようにブックカフェの店舗を探します。そして退職金の前払いを受け、ソナを説得して契約をします。
そんな事情を知らない二女のウナは、独立すると言って家を出ます。死ぬまで家族と一緒に過ごしたいと思っていたドッスは、長女クマの夫テビョンに病状を打ち明け、ウナを連れ戻させます。すると今度は、名門ソウル大学に合格間違いなしと言われていた、末っ子で長男のドンハが、歌手になると言って家出をします。ドッスは知り合いの刑事にドンハの行方を探してもらい、自分の病状を話します。そして、歌手になっても好いから、大学には行きなさいと諭します。長女の夫テビョンは、司法試験七浪中でドッスに養われていましたが、合格を諦めて職を探し始めます。ドッスは、病状の悪化を自覚して、テレビ局を退職します。その時、自分の取材ノートをナヨンに託します。
ある日のこと、ドッスはエランに呼び出され、「ヨナンは、あなたの娘です。」と打ち明けられます。ドッスは青天の霹靂でした。「何で今頃…」と…エランは「打ち明けるつもりはなかったのだが、ナヨンが偶然に知ってしまった…母が事件を起こし、夜逃げをした後に妊娠していることに気付いたの…ほとぼりが冷めて故郷に戻ると、あなたは大学入学の為にソウルに行っていた…あなたの居場所を見つけた時には、すでにあなたはソナさんと結婚していた…」と言います。
ナヨンは、引き継いだ取材ノートを口実に、頻繁にドスの見舞いにやって来ます。お互い父と娘と分かっていても決して口には出さず、少しぎこちなく感じられても口調は変わりませんでした。ドッスと別れた後のナヨンの涙が、父への愛を物語っていました。また、以前からメールでプロポーズされていたオーストラリアの獣医イ・ソンフンをドッスに紹介して、品定めをしてもらいます。ドッスのOKサインが出ると、トントン拍子で結婚することになります。そんな様子を近くで見ていたソナが、ナヨンはドッスの娘ではないかと気付くのですが、決して口には出しませんでした。
病状が悪化して体力の低下を感じたドッスは、最後の家族旅行をして「愛し合おう」という家訓を残し、自らの決断でホスピスに入院します。ドッスはソナに、「付き添いに付くよりは、ブックカフェで働いてくれ…その方が安心するから…」と言ってソナを店に出させます。家族は、交代で付き添う様に成ります。ナヨンはエランに「私の事で、お見舞いに行けなくなってごめんね…」と謝りますが、エランは「会えなくても、お互い気持は分かり合っているから…」と言います。
ドッスは痛み止めのモルヒネのせいで、昼間も朦朧とした生活を送っていました。ドッスはジェホに「こんな生活は嫌だ、モルヒネを減らしてくれ…」と言います。しかし、モルヒネを減らすと、ドッスに容赦のない痛みが襲って来ました。ドッスは痛みに耐えながらジェホに「あとどれくらい生きられる…」と聞くと、ジェホは「今月の終わりぐらいだろう…」と答えました。
ナヨンは、病室に来て「プロポーズされました…式は、来年の春です…」と言います。ドッスは「すまない…オレは行けない…」と言います。ナヨンは「次長は、初対面で同席してくれました…充分です……実は彼もここに来ているんです…次長に挨拶したいけど、迷惑なら帰ると言っています…」と言います。ドッスは、かすれた声で「いいや…中に呼んでくれ…早く…早く…」と言います。ナヨンは、嬉しそうな表情で「はい」と言うと、ソンフンを呼びに行きます。ドッスはソンフンの手を握り「彼女を…大事にしろ…それと…資産運用は絶対に…彼女に任せるな…」と言います。ドッスは幸せそうに微笑みます。その様子を見ていたナヨンも、涙ぐみながら微笑みます。
ドッスの死が近いことを知ったエランは、報道局長を呼び出して、退職金の割増金と言って、お金を渡してくれ…と頼みます。最初、報道局長は断るのですが、エランは、ドゥスが少しでも安心して最期を迎えられるようにするため、ドンハの大学の4年間の学費に相当するお金ですから…と言って、報道局長を納得させます。
ソナが付き添っているとドッスは、自分と同じ病に苦しむ人たちのために、少しでも役立ちたいと思い、自分が死んだ後、がんの治療研究の為に献体するように頼みます。
テビョンは、仕事を終えて、ドッスの見舞いに来ていました。ドッスがテビョンに「キツイか…」と聞くと、テビョンは「はい…」と答えます。しかし、その表情はさえませんでした。ドッスはテビョンに「だがな…みんなそうやって生きている……テビョン…司法試験…諦めきれないだろう……テビョン…勉強を続けろ…」と言うと、テビョンの顔の前で右手の親指を立てて「全力で走れ…お前を信じるぞ…」と言います。
ソナがドッスを日光浴させていると、ドッスの指から指輪が外れます。ソナが「指が細くなったのね…家で大事にしまっておくわ…」と言うと、ドッスは「いいや…糸を巻いてくれ…」と言います。ソナが指輪に糸を巻きながら「あなた…私と一緒に暮らしてて…指輪を外したいと思った事は?…」と聞きます。ドッスは「ない」と答えます。ソナは微笑みながら「ウソでしょう…」と言います。ドッスは「いいや…ないよ……ソナ…すまない…」と言います。ソナは「私もごめんね…大事なあなたの事を…もっと愛することが出来なくて…」と言います。するとドッスも「俺も……本当に…愛してた…」と言います。ソナは、はにかむように涙を拭きながら「出来た…はめてあげる…」と言うと、指輪をドッスの指に戻しました。ソナはドッスの顔に近付くようにして「永遠に離れないわ…」と言うと、涙があふれ出し我慢できなくなって、ドッスの胸に顔をうずめます。
いよいよドッスの死が近づいてきた夜。付き添いが誰もいない頃を見計らって、エランはドッスの部屋に来ました。エランがドッスに「怖い…」と聞くと、ドッスは首を小さく横に振りました。エランは「あなたは私の大事な幼馴染で、同級生で、初恋の人で…そして今まで、私の苦しみでありつづけた…これからは…」と言うと、ドッスが「思い出…」と言います。エランは、頷きながら「そうよ…」と答えました。そして「思い出になる…友達のドッス……もう、ここには…来ない…」と言うと、涙を流しながらドッスの手を握ります。エランは静かに部屋を出ると溜息をつき、想いをかみしめるようにその場を去って行きました。
ドッスには、我慢の出来ないほどの痛みが襲って来ます。ジェホと若い医者と看護士が駆けつけて来ます。ドッスは「痛み止めを頼む…モルヒネを打ってくれ…痛いんだ…」と懸命に訴えます。若い医者と看護士は部屋から飛び出して行きます。ジェホは、痛みを訴えるドッスを抱くようにして「大丈夫か…少しだけ我慢するんだ…耐えろ…」と言います。ドッスは、苦しみながら絞り出すように「ジェホ…オレはもっと生きたい…」と言います。
翌日、家族それぞれに危篤の知らせが伝わります。それぞれが制服のまま、普段着のままでドッスの病室に駆けつけます。
家族全員がドッスを見守るなか、ドッスは「故郷へ帰りたい…父さんに会いたい…」と…父親を悲しませたくないと言う思いから、会わないようにしていたのですが、最後の最後になって、父のもとへ帰りたいと訴えたのです。ソナは病室から出るとジェホに「サムチョク(故郷)に連れて行ってあげたいんです…」と言います。ジェホは「今の状態では難しい…」と答えるのですが、ソナは「そこをお願いします…最後の願いになるかも…ジェホさん…」と頼み込みます。ジェホは、仕方ないと言う表情で「では、救急車を手配して、僕も同行します…」と言います。
ジェホはエランに「ドッスが、そろそろだと思う…」と電話します。エランは折り返しナヨンに電話します。ナヨンの顔が見る見るうちに崩れて行きます。そして「ええ…分かった…」と言うと、我慢しきれなくなり、手で顔を覆って泣き崩れます。ドッスは救急車に乗せられて故郷へ戻ります。子供達はテビョンの運転する車で救急車の後からついて行きます。
ドッスが自宅の前に付くと待っていた父親は、動揺を抑えながらドッスに近付いて来ます。そしてドッスの手を握ると「良く帰ってきたな…疲れただろう…」と言うと、両手でドッスの顔をさするようにして頬ずりをします。家族は二人の様子を見つめながら、ただ涙を流すだけでした。ドッスの父親は、車いすの後ろに回り、握り手を持ち「行こう…」と言うと、車いすを押し始めます。
ドッスの乗った車いすは、家には向かわずにUターンをして、海の方へと向かいます。漁船が港を出て行く、幼いころに見慣れた風景が…家族は二人を遠巻きにしてじっと見つめていました。岬の灯台に付くと、父親は車いすを押すのを止めて、ドッスの目の前に腰を屈めます。ドッスは父親に「幸せだよ…オレは幸せ者だ…愛してる父さん…」と言います。父親は、頷きながらじっと聞いているだけでした。父親がドッスの車いすを家族のいる方向に向けると、ドッスの脳裏には、家族との思い出が走馬灯のように甦って来ました。そして、次第に目が閉じて行き、息が途絶えました。父親はドッスを抱きしめながら、噛みしめるようにして泣いていました。そんな様子を海鳥が空から眺めていました。
一年後、ブックカフェは軌道に乗り、ソナは元気に働いていました。テビョンは司法試験に受かり、修習生として研修に追われていました。長女クマはブックカフェで働きながら詩の勉強をして詩集を出版する程になり、その娘ジミンは、元気に小学校に通っていました。長男ドンハは、ソウル大学に合格して、大学に通いながら歌手デビューを果たしました。二女ウナは、ドッスの治療に当たっていた若い医者と偶然に出会い交際をはじめます。
エランは、自分の経営するレストランで明るく働いていました。ナヨンは結婚して、お腹が大きくなっていました。ナヨンは夫と二人で頻繁にエランのもとに顔を見せに来ていました。幸せそのものの家族でした。
ソナは一日の終わりに日記を自室で書いていました。「まだ、夫のいない世界に適応できていないようだ…クマの詩集初出版も…テビョンさんの司法試験合格も…ウナの昇進も…ドンハのデビューも夫への申し訳なさが伴った…私は、こんなにも幸せだけど、彼はどうだろうか…忘れるにはその人と過ごした倍の時間が要る…私は永遠に夫を忘れられそうにない……あなた…今日はとても疲れた一日だったの…もう寝るわ…おやすみなさい…」
ソナはエランに会いに来ていました。「先日、ジェホが店に来たときに…ナヨンさんが妊娠したと聞きました…知らんぷりが出来なくて…産着とベビー用品を少しだけ…」と言うと、持って来た紙袋を差し出しました。エランは笑顔で「ありがとうございます。娘に渡しますね…」と答えました。ソナは「もっと早く聞いていたら、早めに伺えたのに…母子ともに健康で?…」と尋ねます。エランは笑顔で「おかげさまで…」と答えました。しかし、何処となくぎこちなさも残っていました。エランが「カフェは順調ですか?」と尋ねると、ソナは笑顔で「ええ、楽しめてます…一日がとても早くて…」と答えました。そして「夫が亡くなった後も、あなたと話せるなんて…ナヨンさんのおかげですね…」と言うと、エランは「来てくれてありがとう…」と答えました。ソナが「これからも時々、こうして会いたいですね…」と言うと、エランは「喜んで…」と言います。ソナは「夫と出会うより先に、あなたと出会っていたら友達になっていたと思う…」と言います。エランは「今日からなれるは…一年なんて本当に早い…明日はご家族でサンチョク(故郷)に?…」と尋ねます。ソナが「ええ」と答えるとエランは「御気を付けて…」と言いました。実に不思議な関係が漂っていました…
その夜、ナヨンの実家では、ソナからの贈り物が広げられていました。ナヨンは「次長の奥さんが私に?…有り難いわ…見て、すごく可愛い…お礼の電話しなきゃ…お母さん…明日は、次長の命日でしょう…私達も教会で祈ろう…」と言いました。エランは、笑顔で頷きます。ナヨンは「次長に、とっても感謝しているの…たくさんの贈り物をくれた…記者になったのも…好い記者を目指したのも…伴侶を見つけたのも…次長との出会いがなければ違っていたわ…」と言います。するとエランが「そうかな…」と言います。ナヨンは「今がとても幸せよ…次長に感謝してるよ…」と答えます。エランは「あなたのような…可愛い娘に育ててね…」と言います。ナヨンは笑顔で「可愛いおばあちゃんになってね…」と言います。
ドッスの父親は、自分で獲ってきた魚を天日干しにしていました。そこへソナ一家が遣って来ました。祭祀の後、ソナはドッスの父親と灯台のある岬を散歩していました。ドッスの父親が「大丈夫だ…」と言うと、ソナは「ちゃんと食べて下さい…」と声を掛けます。二人は、子供や孫達が仲良く魚釣りをしている姿を見つめていました。ソナが「体の調子はどうですか…」と尋ねると、ドッスの父親は「俺は大丈夫だ…」と答えました。ソナは「少しでも具合が悪い時は、直ぐに私か義妹に…」と言います。ドッスの父親は笑顔で「ああ…」と答えました。
その後、家族は海辺で楽しそうに過ごしました。ドッスの残した家訓「愛し合おう」のように…
エランの秘めた愛情とソナの妻としての愛情のはざまで、ドッスの揺れ動く心…冷たい女の火花が飛び交い、突然現れた娘に、ただただ戸惑うドッス…
お互い父と娘と知りながら、決して名のり合わないドッスとナヨン…私は名のり合っても良さそうなものと思ったのですが、これは日本人的考え方なのかもしれません。韓国では、伝統的に嫡子と庶子の差別があるようですし、ナヨンの場合、養父の籍に入っているのだから、実の娘として育ててくれた、亡くなった養父への思いもあったのでしょう…ドッスの死後、ソナがナヨンに産着を送った事で救われたような気がしました。いずれ姉妹弟の名乗りを上げる日も来るのではないかと…せめて、ドッスの祭祀には参列できるようになればいいなと…
弟が早世し、自分までもが父よりも先に逝くかと思うと、父に病気の事を告げられなかったドッス…偶然に曾孫から息子の病を知らされて、病院に駆けつけるのですが、病室のドアを開ける事が出来ずに、帰って行く老いた父親…その父の後ろ姿を見て複雑な思いに駆られるドッス…夫として父として、妻や子の行く末を案じ、息子として年老いた父を残して逝かねばならぬドッスの心情がよく描かれていたような気がします。
このドラマ、あまり派手さはありませんでしたが、日本人にも良く理解できるドラマでした。