2013年10月30日水曜日

韓流ドラマ「トンイ」の原作本を読んで思うこと

韓流ドラマ「トンイ」の原作本を読んで思うこと

 韓流ドラマ「トンイ」を見るのは、BS放送・インターネットの動画サイト・現在放映中の地上波放送を含めて三回目なのだが、何回見ても面白い。しかし、原作本を読み始めて最初に感じた事は、シナリオを精査しただけではないかと思った。ドラマのカット割りと全く同じような気がした。ドラマの場合、演技やバックミュージックが伴っているので理解しやすいが、文字だけでは物語がポンポン飛んで理解しにくいと思った。私の場合、ドラマを見ているので、文字を読めば情景が目に浮かんでくるのだが、ドラマを見ていない人は、何が何だか分からないのではないかと思った。上下二巻各1600円+税、損した…高過ぎると思った。しかし、読み進むに従って、少しずつドラマとは違う部分が出て来て、シナリオをただ精査しただけではないのだと思い、面白さを感じ始めた。
 チ・ジニ演じる王様(粛宗・スクチョン)は、ドラマでは少し軟弱で頼りない部分があるのだが、原作本では男臭さが感じられ、王としての強さが描かれているような気がした。トンイの兄の友人で、トンイが兄の様に慕っているチャ・チョンスは、ドラマではオジャギン(死体検視人)から武官となり、宮廷でトンイを守り出世していくのだが、原作本ではトンイの父の後を継いだコムゲの頭として描かれている。オジャギンから武官に成るのだが軍卒止まりで、トンイがコムゲの頭の娘だとバレルと直ぐに宮廷を去り宮廷外からトンイを守り続ける。武将のソ・ヨンギは、ドラマでは王から信頼されている武将で、終始トンイを見守り続けるのだが、原作本ではトンイの秘密を知ると、トンイを守る為に王様に嘘をついて辞職する。これに対して流人の両班シム・ウンテクは、ドラマよりも原作本の方がより重要人物として描かれている。トンイと共に宮廷に返り咲くと、トンイと西人や王妃との調整役など政治的にトンイを守り続け、トンイの死後もチャ・チョンスと力を合わせながらトンイの子(ヨニングン)を守り続ける。宮廷でトンイに仕える宮女は、ドラマでは、ボン・マルグム(尚宮)とエジョン(宮女)が監察府から移動して仕え、トンイを指導していたチョン尚宮や親友のチョンイムは、あえて監察府に残るように描かれているのだが、原作本ではチョンイムとチョン尚宮がトンイに仕える様に描かれている。
 またストーリーもドラマと原作本では少し違いがあった。ドラマでは監察宮女のトンイが、内官が汚職をした証拠書類を宮廷から持ち出して逃げるのだが、原作本では、牢屋の中にオクチョン(世子の母)の「蝶の鍵飾り」を埋め隠して逃げて行く。トンイが逃げる途中で、弓矢で射られるシーンは、原作本では、船で逃げているところを陸から弓矢で射られ、川に落ちて流される様に書かれていた。また、王の側室となったトンイは、ドラマでは王の信頼が厚く、監察府の責任者となり、宮廷で重きをなすのだが、原作本では、民の救済に力を注ぎ、政治とは関わらないように描かれている。中宮を姉か母の様に慕うのだが、宮廷では賎民の出と軽んじられている。最も違う点は、ドラマではトンイが宮廷から追放され、宮廷の外でヨニングンを育てている様に描かれていたが、原作本では、ヨニングンの病気療養で宮廷外に出る事はあっても基本的には宮廷内で生活をしているように書かれていた。全体的にみるとドラマでは、軽いタッチでトンイのサクセスストーリーを前面に出しているような気がするのだが、原作本では、少し重いタッチで描かれているような気がする。身分差別や宮廷の政治力学が前面に出ているような気がした。こんなトンイも有りかなと言う気がした。
 読み終わって、作者はどんな人かなと思いながら説明の欄を見てみると、キム・イヨン,チョン・ジェイン(ノベライズ)と書いてあった。ノベライズって、どういう意味だろうと思って、パソコンで検索してみたら、ヒットした映画やテレビドラマのシナリオを小説化する事 と書いてあった。ああ、やっぱりかと思った。キム・イヨンさんがシナリオを書き、チョン・ジェインさんが小説化したと言う訳なのだろう。原作本は原作本として評価はするが、どうせシナリオを小説化するのなら、もう少しドラマと小説の整合性を取った方がいいと思う。その上で、ドラマを見ていなくても理解できる文章にすべきだと思う。これまで韓流ドラマの原作本は、「風の絵師」「成均館スギャンダル(成均館儒生たちの日々)」と読んだのだが、ドラマと多少の違いは有っても本を読むだけでドラマが解った。成均館スキャンダルでは、「奎章閣閣臣たちの日々」と言う続編があり、ドラマ以後のストーリが完結していて興味が持てた。いずれも小説からドラマ化したものだ。どちらが良いとは言えないが、ノベライズするのならばもう少し読者に配慮した作品に仕上げて欲しいものだ。これでは、上下二巻各1600円+税は高すぎる。

追記






 それにしてもイ・ビョンフンという演出家は凄いと思った。「宮廷女官チャングムの誓い」「イ・サン」「トンイ」「馬医」と立て続けにNHKで放映されているのだから…今までにこの様な事があっただろうか…BS・地上波を含めて視聴率はどのくらいかは知らないが、私はどれも大好きだ。料理・絵画・音楽・医学と朝鮮の宮廷文化や身分制度などが良く理解できる。ほんの数行の史実から物語を作り出す力や自国の文化をドラマで紹介しようと言う意欲が感じられる。あまり史実に縛られていないのが、返って好いのかもしれない。日本の場合は、正史とは別に旧家(上は公家大名から下は庄屋程度まで)などの古文書もあり、史実に逆らう事が出来ないのかもしれない。